第3話 箱庭師は自分の盾をゲットした。

「貴方が何故魔付きになったのかは、貴方が言いたくなってからお話しして頂いて結構ですわ。けれど、わたくしと雇用契約をして頂けるのならば……一日に一回飲めば見た目だけは魔付きとはバレなくする薬は提供できましてよ?」

「それは……あるのか? そんな薬」

「貴方、ロストテクノロジーってご存じ?」

「それは知っているとも。もしや君はそのロストテクノロジーを使う事が可能と言うことか?」

「ええ、箱庭を大きくしていくついでに生えてきたスキルですわ」



そう、箱庭を大きくしようと頑張った結果、ロストテクノロジーと言うスキルが生えてきた。

箱庭師であっても、ロストテクノロジーと言うレアスキルを持っていれば屋敷から追い出されることは無かっただろうけれど、生えてきたロストテクノロジーの事を両親に話せるような間柄では既になかった。

国が知れば喉から手が出るほどに欲しがるレアスキル。

それを黙って追い出されたのは、両親への最後の当てつけでもあった。



「そのロストテクノロジーの中にある解呪薬の一番弱いもの、それが一日一回飲めば見た目を普通に戻すことが可能になるアイテムですわ」

「なるほど……」

「それに、ちゃんとした解呪薬は教会のロストテクノロジー持ちが作っていますわよね?それもバカ高い値段で」

「ああ、俺もダメもとで行ったが……金貨500枚と言われて諦めたよ」

「わたくしも、もう少しロストテクノロジーのスキルを上げれば作れるようになると思いますわ」



この言葉に男性は目を見開き、ガタッと音をたてて立ち上がったけれど、直ぐに椅子に座った。

藁にもすがる……と言った感じかしら?



「わたくしに協力して頂けるのなら、いずれスキルが上がって作れるようになったとき、解呪薬をタダで差し上げますわ。どう? わたくしの手伝いをして下さらない?」

「それならば、喜んで手伝いをしよう」

「決まりですわね。給料は如何ほどあれば宜しいかしら?」

「せめて、月に銀貨20あればと思っている」

「あら、案外お安く自分をお売りになるのね。でしたら、もう少し色を付けますから頼みごとを聞いていただけるかしら」

「なんなりと」

「わたくしは薬を作ることも家具を作ることも付与付きのアクセサリーを作ることも可能ですわ。故に、それらを商売として成り立たせたいと思ってますの。商業ギルドで貴方、登録してきてくださらない?」

「商業ギルドで?」

「ええ、箱庭で商売をすることは出来ないでしょう? だから商売ができる家を買おうと思ってますの。そうね……『主が箱庭師で、箱庭で取れた物を販売したいと言っている。そこで店を構えて商売をする為に自分が代わりにやってきた。契約者の名前も俺の名前で作って欲しい』とでも言えばいいでしょう? 契約を取り付けることができて貴方の名前で店を持つことができたのであれば、月銀貨50枚でどうかしら?」



商業ギルドでは小娘に店を構える為の家なんて貸してくれない事は既に経験済み。

一度行ったら「貴女の年齢では無理です」と言われましたものね。

どうやら、店を構える為には20歳からと国で決まっているのだとか。

それに、絶対に売れるアイテムは既に大量に作ってある。手持ち金が必要ならば、彼にアレを売ってきてもらおう。



「差しあたって、幾らお金が必要になるかもわかりませんけれど、貴方が奴隷商でご自分を売るよりはマシではなくって?」

「……気づいていたのか」

「ええ」

「お嬢さんは優しいな。だが俺以外の魔付きであったのなら、貴女はこの箱庭を自由に使わせるだけの奴隷になっていたかもしれないんだぞ?」

「人を見る目はありますわ。それで、やってくれますの?」

「やりたくても、商業ギルドへ最初に払うだけの金がない。どうすればいい」

「でしたら、冒険者ギルドの張り紙にアダマンタイトの依頼がありましたでしょう? 丁度ありますからそれでお金を作ってきてくださいませんこと?」

「アダマン……タイト!?」



彼が驚くのも無理はない。

アダマンタイトは一つ金貨50枚。

それを依頼書には確か20個と書いてあって、その依頼書は草臥れたかのように古びていたのは覚えている。けれど、貼りだされているという事はまだ欲しい依頼主が居ると言う事。



「それを元手にしますわ。問題なくって?」

「おま……そうホイホイ出せるアイテムじゃないだろう?」

「溜まってしかたないのよ。売ろうにも冒険ギルドに登録しないといけませんでしたし、わたくしには剣なんて使えませんわ。でも貴方なら?」



そう言うと彼は大きく溜息を吐いて小さく頷いた。

呆れているような溜息だったけれど、何かしたかしら?



「わかった。持ち逃げしないように俺を見張ってくれ……。あと、俺が一人でこの箱庭に出入りできるようなものはあるか?」

「ありますわ。こちらをどうぞ」



そう言うと、わたくしはポケットからブレスレットを取りだした。

一見すると普通のブレスレットですけれど、彼だけが入れるようにいじらないといけませんわね。



「こちらのブレスレットに、自分の親指を付けて名前を言って下さる?」

「わかった。……俺の名はカイル」



彼がそう言うと銀のブレスレットが淡く光り、光が収まったところで完成ですわ。

それをわたくしが彼の腕に付ければ、この箱庭との契約が完了と言う事。



「色々お願いしましたけれど頼みますわねカイルさん」

「さん、なんていらない。カイルでいい」

「ではカイル、宜しくお願いしますわね。そう言えばわたくしはまだ名乗っていませんでしたわ。わたくしの名はリディア、よろしくね」



こうして、わたくしの盾となる男性をゲットしたところで、箱庭の一番北にある採掘所へと向かうと、各採掘物が乱雑に袋に入れて入っている中から、アダマンタイトを20個袋に詰めてカイルに手渡した。



「高額アイテムが無造作に……」

「お金が足りなくなったら偶になら一つや二つ持って行って売っても構いませんわよ?」

「そんな真似はしない」

「ふふふ、解かってますわ。では宜しくお願いしますわね。わたくしは池から様子を窺ってますから頑張ってくださいませ!」



こうしてカイルが出やすいように冒険者ギルド近くの裏路地に箱庭の場所を指定すると、彼はアダマンタイトの入った袋を手に冒険者ギルドへと消えていった。

さてさて、どうなりますかしら。

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