第26話 箱庭師はロキシーと再会する。

――カイルside――



数分後、ライトはリディアを連れて店に来ると、リディアはロキシーを見た途端、今までにない程嬉しそうな顔をし、両手を広げてロキシーの胸に飛び込んだ。



「まぁ!! カイルが言っていたのはロキシーお姉ちゃんの事でしたのね!」

「リディアちゃ――ん!! ああんもう! 久しぶり過ぎて涙が出そうになっちゃう!」

「元気にしておられましたか? わたくしは無論元気でしたわ! それもこれも、カイルとライトさんのお陰ですの!」

「うんうん! 素直そうな子たちで良かったじゃないか!」



姉と妹のような二人の会話に、ライトは嬉し涙なのか目元を拭い、俺も目頭が熱くなりそうだった。

二人の積もり積もった色々な会話を聞きながらも、俺達の存在を思い出したのかロキシーに俺達兄弟の事を紹介する。

無論、ある程度俺の方から話していたので、ロキシーは「うんうん!」と嬉しそうに聞いているだけではあったが、ロキシーもまた「二人に勧誘されたからアタシもサルビアで働くよ」と約束してくれた。



「まぁ! ロキシーお姉ちゃん宜しいんですの!?」

「宜しいも何も、リディアがこの店をやってないんだったら、見つけ次第別の国に二人で行こうかと思ってたくらいさ」

「まぁ!」

「でも、リディアは今も箱庭で引き籠り生活を送っているんだろう? これからも引き続き箱庭で引き籠り生活をするのをお勧めするよ。ナスタがリディアを探してるらしいからね」



その一言で、今までニコニコ笑顔だったリディアの顔から一瞬にして表情が抜けた。

無表情……と言えば良いだろうか?



「ナスタがですの?」

「ああ、哀れな義理の姉を愛妾にしようと探してるみたいだよ。まぁ、元々アンタは箱庭に引き籠ってたから、ナスタの執着には気が付かなかったかもしれないけれど」

「良い弟ではありませんでしたわね。一緒に住んでるときなんか、下着がちょくちょく無くなりましたもの」

「変態野郎だな」

「変態ですね」

「最低だねぇ」

「そう言う事でしたら、ナスタに見つかった際にはこの店は畳んで、別の国に行く事にしましょう! 愛妾になんてなりたくもありませんもの!」



確かに、商売を始めてまだ日が浅いが常連客も多くいるにはいるが、リディアが愛妾になるくらいならサッサと畳んで逃げた方が良いのは確かだ。



「無論、この店がわたくしと関係ないと思われて存在することが可能だというのであれば、他に従業員もいますし、新たに従業員を此方でカイルに探して貰って、箱庭との通路はつなげておくことは可能ですわ」

「確かに、この店は俺の名義でやってるから、リディア自身に手が伸びることは考えにくいか」

「それに、わたくし基本的に引き籠ってますし。お店のお客様でわたくしを知る方はいらっしゃらないと思いますわ」

「引き籠り生活が苦じゃない子で良かったよ」

「箱庭は広いですから。ロキシーお姉ちゃんにも箱庭に来れるようにブレスレットを作らなくてはなりませんわね! 疲労回復効果のある温泉もありますのよ」

「それは是非行かないとだね!!!」



こうして、余りにもスンナリとロキシーが道具店サルビアで働くことが決まった。

ただ、女性の従業員も今後増えることも考えると、貯まった金でアパートを借りるのも一つの手ではないだろうか?

