第138話 箱庭で雇う薬師たち。

――カイルside――



やはり薬師探しは難航した。

難航したが、一人見つけることが出来た。

薬師店から追い出された問題児だが、一度会ってみることになった。


年齢18歳の成人男性であることが一番の懸念材料ではあったが、リディアに言い寄るようであったら即首にするつもりで挑んだ。

待つ事20分、部屋に入ってきた青年は少し尖った感じの少年のように感じた。



「貴方がドミノさんですね。初めまして、商店街を纏めているカイルと申します」

「商店街を纏めているのは、カイルさんじゃなくてライトさんだろ」

「こら! 失礼な事を言うな!」

「いえ、俺は王太子領で仕事をしていたのでそう思われても仕方ありません。ライトは確かに自慢の弟ですからね」

「ッケ」



態度は褒められたものではないが、スキルを見るに腕は確か。

リディアの求める腕は確かに持っているのだ、持っているのだが――。



「俺は単純な作業しかしないぜ。面倒な薬作りなんてしたくもないね」

「では、【ひやりんこ】は君にとって面倒な作業かな?」

「【ひやりんこ】は別に面倒な作業じゃねーだろ。スキルがそこそこあれば楽に作れる商品だしな」

「良かった、君に作って貰いたいものは【ひやりんこ】なんだ。うちにも薬師がいるんだけど、彼はまだ11歳の少年でね。必死に薬師レベルを上げている所だ」

「まてまてまて、11歳の薬師? 貴族かよ」

「いや、平民だよ」

「は?」

「うちの箱庭の皆は、己のスキルを知っている。箱庭限定のある物があってね。それで皆自分の持っているスキルを知って、作業やスキルを上げ、商品を作っている」

「ははは、オッサン、夢物語を語るのは年じゃねーぜ」



オッサンと言われる年齢だろうか。

いや、18歳にしたらオッサンかも知れない。



「まぁ、君のやる気次第ではあるが、君さえ良ければ11歳の薬師の子に薬の調合を教えて貰ったり、ひやりんこを大量生産して欲しいと思っている。君も今のままだと収入が不安だろう」

「確かに収入は不安だけど、冒険者に雇われる、雇われ薬師って言う手もあるからな」

「雇われ薬師か……君は雇われ薬師がどんなものか知っているのかい?」

「薬作るんだろ?」

「違うよ、荷物運びと雑用と薬作りだよ」

「は? マジかよ」

「マジだよ。俺もこれでもBランク冒険者だからね」

「へぇ……」

「後は、一番死にやすいのが雇われ薬師だ。君はそんな雇われ薬師になりたいのかい?」



そう問いかけると少年は「ッハ」と笑い、挑戦的な瞳で俺を見てきた。



「オッサン、俺が箱庭に入って問題起こしても大丈夫なのかよ」

「そうだな、君の心が壊れないかの方が心配だよ」

「は?」

「うちは保護した老人達が多数いてね。更に保護された女性達も多くいる。他人を馬鹿にした態度を取り続ければ、彼らの逆鱗に触れるだろうね」

「げぇ……」

「無論、こちらとしては君を雇うのをやめて、別の従順な薬師を雇うと言うのは十分考慮に入る問題だ。縁があって出会った君だが、神殿契約を結ばないと言うのであれば、うちでは雇えない」

「……」

「ちなみに、衣食住の保証は確実だよ、給料も出す」

「むう」

「箱庭の皆と仲良くできるのであればだが」

「分かったよ……11歳の薬師の面倒もある程度みるし、少し大人になって雇われてやるよ。でも、一つ頼みがある」

「何だい?」

「雇われ薬師になりたい奴らが8人程仲間にいる。そいつらも雇ってもらえるか?」

「薬師は多いに越したことは無いからね、神殿契約を結んでくれるのであれば雇おう」

「助かる。皆嫌がらせを受けて辞めさせられた奴らばかりなんだ」

「嫌がらせ?」

「そ、嫌がらせ。ダンノージュ侯爵領にも薬局は幾つかあるけれど、スキルがあっても上下関係が厳しくていつまでたっても認めて貰えない。上の言う事は絶対だし、嫌がらせだって毎日受け続ける。ダンノージュ侯爵領の薬局なんてどこもそうだ。そう言う奴らが集まってこの前、薬局から抜けたばかりなんだ」

