第29話 箱庭師によるマニキュア講座(下)

この世界にマニキュアと言う物が無かったように、無論ネイルチップなんてものも使っている方は殆どいらっしゃらないでしょうね。

ロストテクノロジーでも、美容関係に進んでいる方なら知っているかと思いますけれど、基本的にロストテクノロジー持ちは決まった物しか作りませんもの。

わたくしの許から、初めてこの世に生み出されますのよ!



「ネイルチップとは、付け爪のような物で、爪に貼りつけるタイプのモノですわ。けれど、付けていられる日数は、僅か一日だけですの。それ以上は爪への負担が激しい為、終わったらお店に来てリムーバーで取って差し上げるしかありませんわね」

「儚いキャンバスなんですね……」

「ええ……とても儚いキャンバスですわ。それこそ、一日だけのオシャレを決め込みたい女性や、ここぞという時にオシャレをしたい方向けですわね。無論、次の日には外しに来てもらうのが鉄則ですわ。契約書もその為に用意しましたわ」

「魔法の契約書ですかコレ」

「ええ」



魔法の契約書は、約束事を破れば身体に痛みを伴うというモノですの。

それだけの物を用意しないと、とてもじゃないけれど、この世界でネイルチップなんて販売できませんわ!

諸々の安全の為にも!!



「皆さんもご存じの通り、魔法の契約書の契約を破れば身体に痛みが伴いますわ。けれど、契約を守った際には、契約書は消える仕組みなのはご存じですわよね」

「「「はい」」」

「ネイルチップを自分で剥がそうとする方もいらっしゃると思いますの。それはとても危険な事ですわ。更に言うならば、冒険者の方にはネイルチップは販売しない方針ですの。急な依頼が入ったりすると外せませんもの。ネイルチップはあくまで庶民用。なので、諸々予防の為にも契約書が必須ですの」

「「「なるほど」」」

「それに、こちらに来たのはいいけれど、人が多すぎて、もしくは予約が多すぎて、でも一日だけでいいからオシャレがしたいというお客様への欲求を満たすためでもありますわ。剥がすだけなら時間はそう掛かりませんから皆さんの負担も少ないはずですわ。ゆえに、こちらのネイルチップは、契約書は必須ですけれど、お値段はお安めに設定しますの」

「いくら位でしょうか?」

「御三方の普通のネイルが一人銀貨1枚として、こちらのネイルチップは、銅貨50枚ですわ」

「私達……お客様一人に対して銀貨1枚も取るんですか!?」

「ええ、普通のネイルに関してはそうですわ」

「「「普通の?」」」



そう言う三人に、わたくしが敢えて今まで出さなかったネイルチップを見せると、三人が三人息を呑みましたわ。

わたくしの渾身のネイルチップですわよ!!



「こちらの模様や絵が描かれているモノに関しては、銀貨2枚頂きますわ」

「これは……」

「下手でごめんなさいね?」

「「「個性的だと思います」」」



まぁ、何てお優しいの!

わたくし、絵心だけはありませんのよね………。

猫をかいたら潰れましたわ。



「んんっ 爪に絵を描いたり模様を描いた場合は、銀貨2枚ですわ。多分冒険者の間では、シンボルが主流となりそうな気がしますの」

「確かに、戦いのシンボルってありますものね」

「力の模様に知の模様、自身が無事に戻れるためのお守りの模様……。その辺りはよく工房にも依頼が来ていました」

「それを爪に描くとなると……難しそうです」

「ええ、ですのでそちらは皆さんが力をつけてからにしようと思いますの。出来れば模様の習得は一か月と、」

「「「二週間です」」」

「なんて頼もしいのっ!!!」



男気を感じましたわ! いいえ、職人魂ですわね!! なんて素晴らしいのかしら!!



「皆さんの心意気を甘く見ていましたわ……。ではわたくしも心意気を出しましょう! 今皆さんの手元にあるアイテム全部、練習用に持って帰って頂いて結構ですわ!」

「「「なんてこと!」」」」

「新たな道具はわたくしがこちらに用意しておきます。ですから今手元にある道具は全て、皆さんに差し上げますわ! 存分に練習なさって!!」

「「「頑張ります!!」」」



そこまで話しをしていると、部屋にライトさんとロキシーお姉ちゃんが入ってこられましたの。

わたくし達の声が煩かったかしら?

そう思ったものの、どうやら違うらしく、ロキシーお姉ちゃんの挨拶と、ライトさんがオイルを消しにやってこられたようですわ。

オイル担当はライトさんですからね。



「さあ、皆さんもう直ぐ夕方になりますから、そろそろ帰り支度をした方が良いと思います」

「あら、説明だけで終わってしまいましたわね……。でも一週間はわたくしもこちらに通いますから、皆さんの上達ぶりを見るのが楽しみですわ!」

「「「頑張ります!」」」

「最後に休憩室を見て帰りましょう」



そう言うとわたくし達は用意した休憩室に入り、そちらで紅茶を飲んで少しお話をしてから各自宿屋へ帰ったり、ロキシーお姉ちゃんとカイル、そしてライトさんはお店を閉める準備を始めましたわ。

わたくしも手伝おうとしましたけれど、先に箱庭に帰っているようにと言われ、渋々箱庭に一人で帰りましたの。

でも、やる事は沢山ありましてよ?

またマニキュアセットを作らねばなりませんわ!

それにお守りもですわね!

ああ、女性用のカラーリップも……。

薬草園は、二日くらいは放置してもいいくらいにはしておきましたし、明日の朝は女性用のアイテムか、お守りを作りましょう。

可笑しいですわね。

引き籠っているのに忙しいですわ。

でも、暇よりはマシかも知れませんわね。

休業日はユックリとしましょう。


こうして、皆さんが帰ってくるまでの間にマニキュアセットを作り終わり、明日朝一番に作りたい物を用意してから夕飯の準備に取り掛かりましたの。

そして皆さんが帰ってくると――。





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