第101話 久しぶりに集まった皆との報告会。

――カイルside――



――その日の夜。

道具店に額縁に入ったボディーソープやシャンプーのポスター等をオシャレに飾り、箱庭に戻ると属国となった側の店のレイスさんやイルノさん、そのほかのメンバーが揃っていた。

なんだか顔を合わせるのも久しぶりな気がするが、彼らは笑顔で俺に書類を渡すと「王太子様へのご報告の品だよ」と言われてゲッソリした。

とは言え、与えられた仕事はせねばならない為、寝る前に読むしかないだろう。



「それで、ダンノージュ侯爵領での仕事はどんな感じだいオーナー」

「暫く会えなかったから心配したんだぞ」

「ええ、リディアのお願いが余りにも大きかったので、一週間寝る間も惜しんでやっと本日オープンとなりました」

「ははは、リディア嬢のお願いが大きいとは、どんなお願いだったんだい?」

「そうですね、商店街丸ごと買い取って、丸ごと改革をした程度でしょうか」



その言葉にレイスさんとイルノさん、そして他の報告の為に来ていた数人が笑顔で固まった。

どれだけ忙しかったのは、多分察してくれると思う。



「リディアは圧力を掛けられてまともに仕事ができなくなっている商店街を救おうとしたようです。なので殆どの商品は箱庭産となってますね」

「それは良い事じゃないか」

「ああ、箱庭の野菜も果物も瑞々しくて美味いからな」

「あとは酒屋の為に新しいお酒を造ったようですよ」

「「後で飲ませてくれないだろうか」」

「明日の仕事に支障がない程度でしたらどうぞ」



こうして、アチラ側の商売に関して色々と情報交換も兼ねてやっていくと、概ね上手くやっていけてるようだ。

ただ、属国となって貴族は減ったが、娯楽が少ないというのがネックらしい。

また、貴族に卸していた牧場でも肉牛となる動物たちが余りはじめ、少々問題になっているのだとか。

それを聞いたとき、リディアの言っていた【焼肉定食】を思い出した。



「それでは、そちらの娯楽が少ない問題及び、牧場が困っている問題を一つで片付ける方法がありますので、リディアと相談した後、進めていきましょう。ダンノージュ侯爵家としてもどれ程の売り上げが出るのかは見てみたいところですので」

「本当にそんな店があるのか?」

「リディアが言うには勝ち戦しかない商売だそうです」

「それは頼もしいな」

「ただ、そうなるとかなりの人数を雇う事になりますので、早めにリディアと相談して話を、」

「わたくしがどうかしましたの?」



と、先に風呂に入っていたリディア達女性陣が戻ってくると、現在属国となった側では――と先ほどの事情を説明すると「テストとしては十分ですわね」と口にし、リディアの表情が商売人の顔つきになった。



「それでは、貴族が経営していた店をちょっと改装して焼肉店を作りましょう。数店舗」

「その焼肉店ってのは、どんなものなんだ?」

「ええ、七輪と呼ばれる焼き物の中に炭火を入れ、上に彫金で作った網を敷いて油を軽く塗って熱し、その上で肉を焼いて食べますの。肉はその困っている牧場から買い付けるとして、その他必要な物、野菜やお酒、酒のつまみになりそうなものを数種類用意して、我が箱庭産の秘蔵のタレで食べる逸品ですわ」

「でも、それは冒険者なら適当に魔物を倒して焼いて食べてるだろう?」

「では、近々皆さんとで食べてみましょうか。驚きましてよ?」

「ほう?」

「私たちも参加して良いのですか?」

「ええ、ちなみにご自分で極厚ステーキを焼いてみるってのも、魅力的じゃ御座いませんこと?」

「それは……」

「確かに」

「ふふふ。肉こそ正義。絶対に損はさせませんわ。カイル、七輪と網の用意が出来たらお肉を幾つか買ってきてくださいませ」

「分かった」

「それから、ダンノージュ侯爵領でお出ししている料理についてもレイスさんとイルノさんに感想を聞きたいわ。新しい商売になるのでしたら考えますし」

「そいつはいいな」

「では、お店が休日になる三日後。朝はカレーパン、昼はダンノージュ侯爵領で出している料理の一部、そして夜は焼肉にしましょう。お年寄りにはきついでしょうから、別料理もお出ししてね」

「はい」



こうして三日後、新たな商売となりそうな『焼肉定食』を食べれることになったが、秘蔵のタレと言うのはなんだろうか。今からとても気になる。

取り敢えず、イルノさんには新しいお酒を出す事で合意。

リディアも「焼肉にはビールですわ!」と俄然燃えていた。



ともあれ、属国となった方は売り上げも上々で問題なく過ごしているようで安心した。

問題はこの報告書だが……見るのが怖い。

そろそろ報告に行かねばならないが、それも二日後が報告日だ。



「レイスさん、緊急性の高いご報告は無いんですよね?」

「そうだね、没落していく貴族の多さと比例して、商業ギルドに押し寄せてくる元貴族の多さと、働き口の無さが問題かな? 道具店サルビアに『私を雇いたまえ』っていってくる人たちも多いものだよ」

「あー……」

「あとは、没落一歩前で城に赴いてアレコレと王太子に無茶ぶりしてる奴らも多いみたいだけど、追い出されているとは聞いている」

「頭が痛い……」

「市民の方は落ち着きつつあるが、今度は貴族連中及び、没落貴族連中の問題が浮上したね」

「さて、どうしたものか」



思わず溜息を零して書類を見ると、やはり貴族や没落貴族問題が主の様だ。

姥捨て山問題に関しては落ち着きつつあり、家庭内DVに関してもかなり変わった様だ。

保護された女性や子供達は、一旦酒場に集められているようだし、保護された老人達も同様に酒場に預けられている。

後はこちらの箱庭での保護という事になりそうだが、それも仕方ない事だろう。

丁度調理師スキルを持つ女性が多く欲しかったし、元気になったお婆さんたちには是非、ウエイトレスをして欲しい。

老いた女性にも働き口を見出すのがサルビアだ。

手から漏れることなく助けることができればそれに越したことは無い。


となると、今度は魔法が使える建築師が欲しくなるわけだが……一時的に雇えるようにするべきか悩むな。それだったら没落貴族の女性を雇い、裁縫師に回って貰った方が良いかもしれない。

やりようは色々あるだろう。



「リディア、二日後に保護した人たちを神殿契約後こちらに連れてくるけど大丈夫か?」

「ええ、お任せくださいな」

「ははは、また箱庭のレベルが上がりそうだね」

「そうですわね、わたくしの感覚ですけれど、人数が増えれば増える程箱庭が進化しそうですの。また人数が増えたら箱庭が変わるかもしれませんわ」

「凄いなリディアの箱庭は」

「ふふふ」

「取り敢えず、明日の仕事を乗り越えたら、次の日は城での仕事がある。その後の話にはなるが頼んだぞ」

「お任せくださいませ」



こうして書類も目を通して内容もシッカリと頭に入れた事だし、属国となった方では「雇え」と言ってくる人に対しては、「オーナーは現在ダンノージュ侯爵領です。」で追いかえして欲しいと頼むと、レイスさんやイルノさん達も了解してくれたようだ。



それにしても、没落しかけの貴族と没落貴族か。

リディアの実家はどうなったんだろうな……。

リディアの前では言えなかったが、気になる問題だ。



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本日も一日三回更新です。

宜しくお願いします(`・ω・´)ゞ

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