「なるほど……嫌がらせは嫌だね。無論呼んできて貰って構わないよ。アパートもギリギリ住めるだけの人数だ」

「助かる。ちょっと呼んでくるわ」

「待ってるよ」



こうして、彼の言う嫌がらせを受けて薬局を辞めた薬師たちを合計9人雇うことが出来た。

気弱な者、寡黙な者、ひょうきんな者と一癖も二癖もありそうな人材ではあったが、彼らは「シッカリと仕事はします」と言ってくれたので大丈夫だろう。

それに神殿契約もしっかり結んでくれたので問題はないはずだ。

彼らに頼んだのはラキュアスへの薬の師匠として分からないところは教えてやって欲しいと言う事と、ひやりんこの作成に薬の作成だ。

ラキュアスは薬師見習いと言う立場にはなるが、薬師リーダーはドミノに任せることにした。

彼は責任感が強いだろうとも肌で感じたからだ。

故に、弱者をイジメる薬局を許せず辞めたのだろう。


彼らを纏めて箱庭に連れて行くと、恒例の呆然祭りで、取り敢えず居住エリア及び作業場へと連れていく事にした。

すると――。



「お帰りなさいませ、カイル」

「ただいまリディア。新たに雇う薬師を合計9人、箱庭で生活をして貰う事になったぞ」

「初めましてリディアと申しますわ。この箱庭の箱庭師です」



リディアが挨拶をすると、9人は未だに呆然としながら頭を下げて挨拶する程度だが、確かに箱庭の広さを見れば、頭に理解が追い付かないのは仕方ないだろう。



「リディア、箱庭で変わった事は無かったか?」

「そうですわね、少々相談したいことが幾つかありますわ」

「じゃあ夜にでも話を聞こう。まずは彼らをラキュアスに紹介したいしな」

「そうですわね。皆さん、今はラキュアス専用の薬師小屋ですけれど、それなりに広いですので十分皆さんで仕事は十分出来ると思いますわ。後で各自の机と椅子等を用意しますので、最初はゆっくりと仕事をして下さると助かりますわ。後はラキュアスの先生になってくださいませ」

「了解です」

「必要な道具があれば教えて下さると作りますわ。わたくしは基本的に皆さんが入ってきた池の周辺か、この作業小屋のどこか、あとは休憩所にいますので」

「了解です」

「他の方々は緊張為さっているのかしら?」

「あ、他の奴らは女性と話すのが苦手だよ……じゃない、苦手なんですよ」

「ドミノさん、言葉は崩して頂いて結構ですわ。失礼のない範囲でしたら大丈夫です」

「ありがてぇ。どうも丁寧語は難しくてな」

「ふふふ。こちらの小屋が薬師専用の小屋となっております。アイテムボックスはリボンに薬の名前等ついてますから、素材用の鞄は皆さんで円滑に使って下さいませ」

「助かる。お前ら! 俺達も薬師として頑張るぞ!」

「「「「お――!!」」」」

「薬師さんが来られたんですか!?」



と、先程までトイレに言っていたのだろう、ラキュアスが走ってやってくると、目を輝かせて皆を見つめていた。



「僕以外の薬師をみるのは初めてなのです! 皆さん、是非ご教授頂けると助かります!」

「おう、シッカリと面倒見るように言われてるからな」

「分からないところがあったら教えるよ」

「俺の死んだ弟もこれくらいだったな……よろしくな、ラキュアス」

「皆で沢山薬を作ろうな」

「はい!!」



どうやらラキュアスとは上手くいきそうだ。

そうやって話している間にリディアは机と椅子を人数分作って用意し、ラキュアスにしか作ってなかった小さなすり鉢やら見たこともない道具を次々作って各机の上に置くと、額を拭ってやり切った感を醸し出していた。



「それでは皆さん、後はお任せしますわね」

「仲良く仕事してくれよ。先に9人には部屋へ案内するがいいか?」

「分かった」

「ラキュアス、また後でな」

「いってらっしゃーい!」



こうして、9人を独身用アパートに連れて行き、空いている部屋に案内して室内に入って貰うと、部屋にトイレがある事に一番驚いていたようだ。



「此処では朝7時半から8時に朝食、その後洗濯やらなにやらやって、朝10時から仕事開始だ。昼めしは12時から14時までの間に済ませてくれ。その後各自好きに休憩するなりして、夕方5時から6時に仕事終了の流れになっている。ラキュアスは仕事が終了した後、一時間薬師小屋に残り、お年寄りたちへ薬を出している。もし手伝って貰えるのなら有難い」

「ラキュアスは、皆の為に薬を作っているのか」

「確かにお年寄りが多かった」

「優しい子だな、ラキュアスは」

「素直で優しいが故に傷つきやすい。あの子は父親を早くに亡くしていて、母親が溝攫いをしながら育ててきた子だ。だから尚更頑張りたいんだろう」

「「「そうか……」」」

「皆、ラキュアスを頼むぞ」

「「「「はい!」」」」



こうして、新たな仲間である薬師9人が箱庭に加わった。

彼らの為にも、早めに商店街の工事を進めないといけないな。仕方ない。俺も取引をしよう。

相手は無論ライトだが、ダンノージュ侯爵領は一気に秋を過ぎ冬がやってくる。

それまでに俺一人ではとても回らない。

何とかして、ダンノージュ侯爵領と王太子領の牛丼屋を作ろうと心に決めた夜、頭を悩ます問題が既にもち上がっていた事に、胃痛を起す羽目になるとは、この時思いもしてなかった――。




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本日二回目の更新です。

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