従業員の為のアパートがあれば、今後も新たな従業員が増えた際に便利になる。

それに、箱庭からの通勤よりは目くらましにはなるだろう。



「リディア、一つ提案なんだが」

「なんですの?」

「女性の従業員も増えたし、今後も増えていく可能性も視野に入れると、道具屋サルビアの名前で従業員用のアパートを借りても良いと思うんだが、どう思う?」

「それは名案でしてよ! 一週間の間にアパート丸ごと一つ借りることは出来まして?」

「金貨次第だな」

「でしたら好きに使って構いませんから、治安の良い場所でアパート丸ごと借りてきてくださる? 無理なら治安が良くてお店から近い場所でしたら大歓迎ですわ!」

「おっとそれならいい方法があるよ」



と、そこでロキシーが口を挟んだ。

何でも通りにある宿屋では、賃貸も行っているらしく、月金貨1枚を支払えば一室借りることができるらしい。しかも風呂、トイレ付きで綺麗な部屋なんだとか。

それなら【道具屋サルビア】で借りることができるし、問題は無さそうだ。



「それなら、今から部屋を借りてくるよ。取り敢えずマニキュア部門の三人とロキシーの部屋だな」

「ええ、お願いしますわ」

「へぇ……新しい商売もするのかい?」

「ええ、爪をオシャレにしようかと思いましたの。ロキシーお姉ちゃんも爪を綺麗にして、宣伝してくださると助かりますわ!」

「お安い御用だよ。でも働くのは明日の午後からでもいいかい? 生憎、道具店で働けるような服を持ってなくてね」

「好きな服で働いて貰って良いですけれど、確かにロキシーお姉ちゃんの服は冒険者寄りですものね。道具店サルビアは昼からの営業ですの。それに間に合えば嬉しいですわ」

「じゃあ、昼には服を揃えて着替えてくるよ」



トントン拍子に話は纏まり、リディアがロキシーの為にブレスレットを作っている間に、俺は店近くの宿屋に向かい、部屋を4つ借りることにした。

一か月一人金貨1枚だが、今のままの収入の多さから考えれば痛い出費ではない。

寧ろ必要経費と呼べるだろう。

出来るだけ従業員が纏まれるようにと頼むと、月金貨で借りる冒険者も少ない事からと纏まった場所を貸して貰えることになった。

その上で、金貨で今日から支払い、支払日が近づいたら道具店サルビアに料金の回収に来てくれることとなった。

これで滞りなく彼女たちの住む場所は確保できただろう。

宿屋の店主から鍵を4つ貰うと「無くさないように」と注意を受け、なくした場合は銀貨10枚と注意される。

気をつけようと思いつつも、女性陣なら大丈夫だろう。

宿屋の立地も良かった。

道具店サルビアの斜め前だ。


鍵を手に道具店サルビアに帰宅すると、既に三人はいなかった。

苦笑いしながら鍵を閉め、俺も箱庭へと向かう。

居住エリアで盛り上がっている三人を見つけ、宿屋で部屋を借りることができた事と、鍵を無くさないようにしろと注意を受けた事を告げて、ロキシーに鍵を渡すと鞄に入れ込んでいた。



「今借りてる宿から引っ越さないとね。アイテムボックスがあるから直ぐだよ」

「もしかして、そのアイテムボックスって」

「そ、リディアちゃんの手作り。初めてレアを作ったからってプレゼントしてくれたのさ」



随分と使い込まれたアイテムボックスを嬉しそうに見せるロキシーが羨ましい。

俺も貰ったアイテムボックスを大事に使い込んでいこうと再確認できる笑顔だった。



「じゃあ、男性陣はさっさと帰った帰った! アタシとリディアちゃんは今から裸の付き合いがあるからね!」

「温泉ですわね!」

「明日は男女で時間を分けて仕事終わりに温泉と決め込もうじゃないか!」

「最高ですわ!!」



まだまだ盛り上がるロキシーとリディアに、俺とライトは苦笑いしつつも、リディアに先にマジックボックス代金と今日の売り上げ表を手渡し、付与アイテムの注文で、お守りになるようなアクセサリーが着ていることを告げてから、先に家路へとついた。

すると――。



「兄さん」

「ん?」

「明日から賑やかになりますね! 頑張りましょう!」

「そうだな、とっても賑やかだ!」



弟の嬉しそうな笑顔と声色に、俺もまた前を向いて明日に向けて早めに就寝した。

そして次の日――。






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