第44話 ネイルサロンへの大口依頼(中)
ネイルサロン・サルビアは、白と青、それに金を基調にしたエレガントな作りになっておりますの。
店内にはジャスミンの優しい香りがしていて、リラックス効果を高めてくださいますわ。
広い店内には、従者の方々が座って待つことが出来る席と、女性やお子様向けの商品を並べておりますの。
今一番人気はハッカ水ですけれど、優しい香りが売りのコロンやハンドクリーム、それに乾燥を防ぐカラーリップも良く売れているそうですわ。
また、髪を整えるアクセサリーもそれなりに売れているそうで、今では庶民の間では【シュシュ】が大流行。
髪を結ぶ際に付けるゴムに、多種多様の布やレースをあしらって作りましたけれど、二、三個持っていればオシャレの幅が広がるとして、お年を召した方からも熱い視線が注がれてますわ。
無論、女性の冒険者の方々にとってもシュシュは流行していて、各々自分のカラーを身にまとう事でクエストの成功の願掛けにしているそうです。
また、彼氏や夫にも願掛けをしたい奥様や彼女様達は、男性用の願掛けグッズも買っていかれますわ。
腕に巻くリストバンドや、ハンカチなどが主流ですが、ちゃんと模様に健康を願うものや、勝利を意味する模様等を縫い付けている為、プレゼントに最適なのだそう。
更に言うと、ダルメシアンが働いていることもあり、男性客も訪れることが多くなったそうですわ。
何でも彼女へのプレゼントや、奥様へのプレゼントに買いに来られるのだそうで、仲睦まじい姿を想像すると心が温かくなりますわね。
――なんて事を思いつつ、皆さんがネイルサロン・サルビアに集まる頃、わたくしも急いで向かいましたわ。
最近ハッカ水ばかり作っているからか、私の体から爽やかな香りがするのは気のせいだと嬉しいですけれど……。
「では、これより劇団ヒグラシからの大口依頼を説明する」
そう声を上げたのはロキシーお姉ちゃん。流石ネイリストのまとめ役ですわね!
「劇団ヒグラシからの要望は、毎日ネイルを施して欲しいと言う物。しかしアタシたちネイリストの人数ではとても捌き切れないと判断し、ネイルではなく、ネイルチップを大々的に売り込む事にしようと思う。
また、ネイルチップに関しては仕事の合間などで作ってくれると助かる。貴族様や冒険者にするようなネイルではなく、単色でもグラデーションでも構わない。取り敢えず見本としてアタシが作ったネイルチップを見て欲しい」
その言葉に全員でロキシーお姉ちゃんが作ったネイルチップを見ると、パール系とトップコートにラメの入ったモノを使っている様子。
「パール系で派手な物は今のところないが、ベースコートのラメならば舞台からでも照明で爪の輝きは見えると思う。これならば舞台としても映えるのではないかと推測するが、皆の意見を聞きたい」
「ラメ系は確かに舞台で映えると思います。特に重要人物である20人の爪の色によりますが、全ての色でトップコートのラメは負けませんからアリです」
「控えめな役の方でしたら、パール系でも良いと思います。キラキラとした星のように見えて素敵だと思いますし、差がでて良いと思います」
「現在新作のマニキュアを合わせて72色ありますから、役どころにあわせても数は十分かと」
「ネイルチップを大々的に売り出すチャンスだと思います! 今はネイルチップと言うと、若い女性でそれこそデートの日だけって人ばかりですけど、劇団で使って貰えたらネイルチップにも注目が集まると思います!」
「私は休日がどうなるのかとか気になります。一日オフの日は欲しいです」
「割増料金発生で給料は上がりますか!?」
等など、皆さん概ね乗り気なようです。
メルさんは皆さんの要望を素早くメモしていってますし、後でまとめるのに楽が出来そうですね。
それから二時間ほど話し合いがなされ、出された結果としてはこうです。
・ネイルチップによる毎日の交換作業に一日2時間の出張料金。
・ネイルチップは必ず契約して貰ってからすることを徹底し、次の日来てなかった場合は、呼び出されても剥がしに行く事はしないので、必ず来てもらう事。
・一カ月の出張で金貨3枚。その後も公演がある場合は都度再契約すること。
