第85話 お婆ちゃんウエイトレスと、小さな先生方と。
それは、何時もの朝でした。
調理用の窯からは美味しそうな香りがして、わたくしが用意したパンを焼く大型オーブンからも美味しそうな香りが漂う、そんな朝でした。
幸せに満ちた朝。そんな朝が今――壊れましたわ。
「アタシたちにもお願いだからお店で働かせて頂戴」
「一度ウエイトレスしてみたかったのよぉ」
「若い子ばかりがウエイトレスしてるなんてねぇ?」
「私たちもオシャレをしてみたいの。ダメかしら?」
「ですが、商業ギルドで人を雇う事になってますし……」
「そこをなんとか!」
「アタシたちの若い頃の夢なのよ!」
「綺麗に着飾ってお客様に美味しいご飯をだしたいわ!」
「ですが……」
新たに入ったお婆様の調理師組が、ウエイトレスとして働きたいと申し出ておりますの。
わたくしは、それはそれでありじゃないかしらと思ってますわ。
朝から若い子を見たい男性も多いでしょうけれど、母親に飢えている男性と言うのは多いですわ。寧ろ男性というのはマザコンだと前世で聞いたことが御座いますもの。
「でも、お洋服とか……」
「それはこう……メイドみたいな!」
「誰もミニスカを穿きたいとは言っていないのよ?」
「ロングでいいの。オシャレをして料理を出したいわ」
お婆様達、とってもお元気!
わたくしはニコニコしながら食事をしていると、今度はお爺様たちが声を上げますわ。
「ワシは嫌じゃ。朝は若い子がええ」
「ワシも朝から婆様達よりも、若い子にいってらっしゃいって言われたい」
「見るなら若い子じゃ」
まぁ! お爺様ったら幾つになってもオスですわね。
それも男の性……と言うべきなのかしら?
「爺様たちは黙っておれ!」
「これは調理師の問題じゃ!」
「何を言う! 客目線は大事じゃろう!」
「そうじゃそうじゃ! 若いのがええ!」
此処で朝からお爺様とお婆様の仲の良い喧嘩が勃発。
ロキシーお姉ちゃんはそれを静かに静観しつつ、皆さんも気にすることなく料理を食べていらっしゃいますわ。
しかし――火の粉とはどこにでも飛びにするもの。
「カイルも若い子のウエイトレスがええじゃろう? なぁ? なぁ!?」
「え……」
「朝一番は可愛い娘の笑顔じゃよな!!」
「まぁ! なんだい!? アタシたちの事が可愛いくないとでも言いたいのかい!?」
「年齢を考えろと言うとるんじゃ!」
「どうなんじゃカイル!!」
「えーっと……俺はリディア命なので、正直他の女性は分からないです」
「「「「カ―――!!!」」」」
何が「カ――!」なんでしょう。
お爺様たちが口々に「あまずっぺえ!」と叫んでますわ。
お婆様方もお爺様たちもこれ以上ヒートアップしそうですわね……。そろそろわたくしが声を出しましょう。
そう思った時でした。
「アタシは、婆様達がウエイトレスって良いと思うね。寧ろ他にない色が出せて最高だと思うよ」
「あら、ロキシーお姉ちゃんもそう思います?」
「リディアもかい?」
「ええ、確かに若い人を雇っているカフェは多いですわ。でも、お年を召した女性がオシャレをして働いてもいいではありませんの。寧ろ、とっても素敵ですわ! その勢いのある他のお婆様やお爺様? よろしければ別の店の店員として働きませんこと?」
「それもいいね」
「働き口があるなら働きたいよ」
「では、後で雇用契約を結びましょう。と言う事で! わたくしとロキシーお姉ちゃんは調理師のお婆様方がウエイトレスになるのは俄然賛成ですわ!」
「リディア様……」
「リディアお嬢ちゃん……」
「女性は幾つになっても輝いていたい生き物でしてよ?」
そう言うと、若い調理師組は、リディア様が仰るならと言う事で、お年を召した調理師免許を持つお婆様方をウエイトレスとして雇う事を決定。
お婆様方の勝利ですわね!!
お爺様たちは「誰が得するんじゃ――!」と言ってましたが、輝くお婆様達を見てときめくのは目に見えてましてよ!!!
「となると、調理師免許を持つお婆様達のウエイトレス用の洋服が必要ですわね。サーシャさんにノマージュさん!」
「「是非、力いっぱいお似合いのドレスをご用意します!」」
「宜しくお願いしますわね!」
こうして、上は89歳、下は65歳までの調理師スキルを持つお婆様達がウエイトレスとして働くことになりましたわ!
無論、それを聞くと俄然自分だってオシャレな服を着たい! と言うお婆様達は出てくるもので、数名のお婆様方が手を上げられましたわ。
そして、お年寄り組で時間を決めてウエイトレスをしようと言うことになったようで安心ですわね。
化粧は出来るだけ薄くしてほしい旨を伝えると、
「アタシたちのシワだらけの顔じゃ化粧なんて上等なものはシワに埋もれちまうよ」
「軽いお粉と、カラーリップだけで充分」
「出来れば健康的に見える頬紅くらいはさしたいねぇ」
「それ位でしたら大丈夫ですわ」
「ありがとねリディアちゃん」
「アタシたちも、もう一度でいいから輝いてみたいんだよ」
「幾つになっても女性とは輝いていたいものですもの、是非、可愛いお婆様たちになってくださいませ!」
「「「「ありがとねぇ!!」」」」
こうして、朝一番の喧嘩は収まり、爺様達は少し不機嫌でしたが、嬉しそうに笑うお婆様達にまんざらではなさそうですわ。
あらやだ、お爺様たちはツンデレなのかしら。
カイルも将来ツンデレ――には、絶対になりませんわね。
これは貴重な体験としてシッカリと目に焼き付けましょう。
「やはり黒と白を基調に」
「フリルも多めにしたいわ」
「お婆様達の髪を整えるヘアアクセサリーに」
「お年を召しているからこその可愛いオシャレ」
「これは新たな扉ですねサーシャ!」
「ええ! 新たな扉ですわノマージュ!!」
「「「ああん! アタシたちも早く仲間にはいりたいー!」」」
「早く小屋を建ててから急ぎやってきてくださいね! 待ってますから!」
「アタシは年齢的に想像つかないから、モデルでもしようかねぇ」
「アタシたち婆様組はモデルじゃわ」
「存分に使って下さいな」
「「「素晴らしいモデルを有難うございます!!」」」
どうやら、裁縫組も上手くまとまったようですわ。
カイルは朝から冷や汗でしたわね……ご苦労様ですわ。
すると――。
「幾つになっても輝きたい……良いじゃないか。アタシもいくつになっても輝いていられるようにしないとね」
「ロキシーお姉ちゃんなら大丈夫ですわ。今でもとっても美しいですもの!」
「そう言ってくれるのはリディアとライトくらいだよ」
「ワ……ワシらだって二人は輝いて見えるぞ?」
「二人は別格じゃ」
「ありがてぇありがてぇ」
「「ふふふふ!」」
嫉妬の炎に目を燃やすカイルの太ももを抓ってロキシーお姉ちゃんと微笑み、本日も平和な日常。
お年を召した女性の仕事用のオシャレ着、とっても楽しみですわ!
『カフェ・サルビア』開店まで、残り一週間。
わたくしはアイテム制作に勤しみ、陶芸家の方々も朝食後は陶芸に勤しみ……皆さんが頑張って働いていますわ。
無論、青空教室用の机と椅子、筆記道具に教科書、各クラス分の黒板にチョークも忘れてません事よ。
明後日からは青空教室も始まりますし、賑やかな箱庭になりますわね。
無論、勉強には最初に保護した子供である、リリーちゃんとアンリちゃんも参加ですわ!
「箱庭に来てから力が有り余っていけねぇ。仕事だ仕事!」
「ワシらも仕事に取り掛かるぞ」
「アタシたちは今から昼ご飯の考案といくかね」
「そうだね。人数も多いから今から仕立てないと! 野菜を貰いたいからザザンダさん、一緒に農園にいっていいかい?」
「ええ、どうぞ」
「漁師のノーマンとナノン! いい魚が入ってたら幾らか欲しいねぇ」
「色々入ってますよ」
「丁度いいから今見せておくれ」
と、新鮮な魚を籠に乗せていく漁師の二人に、今日のお昼はお魚料理かしら~と思いながら、各自仕事へと向かったそんな平和な日でしたが――。
「おもちゃはね? ぬいぐるみと、あかちゃんがにぎりやすいのがいいよ」
「おとがなるのもすきね! カラカラとか、シャラシャラとか!」
「あとね、少し太めの紐と、カシャカシャ音がなるのも好きよ?」
「あたし、このバウンサー? 小さい時にあったら、すやすやねれたわきっと!」
「あかちゃんって、くちさびしいでしょう? おくちにいれるオモチャとかないの?」
「ああああ、幼い先生達、全部メモしますからお待ちになって!」
池鏡にて、ノートを出して小さな先生達に赤ちゃん用のオモチャの案を出してもらい、ガンガンメモしては作ってを繰り返す時間は、とても楽しい時間でしたわ!
こうやって作られた商品は、彼らに幾らか分のお金として支払われますの。
情報はタダでは御座いませんもの!!
「あとはねー」
小さな先生はとっても物知りですわ。
可愛い先生に囲まれた授業は、何よりも楽しい時間でしたわ!
お礼に絵本を5冊手渡すと、皆さん思い思いの場所で読んでましたが、前世の世界の物語を此方にあわせた内容ですけれど、大丈夫かしら?
きっと、大丈夫よね!
こうして楽しい時間と一緒に、大量の商品が生み出される日々ですわ!
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ウエイトレスがお婆ちゃんでもいいじゃない?
絶対他の店にはない魅力があるよ!
先生は小さくても良いじゃない?
子育てしてたら子供が先生よ!
と言う思いで楽しく書かせて頂きましたw
野次を飛ばす爺様たちも、なんだかんだと婆様達が嬉しそうだったら
悪態つきながらも心では嬉しいんだろうなと思ったり。
ツンデレ爺たち。いいですよね!
今日もお越しくださり有難うございます。
♡や★など有難うございます!
とても励みになっております!
今後もボチボチ頑張りますので応援よろしくお願いします。
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