第2話 箱庭師は盾を勧誘中。

箱庭師の箱庭には、誰もが入れるわけではない。

スキル保持者であるわたくしが許可した者しか入る事が許されないのだ。

昔、確認の為に両親が箱庭に入った際には「なんてみすぼらしい」と笑われたこの箱庭だったけれど、この世界が当時やっていたゲームに似ている事を知ったら、もう後は天国であった。


確かに、箱庭師とはスキルの中では『ユニークスキル』とされている。

レアスキルと呼ばれるスキルを持っていれば、それだけで人生はバラ色だが、ユニークスキルはそうではない。

この世界では、ユニークスキル=ゴミスキルと言われているのだ。

特に箱庭師のユニークスキルが問題で、当時この王国の前に存在した別の王国が滅んだ理由も、箱庭師が関係していると言われている。

詳しい文献は残っていないが、国を裏切ったスキルとして名が残っているのだ。

そんなものを公爵家の娘が持っていたのだから、両親の怒りは相当だった。

まぁ、わたくしは気にせず箱庭のレベルを上げることに集中しつつ、別のスキルも上げて行っていたのだけれど。



別に、わたくしが持って生まれたスキルは箱庭師だけではない。

彫金、木工、鍛冶、料理等、あらゆるスキルを手にしていた。

だが、それら全てはレベルがとても低かった為、両親はわたくしを存在しない者として扱う事に決めたようだ。

そして現在、わたくしが最も使えるスキルは、この世界では『ロストテクノロジー』と呼ばれるスキルだった。

これは箱庭のレベルを上げている際に生えてきたレアスキルですけれども。

故に、こんなこともできますわ。



「どうかしら、わたくしの箱庭は」

「貴方は箱庭師でしたか」

「ええ、そうよ」

「しかし、これはまた……」



教会で箱庭師と分かってから、コツコツ毎日、自室に居ることも殆どせず自分の箱庭で生活をしたわたくしにとって、今彼が入ってきたわたくしの箱庭はさながら庭園のような作りになっていた。

土地を増やし、区画を広げ、まず箱庭に入って目に飛び込んでくるのは美しい薬草園。

コツコツ、屋敷の庭師に頼んであらゆる薬草を手に入れたわたくしは、自分で作れる薬の分だけの薬草を手に入れることが可能になった。

無論、入って直ぐ目に飛び込むのは、薬などに使われる花々なのだけれど。



「どれこもこれも、冒険者ギルドに行けば採取依頼として貼りだされているモノばかりじゃないか」

「ええ、コツコツ集めましたの。自慢の薬草園でしてよ。右手奥の通路を行けば畑もあって、左手奥の通路に行けば樹木園、そして池を越えて奥の通路を行けば採掘所がありますの」

「それは凄い……一つのダンジョンのようだな」



わたくしは彼の手を引いたまま、入り口近くにある木材で作った休憩所へと案内した。

必死に魔法を使いながらなんとか作った休憩所の椅子も机も自前で作ったものだ。

スキル上げには丁度良かったですわね。

お互い向かい合うように椅子に座ると、彼に紅茶を出して会話の準備を行う。

紅茶の茶葉も自分で作ったもので、リラックス効果が高い紅茶で気に入っている。



「それで、貴方を此処へお招きした理由ですけれど」

「はい」

「貴方をここで雇いたいと思ってますの。最近になって実家の屋敷から追い出されて今は平民になっておりますけれど、わたくしのような元貴族では、此処で手に入るアイテム、自分で作るアイテムを売りに出すと、安く買いたたかれてしまうでしょう? だから貴方にわたくしの代わりに物を売ってきていただきたいの。無論、衣食住は保証しますわ」

「俺を此処で雇うと……確かに人の手が必要な程に広い箱庭ではあるが……俺は魔付きだ。魔付き相手に人は商売をしない」

「その魔付きですけれど、ブラックドラゴンですわね? 冒険の途中に呪いを受けたのかしら」

「良く解ったな」

「素材が手に入りますもの」



そう、この箱庭では不思議なほどに魔物系のアイテムも流れついたり発掘できたりする。だからこそ彼の魔付きがブラックドラゴンだと気が付くことができた。



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