第143話 おでんの試食と肉まんに屋台への道を見出す。
――ダンノージュ侯爵領の飲食店サルビアで出す新商品【おでん】。
皆さんの前に並ぶ様々な具材は【アカサギ商店】から買い付けた物で、やはり東の大陸には日本に似た場所があるのだと嬉しくなったほどですわ!
また、アカサギ商店でもこれ等の商品をどう売るべきか悩んでいたらしく、買い取りはとても助かったとの事でしたの。
さて、おでんの感想は如何に――?
「今日の晩御飯は、主婦の皆様方に頼んでダンノージュ侯爵領の飲食店で、冬限定でお出ししようとしている【おでん】と呼ばれる料理ですわ」
「へぇ……なんか熱そうだね」
「冬に食べたら身体が温まると思いますの。朝のカレーパンの代わりにお出しするのもアリかなと思っているのですが、どうかしら?」
「そうなると、紙皿とかが必要になってくるな」
「ええ、おでんをお出しする時は、珈琲は無し、おでん汁をシッカリ頂いて貰おうかと。御出汁もタップリで美味しいですわよ」
そう言うと、今回作ったおでんの具――卵、練り物、牛筋肉、大根、ソーセージを皆さんのお皿に並べましたわ。
まずは実食って大事ですわよね!
「わたくし達より先に食べていた皆さんには好評だったんですけれど、どうぞ食べてみて下さいませ」
「「「頂きます」」」
そう言うと、皆さんフォークで思い思いにおでんを食べ始められましたわ。
無論、カラシもお出しすると、カラシを少しだけ付けて食べる方もいらっしゃいますの。
「あ――……これはいい。あったまる」
「ホッとするねぇ」
「美味しいです」
「この出汁がまたなんとも……」
「カラシをつけて食べるとまた美味しいね」
「酒が欲しくなる」
「お酒ですけれど、実はアカサギ商店から素敵なお酒を見つけましたのよ」
そう言って鞄から取り出したのは清酒。
一口飲んでみましたけれど、日本酒の辛口みたいな味でしたわ。
これは絶対に売れると思い、大量注文してありますの。
「ライトさんは飲めませんけれど、他の方々はどうかしら?」
「ア――……ッ」
「おでんにこのお酒、合うねぇ」
「お酒の名前は何て言うんだい?」
「日光と言うらしいですわ。アカサギ商店から大量に仕入れようと思って頼んでますの」
「それでリディアは今日の昼居なかったのか……。商業ギルドに行っているとは聞いていたが」
「ええ、おでんにはこのお酒でしょう? 冬ならば、おでんは欠かせませんわ」
「この日光ってお酒も角打ちで飲めるのか?」
「ええ、イルノさんにとっても美味しいお酒じゃなくって?」
「いや、美味いねぇ……。酒は朝から飲めないだろうけれど、おでんは良いよ。朝立ち止まってササッと食べても体はホカホカするだろうしさ」
「そこが狙いですわ。寒い冬こそ温かい朝食。つまり、温活ですわ!」
「「「「温活」」」」
「身体の内から温めて仕事にでれば、力が湧くでしょう?」
「確かに朝おでんってのもいいな……。でも俺的には、夜におでんも良いと思う」
「と言うと?」
「これ、屋台で出来ないか?」
「「「「屋台」」」」
思わぬ発案がカイルから出ましたわ。
確かに昔の日本では屋台でおでん、それに日本酒と言うのが定番だった筈。
帰りの一般庶民から冒険者まで、幅広くおでんを食べて家路へとつく……良いですわね!
