第140話 死んだ魚の目になる程の、新商品の多さと納期との戦い。
――カイルside――
「俺はこれからも王太子領での仕事に、牛丼屋を作る為の雇用問題にと忙しい。時々工場の方の視察にも行かないといけないし、まだ何かと時間が掛る。そこで、ライトにはダンノージュ侯爵領の商店街を任せたいと思ってる」
「私に……ですか?」
「今現在もしてるだろう? 流石に両方も忙しいんじゃ身体が持たないよ」
「ですが、兄さんはダンノージュ侯爵領の跡継ぎです。だからこそ表舞台に立って、」
「ダンノージュ侯爵領の跡継ぎだからこそ忙しいんだ。王太子領にもある店の総括だけでも結構手一杯なのに、ダンノージュ侯爵領まで含めると身体があと一つは無いと無理だ。それに今から一気にダンノージュ侯爵領は寒くなる。出来るだけこの1カ月で薬局だけはオープンさせたい」
「兄さん」
「現在王都から来ている建築士をダンノージュ侯爵領で雇わせてもらって、空き店舗の方を整えて欲しい。店の並びとしては、【薬局】【子供用の勉強部屋】【お菓子の店】【牛丼屋】の作りで頼みたい。一番奥の店が一番広いんだ」
「なるほど……牛丼屋の方角には冒険者ギルドも商業ギルドも集まっていますね」
「牛丼屋がオープンして、人が多い道を通るよりはマシだろう?」
「確かにそうですね、食べてサッと帰れる上に、広い店となると牛丼屋の方が良さそうです」
「雇用問題に関しては俺が何とかする。店舗の作りをライトに頼みたいんだ」
「分かりました、ご要望はありますか?」
「お菓子屋は可愛い店にして欲しい。女性が喜ぶような感じでな」
「分かりました」
「子供用の部屋は、貴族の子供で男女問題なく使える様な壁紙にしてくれ。貴族の部屋の壁紙はクレヨンで落書きしても綺麗に落ちる壁紙を使っていると聞いたことがある」
「了解です」
「薬局は清潔感のある白で、牛丼屋は木目を綺麗に出す作りにしてくれ」
「はい」
「頼んだぞ」
「その程度でしたら許容範囲です。頑張ります」
どうやら、店を整えるまでの仕事ならば――と言う事で纏まったようで安心した。
実際ダンノージュ侯爵領はライトが回しているような状況だし、俺は俺であっちにこっちにと忙しいのは事実だ。
「ライトの情報では、ダンノージュ侯爵領と地下神殿での気温差も問題になっているし、護符が作れれば、」
「あ、護符でしたら作ってますわ、既に明日出せますわよ」
「……リディア、そう言うのは早めに言ってくれ」
「つまり明日は」
「食器用洗剤、洋服用洗剤の販売は洋服の店と提携して道具店サルビアでも売る事になるだろうね……その上、護符まで増えたか……」
「あの、増えた護符と言うのは」
「ええ、地下神殿の事を色々聞いて、【耐火の護符】と【除湿の護符】と言う2種類ですわ。【除湿の護符】も【耐火の護符】と同じ1日使い切りタイプですけれど、感じる湿度や湿気が随分と変わると思いますの。お値段は他の護符と変わりませんわ」
「そう……ですか」
「余りにも忙しそうになったら、商業ギルドに駆け込んで5日だけでもレジ担当とか袋詰めで頼もうか」
「そうですね、スタンプも押し間違えないようにしないと」
ライトとロキシーの目が死んだ魚になったな……。
リディアはその気がなくとも、色々一気に作るからな……。
そう思った矢先の事だった。
「はいはいはいーい! 裁縫師の美女3人でーす!」
「ダンジョンと外との気温差に悩む冒険者に、そして一般市民のこれから寒くなる秋から冬にかけての、画期的な洋服を用意してきましたー!」
「発案は無論、リディアちゃんでーす!」
「「「「「………」」」」」」
「う……。ほっかり布でマントだと前が寒いと思って……ポンチョと言う物を作りましたの」
「「「「「そうか……」」」」」
「こちらも展示してくださると幸いですわ……」
「「「「分かった……」」」」
「リディア」
「はい!」
「暫くアイテム制作はやめておいてくれ。店が回らなくなる……」
「はい……」
「あ、でもでもー。ポンチョって可愛いから一般にも売れると思うんで~」
「布製造所で作って貰ってきてくださいね!」
「ああ、ほっかり肌着と同時進行で作ってみるよ」
俺の目も死んだ魚のようになった。
サーシャとノマージュも良い感じに目が死んでる。
そうだよな、納期が迫っているのが幾つかあるもんな……。
「明日から、死ぬ気で作らせます」
「納期、大事」
「ああ、納期は大事だな」
最後の最後で、リディアはハラハラした様子で俺達を見つめ、肉体美美しい3人はポンチョの可愛らしさを語っていたが――全員が死んだ魚の目をしていた。
「カイル、明日は王太子領でも商業ギルドから人を期間限定で雇うよ」
「俺のところもだ」
「ダンノージュ侯爵領でも雇いましょう。服屋と道具店サルビアで」
「それがいいね」
「なんか、すみません色々作ってしまって……」
「「「冒険者の為なら仕方ないさ」」」
こうして、明日は地獄の幕上げ何度目だろうか。
取り敢えず、気合で行くしかなさそうだが、こういう時、店に出ず、別件で忙しくて良かったと心の底から思ってしまった。
「兄さん」
「ん?」
「店舗改装は、落ち着いてからでいいですか?」
「勿論」
「助かります」
こうして、明日からの地獄の為に死んだ魚の目をして動けない皆の代わりに、水筒の展示とポンチョの展示、そして、洋服店へは、朝一番にポンチョの展示をして貰おうと決めたそんな夜だった――。
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