第119話 米情報と今後の商売の展望。

――カイルside――



こうして残った金で店舗改装費などに回そうと思いつつリディアに報告に行くと、リディアは暫く固まった後、俺に詰め寄りガシッと今までにない程強い握力で俺の腕を掴んだ!

一体どうしたんだリディア!?



「何ですって!? カイル、もう一度言って下さいませ! 米が何ですって!?」

「いや、だからアカサギ商店ってところが米を持ってるらしくって、明日の朝道具店サルビアに人を寄こすらしいから一緒に商業ギルドに」

「行きますわ! 米、米と言えばカレーライス! オムレツ! そうよ、丼よ、丼物よ! 更なる飲食店、謂わば【米専門料理店サルビア】が出来ますわ!!」

「カレーらいす? おむれつ? ドン?」

「最高に美味しい食べ物でしてよ! ハッ 海鮮丼もありますわね!!」

「リディアがそこまで言うってことは美味いのか」

「ええ、美味しさで言えば、少し高めなのが焼肉なら丼物はリーズナブルなお値段でお腹いっぱい食べれるお肉の店って感じかしら」

「最高だな!!」

「最高でしてよ! それに合計10店舗の店を買ったのでしょう? うち5店舗は潰して焼肉店にするとして、残り5店舗に関しては、一店舗はその『米専門料理店サルビア』にするとして、残り四店舗は、少し旨趣を変えたものにしようと思いますの」

「と言うと?」

「まず空き地ですけれど、空き地を整地して、そこで子供達を集めて、ちょっとしたお菓子を買って貰って、紙芝居なんてどうかしら」

「えっと、初めて聞く言葉でちょっと」



リディアの勢いに押され、所々分からない言葉が出てくるが、とりあえず紙芝居とは何かと思い問いかけてみると、「あらわたくしったらつい」と言いつつ説明してくれた。

要は、子供達を集めてそこで紙に書いた絵本を読む……と言う事らしい。

慈善事業だとリディアは言っていた。



「あの辺りは冒険者よりも本来ならば庶民が多い土地ですもの。決まった時間に紙芝居屋さんがきて、そこでお菓子を買ってくれた子に絵本を読みますの。台座はわたくしが用意しますわ」

「だが、読み手がいないとどうしようもなくないか?」

「そうですわね。そこは追々考えますわ。絵師も必要になりますし」

「なるほど」



紙芝居については、色々必要な事が多い様だな。

リディアも少し悩んでいるようだ。



「店舗としては、飲食店は『焼肉屋』『米専門料理店サルビア』『飲食店サルビア』とありますからどうしましょう……」

「ふむ」

「取り敢えず、一つは薬局を作ろうと思いますわ」

「薬局? 薬を売るのか?」

「ええ、傷薬にしても、庶民にとってポーションを飲めば治るものは多くありますけれど、病気に対しては、ポーションは効きませんわ。なので、薬師を雇おうと思います」

「薬局か……確かに冒険者でも腹痛持ちとかはいるからな」

「それに腰痛持ちや膝を痛めている人にはサポーターは必要でしょうし」

「さぽーたー……?」

「固定器具ですわ」

「なるほど」

「それに、お年を召した方でしたら杖も必要でしょう?」

「ふむ」



確かに固定器具やお年寄りならば杖があれば歩くのが随分と変わるだろう。

ダンノージュ侯爵領の人々の為に薬屋を開きたいと言うリディアの心に胸を打たれた。



「残り三店舗ですけれど、女性が嬉しい甘味や子供に嬉しいお菓子を売るお店は出したいとは思ってますの。箱庭にはえているカカオが勿体なくって」

「ああ、チョコレートとかに使う奴か」

「ええ、女性冒険者や女性には甘いものですわ。中で期間限定のアイスを売るのも一つの手ですわね。寒い時期はホットチョコレートドリンクとか」

「美味そうだな……」


王太子領で頑張ってるナナノやハスノが聞いたら悲鳴をあげそうな店だな。

出来るだけ内緒にしたいが、多分無理だろう。

その内こっちに訪れる気がする。



「それで、残り二店舗ですけれど、一つは教室にしたいと思ってますの」

「教室?」

「ええ、池鏡で見ていましたけれど、文字の読み書きが出来るライトさんくらいの子は少ないようで。午後は読み書き用の教室。午前は幼い子供用の絵本教室にして文字や数字に慣れ親しんでもらおうかと思いますの。読み書き教室に通うお子さんの親はその間はカフェやお菓子屋で休憩して貰うのも手でしょう?」

「リディア……商売じゃなくて未来の子供たちの為に……」



俺は思わず涙が出そうになった。

でもそうすると――。



「必要なのは絵本や本を書けるような人材か……。そう言う奴らは皆城勤めとかだぜ?」

「あら、引退した方々は大勢いるでしょう?」

「まぁ確かにいるけれど」

「絵師と本を書ける方を探せばよいのです。絵本くらいでしたらわたくしが作れますけれど、絵心が無くって……」

「そうか? リディアの絵は独創的だが好きだぞ」

「万人受けしませんの。わたくしが絵を描いたら子供が泣きますわ」

「そうか……」

「絵師ならば女性は結構いると思いますの。そこで、最初の内はわたくしが絵本になる元の本を書きますから、絵師を雇って絵をつけて貰いながら、一つは紙芝居、一つは文字に慣れる為の子供用にしたいんですの」

「ふむ……」

「要は学問の入り口ですわ。これはとても大事な事ですのよ?」

「そうだな……俺の母さんも良く言ってた」

「後は勉強した後にクッキーを貰えると言うシステムにすれば、子供のやる気もアップしますわ。テストもしますけれど」

「そ、そうか」

「お菓子屋では幼い子が食べても安全なお菓子を用意しますわ。後はやっぱり、こちらにも『ママと子供の店・サルビア』みたいな、赤ちゃんや幼児、ママ専門店は作りたいですわね。今はごっちゃになってますもの」

「大体決まったな」

「そうですわね」



まずは『米専門料理店サルビア』『甘味処サルビア』『ママと神殿の店サルビア』『薬局サルビア』『子供の為の教室サルビア』そして――空き地にて『紙芝居サルビア』と、結構な数の店が出来そうだ。


子供と言っても全員が通えるようなものではない。

だからこその紙芝居屋何だろう。

リディアはよくこの街を見ている。



「それで、紙芝居屋で売るお菓子は決まっているのか?」

「簡単なものですけれど、水飴や簡単なクッキーに棒がついた飴あたりかしら? 他に色々考えてはいますけれど、三つセットで銅貨1枚」

「そりゃ安いな」

「子供にとって、銅貨1枚は大金ですわ」



そう言うリディアだからこそ、優しさの詰まったお菓子を思いつくんだろう。

子供や貧困層にとって甘いものとは、ある種の高級品だ。

銅貨1枚でそれを買って、一つは食べて後は持ち帰る子供も出てくるだろう。



「良いんじゃないか? なんか平和そうで」

「そうなるよう皆さんとで頑張りませんとね」

「そうだな」



こうして、米から始まったリディアの暴走は落ち着き、一応の商店街の全貌は出来上がった。

後は明日から時を見てコツコツやり返す番だ。

一気に全部オープンは出来ないが、一歩ずつ確実に仕留めに行こう。

そう思った次の日の早朝――。




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お越しくださり有難うございます。

誤字は多いかと思いますが

本日も1日三回更新です。

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