第131話 新たな保護と、牛丼屋への道。
――カイルside――
「久しぶりだなジューダス。暫く忙しくて会いに来ることも出来なかったが、保護している者たちはいるか?」
「いるのは老人ばかりだ。姥捨て山に捨てられそうになった老人達が多くてな……。皆保護しているが、そろそろ精神的に限界かも知れん」
「そうか、ならそのまま箱庭に連れて行こう。長屋は出来ていると言う連絡は受けているから、直ぐに入る事は出来るだろう」
「助かるぜ。上は89,下は70代までの男女15人だ。姥捨て山から助けられた老人も多い」
「分かった」
「今は保護される人数が大分少なくなったが、此処もそのうち改装工事が始まるだろう? カフェだったか?」
「ああ、カフェも考えているんだが、新しい飲食店に興味はないか? これだけ広いんだから少し考えている事があるんだ」
「と言うと?」
「今の酒場の一部で、角打ちをして貰いたいのと、カフェではなく、丼物を出してみないか?」
やはり、俺は丼ものが食べたい。
あの丼ものこそ、世間に広がるべき庶民の食べ物だと俺の全身が訴えている。
「角打ちにドンと言われても分からねぇぞ?」
「そうだな、丼に関してはダンノージュ侯爵領でもまだ出していない商品なんだが、早い、安い、美味いが揃った最高の料理を提供できるってことだ。回転率も高いし、内装もそう変える必要がない」
「ほう……そいつは面白そうだな」
「それで、角打ちと言うのは俺の持つ商店街でやっている事だが、酒はコチラで卸す。そこで決まったグラスも渡す。客は一人銅貨10枚を出して2杯まで好きな酒が飲める。酒が欲しいと言う奴には酒を売っても構わない。立ち飲み屋だな」
「それを酒場の一角でやると……。カウンター席が全部使えるな」
「助かる。そこでジューダスには客から得られる情報があれば教えて欲しい。時に客の方が思いもよらない事を知っているもんだからな」
「情報屋も兼ねるってことか、構わないぜ。ただ、どんな酒があるのかとか、ドンが何者なのかを教えて貰わないと返事のしようがなぁ」
「じゃあ、今週末、この酒場を借りて良いか? リディアたちを連れてここで丼物を食べようぜ」
「分かった、その時に酒も持ってきてくれると助かるぜ」
「分かった」
こうして話がまとまると、ジューダスと騎士に連れてこられたお年寄りたちが震えながら階段を下りてきた。
確かに新しい場所に行くのはこの年からは不安が高いだろうが、リディアの箱庭は楽園だ。そこで心が落ち着くまで癒されて欲しい。
「今から皆さんを箱庭に連れていきますが、その際、皆さんにはある薬をお渡しします。訪れる保護された方々や、雪の園と朝の露も飲んだ薬ですので害は一切ありません。また、既に住むべき長屋も出来ていますので、衣食住はお約束します」
「有難うございます……有難うございます……」
「息子夫婦に捨てられて……もうどこにも戻るところがないんですじゃ……」
「ワシ等でも受け入れてくれるならどこでも行きます……」
「大丈夫です。そう言う方々も沢山いらっしゃいます。ですが保護された方々は今では笑顔が絶えません。それに、小さい子供も多くいますので、孫と思って接してくださると助かります」
そう伝えると老人達は涙を流しながら深々と頭を下げた。
実の親を捨てなくてはならない程苦しい生活だった事もあるのだろう。
老人たちは皆痩せ細っていた。
箱庭へと続く扉を作ると、一人ずつ中に入って貰い、ジューダスには週末頼む話をしてから俺も箱庭へと戻った。
すると、目敏いお年寄りや子供たちは直ぐにリディアを連れて来て、15人のお年寄りを休憩所に座らせ、【破損部位修復ポーション】を飲ませると、頭や胸から幾つもの光が溢れては消えていった。
相変わらず凄いポーションだとは思うが、飲んだ老人達は目に少し輝きが戻り、皆がクシャリと微笑み涙を流した。
「ここには温泉がありますので、何時入って頂いても構いません。入る為の決まりごとはありますが、それを守ってくだされば大丈夫です。皆さん食事はいりますか?」
「ジューダスさんのもとで食べてきました」
「嗚呼……なんだか心がとても軽い」
「それは良かったです。この箱庭の主であるリディアを紹介します。リディア」
「初めまして、リディアです。皆さんの住む長屋は既に出来上がっていますので、これから箱庭で生活する中で困ったことなどありましたら教えてください。衣食住は必ず守ります」
「他知りたい事は先輩のお年寄りたちに聞いて来てください。誰か長屋に案内してくださる爺様や婆様はいらっしゃいますか?」
「アタシたちが連れて行ってあげるよ」
「ワシも一緒にいこうかのう」
「お願いします」
そう言うと4人のお年寄りたちが保護されたばかりの老人達を連れて長屋へと歩いていった。
「それとリディア、今週末に酒場で丼ものと酒を持ってきて欲しいと頼まれたんだ。酒場は今後角打ちが出来る場所と、丼ものを売る店にしようと思ってる」
「まぁ! 素晴らしいですわ!」
「なになに!? 王太子領に角打ちが出来るのか!? 牛丼屋が出来るのか!?」
「その為に話もつけてきましたが、まずは食べてみたいと言う事でした」
「「「「おおおおお」」」」
「俺達も行こうぜレイン!」
「そうだな、是非行こう」
「和食が、ついに」
「王太子領にウエルカム」
こうして遅れながらも晩御飯を食べることが出来てホッとしたが、明日には焼肉屋の為の面接をしてくると言うと、皆さんが雄叫びを上げて喜んでいた。
主に、王太子領のだが。
「さて、明日からまた頑張るか!」
「ええ、シッカリと働いてくださいね」
「ライトに負けないくらいには頑張らないとな」
「ええ、私も負けませんけどね?」
「ははは」
気分よく温泉に入り、リディアと早々に眠りについた翌日。
ついに、焼肉定食の為の面接が始まる!
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