「それ、名案ですわね!!」
「だろう? おでん一品銅貨2枚くらいにしてさ。一人5つまで選べるわけだ。そこに日光を銅貨10枚で売り出せば」
「売れますわね。ただ、誰が屋台をすべきか……そこが問題ですわ」
「箱庭にいる誰かに頼めないか? 出来れば爺様や婆様あたりにさ」
「明日聞いてみましょう。では、建築師の方に屋台を作って貰うよう頼みますわね」
「ちょっと待った。ダンノージュ侯爵領だけするのはズルイぞ」
「王太子領にも欲しい」
「王太子領でもしたいですけれど、広い場所ってあります?」
「道具店サルビア一号店の前でやればよくないか?」
「サルビア屋台の誕生ですわね」
「夏場限定メニューとかはないのか?」
「あるにはありますわよ? でも、するのなら色々案を練らねば勿体ないですもの」
「それもそうだな」
「じゃあ冬限定の屋台サルビアを作ると言う事で。アカサギ商店の売り上げがまた伸びますわね!」
「うちと提携したほうがよくないか?」
「既に提携の書類は済ませていますわ」
「うちの婚約者が有能過ぎてコワイ」
こうして、おでんは夜に出すと言う方向で決まり、朝はやはりカレーパンに珈琲が望ましいだろうと言うことでしたわ。
でも、朝メニューに加えようと思うものもありますのよね。
丁度そう思った頃、出来上がったばかりの【ある品】が皆さんの机に並べられましたわ。
「此れは?」
「これは、朝のカレーパン代わりに冬限定で出そうと思って作った……【肉まん】ですわ」
「「「「肉まん」」」」
「秘密のタレをつけてお食べ下さいませ」
「「「「「秘密のタレ」」」」」
皆さんは思い思いに、出来立ての肉まんを厚手の紙で包んでいるので、そう熱がることもなく口に入れましたけれど、余程熱かったのか数名悲鳴を上げていますわ。
「熱いですから気を付けてくださいませ」
「おでんも熱かったけど、こっちも熱々だな」
「おすすめは、半分に割って中に秘密のタレを少しかけると良いですわよ。カラシもあいますわ」
食べ方を教えると、皆さん半分に割り、中に秘密のタレをかけたり、カラシをつけたりして食べ始めましたわ。
中の肉はハンバーグと似た作りですけれど、蒸して作っている料理はこの世界には殆どない筈。
さて、どうかしら?
「あ、秘密のタレで食べると美味しい」
「アタシはカラシ付きがいいね」
「売る際には、こちらから肉まんを少し割って、中に秘密のタレを入れ込んで、カラシは聞いてから付けようと思いますわ」
「いいんじゃないかい? そしたら片手に肉まん、もう片手に珈琲が持てる」
「ええ、それが狙いですわ。こちらも冬限定商品で出そうと思ってますの」
「焼いてないパンみたいなものか」
「ええ、こちらは蒸し料理となりますわ」
「「「「むしりょうり」」」」」
「肉まんの他に、甘い芋を練り込んだものを入れたり、ピザマンなんてものもありますわね」
「「「「ピザ!!」」」」
「朝は忙しいですから一つに絞りたいんですの。今週は肉まん、来週はピザマンみたいに」
「良いと思います。朝から温かい物を食べられるだけで贅沢ですからね」
「やっぱり、ダンノージュ侯爵領はズルイ」
「俺達も朝は温かい料理を食べてから仕事したいよな」
「モーニングセットがあるじゃありませんの」
「リディア嬢、お忘れかも知れないが」
「俺達はその頃仕事中だ」
「あ――……」
何とか形にしたいですけれど、どう知ればいいかしら……これも屋台風にするとか?
「数量限定の、屋台風にすれば売れるかしら」
「少なくとも屋台三つは欲しい所だね」
「検討しましょう」
「「やった!!」」
となると、王太子領でも屋台サルビアは必須になってきますわね。
早朝の時間帯から働ける方が箱庭にいらっしゃるかしら?
それか、商業ギルドで人を雇ってきてもいいですけれど……。
「まぁ、出来るだけ早く形に出来るようにするさ。それに、そろそろ保護したお年寄りたちも落ち着いてきた頃合いだから、色々スキルやら仕事の有無をハッキリさせたいしな」
「そうですわね。取り敢えず屋台は幾つあってもいいですから、建築師さんに屋台を作って貰っておきましょう。家を建てる材料で作れないか聞いてみますわ」
「働き手が箱庭にいなければ、雇えば良いしな」
「そうですわね。朝の屋台ならばモーニングセットと被らない時間帯に数量限定でやれば問題ないですもの」
「と、言うことで、朝の屋台も検討しますので、いい結果が出るのをお待ちください」
「分かりましたカイル」
「頼んだぜカイル」
「リディア、箱庭の中で働きたい人が居れば頼むな」
「お任せくださいませ!」
こうして、【屋台サルビア】が誕生しましたわ。
後は働き手だけですけれど、明日聞いてみましょう。
けれど、屋台となると出来れば男性が良いですわね。朝は兎も角、夜に女性が働くのは危険ですわ。
せめて男性とのセットとか……お爺様たちでいらっしゃるかしら?
そんな事を不安に思いつつ部屋に戻ろうとしたら、カイルは今からアラーシュ様に話をつけてくると言って出かけてしまいましたの。
大丈夫かしら……。
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本日も一日三回更新です。
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