第132話 新たな商売のカタチ。
カイルが突然やる気を出して朝から面接に向かいましたわ。
俄然やる気を出してくださるのは嬉しいですけれど、どうしたのかしらと思っていると。
「兄さんなら私の方から焚き付けて差し上げましたので、走り終わるまでは走ってくれると思いますよ」
「流石兄弟、動かし方を良く解ってるね」
「リディア姉さんには迷惑をお掛けしたようなので、シッカリと反省させた後、必死に頑張って頂けるようにしましたのでご安心ください」
「そうでしたのね。だったら暫くは安心かしら」
「ええ、せめてダンノージュ侯爵領でも焼肉店がオープンして、各店舗が埋まるまでは頑張ると思いますよ。兄さん持久力はありますので」
「「流石弟」」
ライトさんのお陰で平和は保たれましたわ!
さぁ、これでわたくしもガーゼ布とほっかり布を大量生産でしてよ!
そう思い力を溜めていると「もし……?」と声を掛けられましたら。
振り向くと昨夜保護したお年寄り15人が、お風呂に入ったのかスッキリした様子でいらっしゃいましたの。
「どうかなさいました?」
「あの……わたくし達も何かお手伝いをした方が宜しいのでしょうか」
「いえいえ! とんでもないですわ! せめて一週間は、皆さん仕事も何も考えず、温泉を楽しむなりしてゆっくりとお過ごしくださいませ。それに、まだ知りたい事が御座いましたら是非わたくしに聞いてくださいませ」
「はい、ではあの」
「ワシが話す」
そう言うと気の弱そうな男性が前に出て、深呼吸した後、口を開きましたわ。
「ワシ等年寄りはもう残り人生は幾ばくも無いと存じ上げております。死ねば川に流されるか山に捨てられると思っておりました。ですが、ここに保護されている方々は違う事を仰るのです。ここで死ねば葬儀を上げて貰えると。墓を用意してくれると言うのですよ」
「ええ、当たり前の事ですわ」
「当たり前……なのですか? ここの中では当たり前に、本当に死後は」
「はい、既に墓をサルビアの名で購入済みです。しっかりと鎮魂祭も行います。心行くまで箱庭で生活を楽しみ、働きたくなったら働いて、皆さんその様に過ごされています」
「「「「……」」」」
「皆さんが不安に思う事は当たり前の事ですわ。ですが、まずは一週間シッカリと心身をいやしてからでも、遅くはありませんの。皆さんそうしてきましたわ」
「そう……なんですね」
「ええ! 90代のお婆様だってウエイトレスをやってらっしゃいますわよ?」
「「「「なんと」」」」
「我が箱庭もサルビアも自由なのです。したいことがあれば挑戦すればいいのです。失敗しても誰も咎めません。失敗したことが恥ずかしい事ではないからです。皆さんもお子さんに話したことがあるのではありませんか?」
そう言うと、何人かのお年寄りたちは頷きました。
「それでいいのです。人間誰しも間違いは犯します。けれど、命に係わる間違いでないのであれば、それはドンドン間違えていい事なんです。箱庭では皆さんそうやって生きておりますわ」
「では、もう気負わなくても、何かに縛られなくても宜しいのですか?」
「気楽に、誰の迷惑にもならず、好きな事をしても良いのですか?」
「構いませんわ。ただ、スキルだけは調べさせて欲しいので、一週間後皆さんのスキルを見させていただいても? その時、出来れば前の職業を教えて頂けると嬉しいですわ」
「分かりました」
「では、一週間後皆さんが更に元気になっていることを望んでいますわ。温泉に入ったり子供達の声を聴いたり、浅瀬の海もありますから子供のように遊んでも構いません事よ?」
「あらあら、子供のように」
「そうね、若返った気分でいるのも、良いのかも知れないわ」
そう言うと保護された15人の方々の顔色が明るくなりましたわ。
そして、休憩所でお茶を飲んだ後はもう一度温泉に入りに行こうと話されていたのでホッとしました。
保護された一日目、二日目はわたくし達も気を使います。
『破損部位修復ポーション』を使っても、どれほどの効果があるのかは個人差があり、トラウマをまた呼び起こさないようにするために必要な事なのです。
――昔のように若返って。
それは、ご老人達にとっては足枷も何もない、自由な時間を過ごせると言う意味にも捉えられるようで、皆さん表情が明るくなります。
「では、わたくしは仕事をしてまいりますわ! 行ってきますわね!」
そう言うと、皆さんが手を振って応えてくださいましたわ!