・週一の休みの確保の為、二回はネイルチップ無しでの練習を行って貰う事。
大まかに纏めるとこんな感じでしたわ。
後はこの内容で、劇団ヒグラシが了承をすれば一か月後に迫った公演までの間、ネイルチップを持って皆さんで劇団まで向かう事になるのでしょうが、無論わたくしはお留守番。
でも興味がありますので、こっそりライトさんと一緒に池鏡から覗こうと思いますわ。
そう言えば――。
「はい」
「ん? リディアちゃん何か案でもあるのかい?」
「いえ、そう言えばわたくし、【グロスリップ】を試作しておきながら出してなかったなと、今更ながらに思い出したのです」
「「「ぐろすりっぷ」」」
「この様な物なのですが」
鞄から透明な液体の入ったモノが入った細長い小さな瓶を取り出すと、蓋を開けて筆を見せましたわ。
「折角ですし、ロキシーお姉ちゃん着けてみてくださる?」
「良いのかい?」
「ええ、かなり印象が変わると思いますわ」
そう言うとロキシーお姉ちゃんは手鏡を手に透明なグロスリップを唇に塗り、馴染ませてから「へぇ……こいつは凄い」と声を上げられましたわ。
そして、ロキシーお姉ちゃんが振り向くと女性陣は驚愕の表情で見つめ、カイルは呆然としていますわね。
「これは、ネイルで言うところのトップコートに近い感じかい?」
「当たりですわ! どんな色合いの口紅の上から塗っても、艶めく美しい唇になりますの。これ、劇団で売れませんかしら?」
「貴族の間でもこれは売れるだろうねぇ……。量産は今から可能かい?」
「試作品にと思ってつい多めに200本作ってしまいましたの。まずは200本をどうにかしないと、」
「1000本でも売れるよこれは」
「そんなにですの!?」
「ネイルサロンの女共! 明日からこの透明なグロスリップ……呼び辛いね、透明グロスを唇に塗って宣伝!!」
「「「「「はい!」」」」」
「これは爆発的に今後売れるよ! プルプルの唇が好きな男も女も多いからね! あんた達、オシャレにキメるよ!!」
「「「「はい!!」」」」
「ってことでリディアは透明グロスを今から量産開始、明日だけでいいから透明グロスを20本別枠で用意できるね? そうだね、お近づきにと言う事で、贈呈用で頼むよ!」
「は、はい!」
「これで更に金を毟り取ってやるよ!!」
ロキシーお姉ちゃんの目にお金が見えますわ!!
そんなに求めていた物でしたの!?
でも、今から贈呈用に20本……作るとしたら100本ずつが楽ですわね。
残った分はネイルサロンと道具店サルビアの二階で売りましょう。
「それと明日、劇団ヒグラシが来る前にネイルパッチを各自10枚ずつ用意! 色は単色から簡単に出来るグラデーションまで作って、トップコートはラメ入りを使用! アタシはパール系を作っておく」
「「「「了解しました!!」」」」
「よし、解散!」
あっという間に決まってしまいましたわ!!
帰り際、ネイリストの方々に一人一本ずつ透明グロスを手渡すと、とても喜んでいらっしゃったし、新たなる収入源確保ですわね!
女性の美への探求心と言うか、欲望と言うべきか……凄まじいですわ。
「透明グロスの売り文句は、夏の日差しにも負けない艶めき……とかですかね」
「流石ライトさんですわね。わたくし、美味しそうな唇とかしか出てきませんでしたわ」
「食べてしまいたい」
「兄さん……」
「すまん」
「?」
取り敢えず最後は良く解りませんでしたけれど、ネイルサロン・サルビアから箱庭に戻ると、ご飯の用意の前にサクッと100本の透明グロスを作る事にしましたわ。
作り方はリップよりも簡単で、結構お手軽ですの。
お値段にすると、いくら位が宜しいかしら??
そんな事を思いつつクリスタルを用いて作り上げると、まず20本を箱に詰めて贈答用に。
残りをお店で売れるようにしておきましたわ。
さて、急いで晩御飯にしないとカイルたちが温泉から上がってしまいますわね。
今日は手抜きに、スタミナ丼!
シッカリお肉を食べて、明日に備えましてよ!!
============
お越しくださり有難うございます。
今日も一日三回更新です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます