第45話 ネイルサロンへの大口依頼(下)

翌日、ネイルサロン・サルビアには劇団からの使者がお越しになっておりました。

わたくしはハッカ水の為の道具と聖水の為の道具をアイテムボックスに入れて、池鏡から様子を伺いますわ!

だって気になるんですもの!!


ネイルサロン・サルビアのオーナーであるロキシーお姉ちゃんと、劇団ヒグラシとの話し合いをするべく、奥の個室へと向かう途中すらドキドキしましたの。

各自席に着き、商談開始ですわ!!



『そちらの劇団員50人にネイルを毎日施すと言う事でしたが、とてもネイリストの人数が足りず、別の方法を取らせて頂きたく思います』

『別の方法ですか』

『こちらをご覧ください』



ロキシーお姉ちゃんが見本用のネイルチップを見せると、劇団員の方は驚いた様子で一枚ずつ取り、ネイルチップに触って『ほおお……』と驚いているようでしたわ。



『こちらの商品は爪に貼るタイプのネイルチップと呼ばれるものです。一日一回剥がす手間はいりますが、既に完成したものを貼るだけですので50人分ならば直ぐに出来るかと。また爪の上から付けるものですので、違和感は皆さん殆どないと好評です』

『確かに、完成されたネイルチップを毎日着けることで、公演開始までの間に役を演じる役者に合わせた色を豊富に試せると言うのは有難いですな』

『そう言う利点もありますが、更にこちらのネイルチップをご覧ください』



そう言ってロキシーお姉ちゃんが取り出したのはラメ入りのネイルチップに、パール系の輝くネイルチップ。

此方こそがネイルに関しては本命ですわ!

輝くネイルチップを見た劇団員の方々からは大きな声が上がり、出されたネイルチップを取っては見つめ、別のものを取っては見つめ、感動していらっしゃるようす。



『舞台に映えるようにと色々考えた結果、照明の明かりなどで爪が煌めくと言うのも、一つの演出かと思い、このタイプをご用意しました』

『これは素晴らしい!! 是非こちらでお願いしたいです!』

『有難うございます。また、役どころでは華やかではないにしろ、穏やかな役を演じる方もいらっしゃいますでしょうから、こちらのパール系もご用意しております』

『優しい色合いですな……。しかし光が当たると何とも柔らかい光が灯る事か……』

『ネイルチップの良さは手軽さと剥がす時間が短いと言う点にあります。どうでしょう?ネイルに拘らず、ネイルチップをお勧めしたいと思いますが』

『毎日来て頂けるのなら是非!』

『いいえ、毎日ではありません。当店のネイリストも仕事の終わった後にそちらに向かう訳ですから、一日は必ず休みが欲しいと言う要望が多く出ましてね。二日はネイル無しでの練習をして頂ければと思います』

『なるほど、確かにそちらの仕事が終わり次第来ていただくのですから、負担は激しいでしょう……。分かりました。そちらの案を全て飲ませて頂きたく思います』

『有難うございます。出張料も含め、まず一カ月は金貨3枚となりますが宜しいでしょうか?』



ドンドン話が進んでますわ。

金貨3枚でも劇団の方は即了承してくださいましたしホッとしました。

お金のことで揉めるのは大変ですものね。

また、ネイルチップに関しては魔法契約を一人ずつ結ぶ事なども説明が行われ、順調に、かつスムーズに話が進み、契約がなされましたわ。

さて、此処からは売り込みでしてよ!!



『ところで、ロキシー殿の唇は……新しい口紅が此方で発売されたのでしょうか?』

『ええ、透明グロスと言って、普段使っている口紅の上に塗るタイプのものです。今後ネイルサロン及び、道具店サルビアにて販売される新商品です』

『劇に使えばとても映えるでしょうな! しかしお高いのでは?』

『銀貨二枚となっておりますが』

『銀貨二枚なら……一人一本ずつ予約が出来るだろうか? しかし毎日使うモノだから、その透明グロスと言うのも消耗が激しいだろう……』

『そう思いまして、今後とも劇団の皆さまとは御贔屓にして頂きたく、20本程贈呈用としてこちらにご用意しております』



スッとロキシーお姉ちゃんが贈呈用の透明グロスの入った箱を出すと、劇団員の方々は感嘆した声を上げていらっしゃいましたわ。



『本日から販売開始のモノですから、直ぐに売り切れることも考慮しまして』

『いやはや、20本頂けるなら劇団員に使って貰って照明を当ててと色々試すことが出来ます! ネイルサロン・サルビアの名も更に王都に轟くのでしょうなぁ!』

『そう言っていただけると幸いですわ。是非、今後ともご懇意に。それから、昨日依頼がありましたハッカ水200本のご注文の品は届いております。お持ち帰られますか?』

『勿論です! 支払いも金貨3枚も含め一括で支払っていきましょう。是非明日から、こちらの仕事が終わってから劇団ヒグラシにまでお越し頂けたら幸いです』

『勿論です。また、透明グロスは人気商品の筆頭になりえますから、もしご入用でしたら早めにお話を頂けると助かります』

『是非そうさせて頂こう。素晴らしい商談を有難うございます!』



無事、滞りなく商談は終わったようですわね。

透明グロスを作るのはとても簡単で量産も可能ですのに、敢えて付加価値を付けさせた感じかしら?

お店を覗いても透明グロスは飛ぶように売れてますものね……。

主がネイルをしている隙にと言わんばかりに女性のメイドさん達が群がって凄い事になってましたので、追加の売り場を計三か所用意したようですわ。

更に、個室ではネイリストの皆さんの唇を見て商品が欲しいと言うお貴族様に、お部屋でご購入出来る様に朝直ぐに整えておいてよかったですわ……。



爪も唇も美しく。

更に匂いのキツイ従来の香水よりも、柔らかな香りのコロンを身にまとう事で柔らかさを演出! 乾燥しがちの目にはうるおい成分配合の目薬に、赤ちゃんが触っても害のない白粉と、これだけ美容関係があれば問題はなさそうですわね。

売り上げも上々、貴族様相手ですから特に売り上げは多いですし、チップとしてネイリストたちには個人で使えるようなお金も舞い込んで一石二鳥でしてよ!


本当に問題なく進んでくださって良かった。

まぁ、ネイルに関してはわたくしもお手伝いで作りますけれど、皆さんと同じくらいわたくしも忙しいですわ。

箱庭に閉じこもって皆さんの働く姿を見つめながら忙しい日々。

嗚呼……なんて充実しているのかしら。


問題があるとすれば、今後ネイリストを増やすかどうかですわね。

何度か道具店サルビアに、ネイリストになりたいと言う方々が来たことがありますけれど、神殿契約を結ばねばならないと言ったところ、逃げ帰ったみたいですし。

中々うまくは行かないものですわ。


取り敢えず今の人数で出来るところまでやってみましょう。

人数が少ないが故に、ネイルの価値が上がってますものね。

冒険者、庶民、貴族の間で大流行中ですもの。


今度カイルやロキシーお姉ちゃんたちと一緒に相談してみましょう。

何かいい案が出るかもしれませんわ。

とは言っても、まずは劇団ヒグラシの公演の大成功を祈るのが先ですわね。


わたくしも、もう少し涼しくなればハッカ水から逃げ出すことが出来るのかしら……。

そんな事を色々思いながら、今日も一人、ハッカ水を大量生産するわたくしでしたわ。




==========

本日も一日三回更新です。

こちらは二話目です。

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