第57話 輝きたかった願いは上手くいかない。

――紅蓮の華side――



その頃、私たち紅蓮の華のメンバー全員で王国を出ようと必死になっていた。

誰が盗んだかは分からないけど、メンバーの誰かがよりによって『サラマンダーの涙』を闇オークションなんかに出したが為に、国王からも疑いを掛けられ、自由に動くことが難しくなってきた。

それだけじゃない。

私たちが聖水を使わず鞄にため込んでいることもバレているようだった。

しかも、その所為で紅蓮の華は輝かしいSランク冒険者だと言うのに、荒れ狂うサラマンダーの囮に使うだなんて横暴な事までやらされる羽目になった。


だったら、この国を出て別の国に逃げてしまえば良いじゃない。

冒険者ギルド経由で何かくれば多少手痛いことにはなるだろうけれど、命までは取られることは無いはず。


そう思って闇夜に隠れて王国の外に出ようとしているのに、どこもかしこも騎士が見張りをしていて外に出られない。



「サーディス、何処か出られる場所は無いの!?」

「ダメだね、全ての門は閉められている上に、見張りの人数が多すぎる。逃げ出そうにも騎士を殺して外に出るしかなさそうだよ」

「王国の騎士を殺すのはヤバいんじゃ……」

「見つからなければいいのよ。何人殺したって見つからなければね」

「でもリーダー……」

「うるさいわね。私が良いって言ってるんだから良いのよ! 一々ケチ付けないで! 大体こうなったのも『サラマンダーの涙』を闇オークションに出した馬鹿がいるからでしょ! 本当誰なのよ!!」

「「「………」」」



レベルの高いこの国の冒険者なら、誰もが知っている『サラマンダーの涙』。

それを盗るなんてどんだけ命知らずなのよ。

イライラしながら暗がりを移動し、騎士の人数が少ない場所に出ると、私たちは一気に塀を登ってまずは一人。

途端、空に照明弾が上がった為、直ぐに塀を降りようとしたけれど、騎士の一人が私たちに何かを投げつけた瞬間、全員がワイヤーのような網に捕まり身動きが取れない!!



「クソ! なんだよこれ!」

「手足が痺れるわ!」



藻掻けば藻掻くほど手足が痺れて力が入らなくなっていく。

一体何がどうなっているの!?

それでも何とか短剣を手にしてワイヤーを切ろうとした途端、私の喉先に剣先が伸びた。



「そこまでだ、アニーダ」

「付与師に頼んで作って貰った甲斐がありましたね」

「どういう事よ! 何なのよこれ!」

「お前たち紅蓮の華が逃げるのではないかと言う情報は騎士団にも来ていたんだよ。だから付与師に頼んで魔物を捕まえる網に麻痺効果を付与してくれた。良かったなアニーダに他の連中も。騎士殺しはこの国では重罪だ。お前たちには素敵な奴隷の首輪が贈られるだろう」



奴隷の首輪と聞いて、私の彼氏でもあり魔法使いのサーディスは小さな悲鳴を上げた。

痺れて動けない私たちを床に転がし、アイテムボックスを奪い取っていく騎士団を睨みつけていると、使っていなかった聖水が大量に入っているのがバレてしまった。

他の場所で売って金にしようと思っていたのにっ!



「団長、こちらを見てください」

「ん?」



私が唇を噛んで悔しがっていると、最近入ったBランクの冒険者の鞄から、一枚の紙を取り出し団長に見せている。

何よアレ。

一体なんの書類なのよ。



「闇オークションでの取り引きした書類だな。アイテム名は『サラマンダーの涙』と……」

「なんですって!? セシル! アンタなんてことを!!」

「だって俺はこの国の冒険者じゃなかったし! 金になりそうなものだったから一儲けさせてもらおうって思って……」

「馬鹿じゃないの!!」

「俺が馬鹿だったら、アンタは愚か者だ! 俺だけを責めるんじゃねーよ!!」

「はぁ!?」

「聖水は別の国に行ったときに売るから使うなって、俺達に命令してたじゃねーか!」

「そうよ! ダンジョン鎮静化はいいのかって聞いたら『テキトーにしとけば騎士団が何とかするわよ』っていってたじゃない! 『簡単な仕事ね』って言ってたじゃない!」

「う……煩いわね! そんな事言ってないわよ!!」

「仲間割れは牢屋でして貰おうか。連れていけ!」



その後もギャーギャーと喚いて叫んでやったけれど、騎士団は私たちから武器や隠している予備の武器、更にアイテムボックスまで奪い取った上で、一人ずつ地下牢になげいれやがったわ!

しかも体がマヒ状態になる手錠を付けられて……っ!

絶対許さない!

