第110話 『サルビア布製造所』稼働開始!
――カイルside――
王太子領となった『服とガーゼの店・サルビア』及び、業務提携している店に行き、朝から大口依頼が入った事と、ガーゼシリーズ一式250枚を一カ月で出来るだけ仕上げて欲しいと言う無理なお願いをした。
無論、「無理です」と言われたが、工場を今建設中である事も加えて話すと「出来るだけ頑張ります!」とにこやかな笑顔で言われた。
その足で商業ギルドへ行き、明日裁縫師とタウンハウスで雇う面々の面接を行う事を告げると、担当者はあちらこちらに走り回っていた。
急な事で申し訳ないが、これは譲れないのだ。
また、ガーゼシリーズは慣れるまではサーシャさんとノマージュさんと言う鬼教官がつく。
きっと、シッカリ勉強してくれることだろう。
そして今日はリディアが各所に箱庭への道作りに勤しんでいるが、ついでに工場見学及び、従業員の住むタウンハウス等も下見した。
まずは『サルビア布製造所』が急務な為、明日120人の元貴族令嬢等の面接が行われる。
その前にやるべきことは――リディアの驚異的なアイテム作りに掛かっていた。
リディアはまず、タウンハウスに素材だけを詰め込んできたバックを手に、一気にベッドと寝やすいスプリング、そして最低限の洋服棚に机と椅子を、片っ端から作っていった。
俺はそれを各部屋に只管走って置いていく。
料理器具などは残っていたのでホッとしたが、見事に部屋と言う部屋には物が無かったのだ。
彼女たちのベッド上にはガーゼシリーズが一式袋に入れられたまま置かれていて、現在必要なタウンハウス3つにすること半日。MPポーションを飲んで一息入れると、リディアと共に『サルビア布製造所』へと向かう。
工場の内部は殆ど弄らなくてもよさそうなくらいに机も並べてあり、リディアは倉庫を二つに分けるよう指示し、机を移動させると、丁度真ん中に出来た大きな通路に、両方から出し入れ可能な棚を作り上げていく。
どうやら作った商品が次々に検品に移される様、流れを作っているようだ。
そして検品が終わった商品は倉庫へと続くドアの近くの棚に並べられると言う訳だ。
実に効率的だと思ったが、後は休憩室に椅子と机を用意し、箱庭産の茶葉と陶芸師が作ったコップなどを飾っていく。
布巾等もガーゼの端切れで出来たもので作ったものをいくつか置き、一息つく頃には夜になっていた。
久しぶりに沢山大型の製品を作ったリディアは疲れ果てて早々に眠ってしまったが、翌朝、俺と一緒に面接に挑む事になった。
最初は俺一人でもと思ったが、何やら思う事があるらしくリディアも着いて行きたいと言い出したのだ。
それならばと、リディアと共に商業ギルドへと向かうと、既に130人以上の裁縫スキルを持つ、元貴族女性や主婦の方々が集まっていた。更にハウスキーパーに調理師もだ。
これは、もしかしたら手先が器用な人もまとめて雇えるかもしれない。
とはいっても、まだ洋服関係は募集していないし、焼肉店もまだ募集していないので、また後日改めて来てもらう事になるであろうが、ひとまずはガーゼシリーズ一式だ。
丸一日掛けて行う面接は強硬手段とも取れるが、早めに人材は確保して直ぐに動き出せるようにしたい。
元貴族女性達が求めるのは、安定した雇用と衣食住、親に仕送りが出来る程度の給料を求める女性が多い事が分かった。
しかし中には露骨に俺の愛人になりたい女性も多く、隣に座るリディアから只ならぬ空気が発せられていたのは言うまでも無く、そう言う女性は不採用となった。
また、不採用となった女性達は今後一切サルビアでは雇わないと決められ、彼女たちがこちらで職を得ることは二度とない。
「滅せよ浮気!」
と言うリディアの言葉に、俺も強く頷いた。
その後も怒涛の面接は続き、合計100人の元貴族女性の裁縫師及び、検品が出来そうな裁縫スキルを持つ少し年齢が上の貴族女性を30人、更に手先が器用な平民の奥様方が20人雇えた。
続いてハウスキーパーだが、メイドとして長く働いてきた女性達が多く、その中でも性格の悪そうな女性は省いて必要人数を雇うことができ、尚且つ料理人に関しても、タウンハウスに住む彼女たちの食事を作ってくれる人材は確保できた。
すると、リディアがボソリと「箱庭で使ってる洗剤、置かないといけませんわね」と零していたのは言うまでも無く、タウンハウスには朝、箱庭から採れたての野菜や、肉に魚といったものを用意すると告げると、ホッとしていたようだ。
こうして丸一日を掛けて、面接が終わり、面接で合格した女性達を職員たちが人数分に分けて、タウンハウスへと連れて行ってくれた。
その間に箱庭に戻ると、箱庭産の洋服洗剤や食器洗剤、そして新鮮な野菜類がタウンハウスに届けられ、各種洗剤に関しては説明書付きで届けておいた。
翌日、ギルド職員の案内の元、『サルビア布製造所』へと到着した雇われた女性達は、中に入って驚いた事だろう。
大量のガーゼの布地が山のように積み重ねられ、一人ずつ座る椅子の後ろには糸や針といった裁縫に必要な物がズラリと並んでいたからだ。
「おはようございます皆さん。今日からここであなた方を教育する方をご紹介します。とても厳しい方々ですので、気を引き締めて仕事に取り掛かってください。では、サーシャさんとノマージュさん、ご挨拶を」
「初めまして皆さん、私はサーシャと申します。サルビアで売っている服やガーゼシリーズを最も作っているうちの一人です。あなた方はまだスキルが低いようなので、無理を言ってリディア様にガーゼ用の糸ではなく、布地を用意して頂きました。大丈夫です、あなた方も今以上に裁縫スキルが上がれば、糸をつむぐところから出来るでしょう。もし糸をつむぐことができるようになれば、昇進です。昇進した方は、洋服を作る部門に入って頂きます」
「初めまして皆さん、私はノマージュと申します。サーシャと二人今まで頑張ってきたうちの一人です。先ほども聞いた通り、あなた方のスキルが上がり糸を難なく作れるようになれば洋服部門へ昇進することができるでしょう。ですが、あなた方はスキルが少々低いので、今から死に物狂いで頑張ったとしても、早くて1年から2年はかかると思って下さい。それまではあなた方の指導の為に働きます。また、働きに応じ、この中から雇われオーナーを決めることになるでしょう。制作部門の雇われオーナー、検品部門の雇われオーナー。そして、手先の器用な主婦の方々にも、リーダーに向いている方はリーダーとして働いて貰います」
二人の言葉に裁縫師たちは沸きだった。
それもそうだろう、頑張ればいずれは昇進できる可能性が出来たのだから当たり前だ。
その上、雇われオーナーになれば給料も上がる。
競争率は高いが、彼女たちにしてみればトップに立ちたい気持ちは強いだろう。
「しかし!」
「やる気のない者は即辞めさせます。あなた方元貴族の女性の代わりなど幾らでもいますからね」
「それと、体調の悪い者などは前もって私たちに報告為さい。もしくは、無理をしてまで仕事に来なくて結構ですので、誰かしらに話をして休みを取る事も大事です」
「また、リディア様からあなた方を正式に雇う際、週に一度の休みを設ける事となりました。毎週日の曜日、その日は、サルビアは各店舗休みとなっています。この工場も同じです」
「ですが、納期が近づいているのに商品が出来ていない場合は、休みなど与えませんよ!」
「「「「はい!!」」」」
「それでは、仕事に入ります。分からない事は遠慮なく聞きなさい。シッカリとした商品を作る為に。また、作り直しと言うロストが無いように」
「「「「はい!!」」」」
――こうして、サーシャさんとノマージュさんにその後の『サルビア布製造所』を任せ、俺は次の仕事に向かう。
俺が忙しい間は頑張ってライトとロキシーがダンノージュ侯爵領の道具店を任せているが、今のところ連絡が無いと言う事は問題が無いのだろう。
時間が出来れば、ダンノージュ侯爵領の改革を急ぎたいが、こちらも手放せない以上コツコツやる必要があるな。
多少無理をしてでもスピーディーに進めなくては、治安の問題も大きい。
この混乱が続けば、やっと根絶やしにした闇商売が復活するかもしれない。
若い女性や子供たちが奴隷として売りに出される事だけは阻止しなくてはならないし、これ以上家庭内暴力で苦しむ女性や子供を増やすわけにはいかないんだ。
今も脳裏に残っている。
『破損部位修復ポーション』を使った時の子供が口にした「ママ?」と言う声が……。
二度とあんな声を出す子供を作りたくない一心で、俺とリディアは動く――。
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