さぁ、急ピッチでガーゼ布とほっかり布を大量に作りましょう。
ボディーソープやシャンプー、泡石鹸の在庫確認もしておかねばなりませんわね。
石鹸に関しては石鹸工場からダンノージュ侯爵領と王太子領をまかなえてますから心配しなくても良いですし、最近は食事に関する商売ばかりに目が行って、アイテム作りは進んでいませんでしたわ。
そんな事を思いつつ在庫確認の後、足りない分の在庫を大量に作ってアイテムボックスに入れ込みつつ、ガーゼとほっかり布を作りつつ、新しい商品について考えますの。
王太子領は乾燥しやすい地域で、これからの時期は乾燥対策が必要ですわ。
乾燥肌に嬉しい商品は既に作ってありますから、それの新商品を考えるのも手ですわね。
咳止めも欲しい所ですわ。
薬局をやはり用意すべきかしら?
反対に、ダンノージュ侯爵領は気候が安定しているものの、湿気の多い地域ではありますわ。
湿気が多いと言う事は、洗濯物が乾きにくいと言う事。
そうよ――洗濯物!!
冒険者の汗臭いインナーもスッキリ爽快リフレッシュ! みたいな洗剤を売りましょう!
食器用洗剤も作れば庶民にも嬉しいですし、飲食店は喉から手が出る程欲しい商品の筈。
この世界ではタライに入れて洗濯をしますから、汚れ落ちの良い洗剤はそれだけで神ですわ!
そうね、とりあえず食器用洗剤及び、洗濯用洗剤は決まりとして、冒険者に嬉しいアイテムって他にありますかしら?
思いつかないけれど、一つだけ。
「アイテムボックスやキャンプ用品が当たる……ポイントカード制度の導入」
そう、ダンノージュ侯爵領にある商店街で購入した物、食べ物以外の買い物をした際、購入金額に応じてポイントを付けて、貯めたポイントでアイテムと交換と言うのはどうかしら。
欲しい商品は皆さんそれぞれが違うでしょうから、色々な商品を目玉商品にして、ポイントと交換システム。
ポイントカードの枚数で、アイテムボックスやキャンプ用品との交換が可能とか。
そうすれば購買力も上がっていいのでは?
あとは、商店街での三カ月に一度の運試し。
冒険者ならば、一等はアイテムボックス、二等は欲しい付与が2つもついた付与アクセサリー。三等は、焼肉食べ放題がタダチケットとかどうかしら。
他の冒険者に取られないように名前を記載してもらい、顔をシッカリと覚えて貰っておけば問題はない筈。
貰ったアイテムを売り買いするのは冒険者の自由ですものね。
ハズレは初級ポーションにすれば問題ありませんわ。
主婦層や一般庶民向けの運試しだと、商品は時期に合わせて変更するのも手ですわよね。
そう言う楽しみがあっても良い気がしますわ。
無論このシステムは王太子領でも使う事にして、サルビアで運営している店ならばどこでもOKとしておけば、ポイントカードも運試しも楽しめますわ!
欲しい情報としては、地下神殿の情報が欲しいですわね。
護符は帰還の護符と身代わりの護符くらいしか作っていませんし、ライトさん辺りに情報を手に入れて来てもらいましょう。
そんな事を思いながらガーゼ布とほっかり布を作っていたら、大量に出来てしまいましたわ!
これだけあったら300枚セットくらいは作れるんじゃなくて?
でも、時間的にはまだ午前中……ならば、ほっかり肌着の為の黒布地を沢山作っておきましょう。時間があるうちに作れるものは作らないと、後で締め切りよろしく大量に作る羽目になるのだけは避けたいですものね!
あの忙しさ……大学時代のレポートの締め切り直前を思い出しますわ。
――こうして、午前中はガーゼ布とほっかり布及び、ほっかり肌着用の黒生地を大量に作ったわたくしは、昼休憩に戻ってきたライトさんに「地下神殿の情報が欲しいので聞いて来て欲しいですわ」と伝えると、ライトさんは快く「承りました」と言って下さいましたわ!
そしてカイルは昼も食べずに面接をしているようで……帰ってきたら労おうと思いましたわ。
そして昼――。
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本日二回目の更新です。
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