第40話 カイルの男気と、リディアへの秘密の想いと。

――カイルside――



思わず、自分の持っているスキルを使ってしまった。

冒険者の際にはとても役に立った俺の持つスキル――【炎の咆哮】。

相手を恐怖状態に陥れ、動きを鈍くさせる為のスキルだったが、人間相手に使ったのは、生まれて初めてだった。

けれど、それ程までに頭に来たんだ。


仕入れ先――リディアをも奪うつもりだと言われたような気がして、止まることが出来なかった。

リディアがあんな奴等に好き勝手使われる姿何て想像だってしたくない。

自分があれ程までに頭に血が上ったことだって、一度たりとも無かった。


魔付きになり、仲間だった奴らからパーティを追い出された時ですら冷静だったのに。

リディアに関する事になると、どうしても止まらなかった自分に驚きを隠せなかった。

――もっと冷静になれ。

――きっと今日の出来事をリディアが見ていたら悲しむ。

――いや、俺の事を怖がって近寄ってくれなくなるかもしれない。

そう思うと、心が冷えあがるような気がして寒気が起きた。



「兄さん」

「ライトか、どうした?」

「着替えてくるのが遅かったから心配になって……兄さん大丈夫? 顔色が優れないけど」

「そうか? きっと冷えたせいだろう」

「リディア姉さんに嫌われると思ったから?」



思わぬ言葉に目を見開くと、ライトは「兄さんらしいなぁ」と苦笑いをしていた。



「大丈夫だよ。リディア姉さんなら今頃『カイルってば素敵!』って思ってくれてるはずだから」

「お前、リディアの物真似上手いな」

「だから安心して皆の所に戻りなよ。それに、ネイリストの三人もきっと兄さんの言葉に励まされたり、喜んでると思う」

「ライト……」

「兄さんは従業員を守ったんだ。もっと胸を張るべきだよ!」



そう言って笑うライトに、俺も静かに息を吐いて「そうだな」と呟くと、着替えを済ませて店に戻った。

すると――。



「いや――店主、凄いじゃないか! 凄味があってかっこよかったよ!」

「女だからってなんだっていうのさ! この世の中半分は女なんだよ!」

「今度あったら、アタシの拳の餌にしてやるわ」



店に来ていた女性の冒険者からはそう言われ、男性冒険者からも大体同じような内容で励まされたし、「良いスキルを持ってたんだな店主は」と笑顔背中や肩を叩かれた。

ロキシーはニヤニヤしながら俺を見ているし、何となく居心地が悪いような……。

俺がレジに戻ると、ロキシーは見計らったように声を上げた。



「どうだい! 道具店サルビアのオーナーの男気は最高だろう!?」

「最高だぜロキシー!」

「揃えてるアイテムも客が欲しい所を的確に出してくれてるしな!」

「人を見る目がある店主だろう?」

「最高の店だぜサルビアはよ!」

「ありがとよ店主!」

「最高だぜ店主!」



ロキシーの言葉を皮切りに、店にいる冒険者や庶民の客から一斉に褒められ顔を赤くしつつも「有難うございます」とお礼を述べた。

見てくれている人は、見てくれている。

頑張りも、考えも、思いやりも。

それを感じることが出来ただけでも、幸せなのかもしれない。

自己満足であっても、守りたい人たちを守れたことだって、悪い事ではないのだろう。



「今後も御贔屓に宜しくお願いしますね」



そう告げると、客の皆は嬉しそうに笑っていた。

閉店時間になると、ネイルサロンで働いている三人から、沢山の感謝の言葉を貰った。

彼女たちの尊厳を守れたのなら、本当に良かったと思う。

もう二度と使う事のないスキルだと思っていたが、店を、リディアを、皆を守れたのならそれで本望だ。


これから先も、今回のような何かしらの問題が起きるかもしれない。

有名になればなるほど、気を引き締めてやっていかねばならないと胸に刻んだ。

それから程なくして店を閉め、箱庭に向かうと真っ先にやってきたのはリディアだった。

目元を赤くして、でも嬉しそうに俺に抱き着いてきたリディアに思わず身体が硬直したが、リディアの口からは今日の出来事への感謝の言葉だった。



「最初はどうなるかと冷や冷やしましたの! でもカイルが皆さんを守ってくださったからとても嬉しいんですの!! 本当にありがとうカイル! 貴方は最高の男性だわ!」

「―――っ」



思わず顔が真っ赤になったのは……許して欲しい。

何とか平然を装うとしたが、ニヤニヤ見つめてくる実の弟とロキシーを睨んで平静を保つと、リディアの頭を撫でた。



「俺に出来ることは何でもする。オーナーだからな」

「そうですわね!」

「それと、明日はアラクネさんが来てハッカ水の注文分を取りに来るらしい」

「用意してありましてよ!」

「それと、雪の園の三人も来るらしい。ネイルの予約も入っていた」

「そうでしたのね!」

「リディア」

「何でしょう?」

「……そろそろ離れてくれると……助かる」



理性的に限界だ。

――とは流石に言わなかったが、リディアは「あっ!」と口にすると顔を真っ赤に染めて離れてくれた。

可愛すぎだろう? 反則だろう? 勘弁してくれ。

そう言いたいのをグッと堪えて俺達は晩御飯を食べながら今日一日の出来事と、明日の予定を話し合う。


まだまだ煩わしい出来事は今後も増えていくだろう。

でも、負けるわけにはいかない戦いなんだと、強く胸に刻んだ出来事だった。




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一日三回更新です。こちらは三話目になります。


いざという時頼りになる男性程素敵なものは無いですね!

でも、ライトくんの物真似も気になります。

皆に好かれる店主、皆に好かれる道具店。

今後どうなっていくのか是非お楽しみに!

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