こんな扱いを受けていい私たちじゃないのよ!?



「明日の朝には皆お揃いの奴隷の首輪だ。ついでに武器を持たずにお前たちは昼にはサラマンダーの囮に使われる。鎮静化を率先して妨げた事、騎士を殺害した事、その他何があるかは知らんが、罪状を国民と冒険者に伝える為に広場で奴隷の首輪を装着させる。こうなった場合を見越した上での陛下からの命令だ」

「ふざけないでよ! 騎士団がちょっと本気を出せばダンジョンなんてすぐに鎮静化させることが出来るくせに! 何時もこの国は使い潰しが利く冒険者を危険な場所に向かわせて高い所から高みの見物するのが国なのよね! 国王陛下がクズだからダンジョンが活性化したんじゃないんですかー?」

「陛下への侮辱罪を追加しとけ」

「はい」

「全く、ロキシーが居る頃の華やかな紅蓮の華が懐かしいよ。ロキシーが抜けてからの紅蓮の華は見ていられない程落ちぶれちまったな」



ロキシー。

その名を聞いた瞬間、身体から殺気が溢れ出た。

私のライバルで、何時も中心にいて、誰にでも分け隔てなくて、眩しい存在だった。

手のかかる魔法使いに恋をしていて……悔しいからロキシーが手を出せない内に、寝取ってやった。

途端、ロキシーは紅蓮の華を抜けて、ざまぁみろってずっと思ってたのに、その後は仲間だった奴らが一人抜け、二人抜け……最後は私と魔法使いだけ……。


皆が言うのよ。

ロキシーが居た頃が良かったって。


皆が言うのよ。

今の紅蓮の華はクズの集まりだって。


何時も何度も何処へ行っても、ロキシーロキシー……っ!

失恋して逃げていったあの女が、そんなに良いって言うの!?



「アンタ達いい加減に、」

「ロキシーと言えば、綺麗になったよなぁ」

「ああ、綺麗になったな。今では王国内では知らぬ物が居ない名店中の名店、ネイルサロン・サルビアのオーナーだったか?」

「雇われオーナーらしいが、あの劇団ヒグラシとの契約もロキシーが手掛けたとか」

「凄いなロキシー」

「冒険者を辞めたのに、相変わらずの手腕と魅力だな」

「ああ、あんないい女は早々いねぇよ。高嶺の花過ぎて手が出せない」

「言えてる」



ロキシーが……あの予約の取れないと有名な、私ですら予約が取れなかったあの有名なネイルサロン・サルビアのオーナーですって?

しかも、王国民に愛されている劇団ヒグラシとの契約……?

綺麗になったって何……?

失恋して梟の羽で落ちぶれてるって聞いて笑ってたのに、どういう事なの?



「どういう……事なの?」


――本当に。

私はロキシーに勝ったんじゃなかったの?

だって、そうじゃなかったら私はどうしたらいいの……?

そう思ったその瞬間。



「畜生!! カイルが居るからって聞いて田舎からこっちにきてSランクのチームに入れたって言うのに! なんで上手くいかないんだ!!」

「カイル? ああ、道具店サルビアのオーナーの知り合いだったのかお前」

「その様子からして、カイルから縁切りされて、にっちもさっちも行かなくなって紅蓮の華に入ったってところか。お前馬鹿野郎だなぁ……」

「カイルさんの店には何時も世話になってるんだよ。息子の汗疹が酷くて毎年困ってたんだけど、カイルさんの店のアイテムに汗疹を予防する薬があってさ」

「ああ、俺はハッカ水を毎回買ってる。冒険者も多いんだよなぁ……あの店」

「そう言いつつ、ロキシーが店員してるからコッソリ見に行ってるんだろ?」

「そりゃ眼福だからな。あの笑顔が見られた日は最高の酒が飲める」

「分かる」

「それに比べて……」



そう言うと私たちを見つめる騎士たちの目は、まるでゴミを見るような目だった。



「隊長、この差って何処で生まれるんですかね?」

「そりゃ、心が清く正しいか、妬み恨み嫉妬で腐ってるかのどっちかだろ」

「なるほど」

「お前ら二人、妬んでる相手の爪の垢でも煎じて飲めば聖水くらいの威力が発揮されて清らかになるんじゃないか?」

「清らかになった所で明日の朝は奴隷おちだ」

「そうでしたね」



そう言うと、もう私たちには興味もないとばかりに去って行き、重い鉄の扉が閉まる音が聞こえた……。



何時から?

そんなの分からない。

でも皆がロキシーロキシーっていうから……私も同じくらい、輝きたかった。

ただ、それだけなのに、何処から間違えたのかも、もう分からないわ………。







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本日二回目の更新です。

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