第2話 転移

 ──「「勇者様あああああああああああああああああ!!」」


 この国民の熱い声援は、15歳になった俺に向けての物だった。


 簡単に状況を説明すると、俺は、この世界に転生した後、強大な魔王を倒すことになった。

 そして、今さっき、無事に魔王をぶっ倒しました。

 うん……。

 ね。


 ボクハナンデコンナコトヲ?

 異世界転生ってすごい。

 いや、マジで。


 俺は、この世界ではセクラという名前らしい。

 いや、確かに、そう読みたくなるのは解るが……やめて欲しい。

 マジで。

 もうそういう風な物とは一切かかわりたくない。

 と思っていた俺の元に集う最強の仲間たちが全員美少女であるのは何故だろう……。

 え、俺って女難の相でもあるの?

 女難……ではないか。


 まあいいや。


 「なあ、これからどこへ向かうんだ?」


 俺は同じ馬車に乗るこの国の王子、テリスに問うた。


 「どこって、王城に決まっているじゃないですか……。」

 「……は?」


 当たり前のような顔で返すテリスだが、俺はてっきり王都に着いたから解散する物かと思っていたんだが。

 どうやら、未だ返してはくれないようだ。

 というか、魔王よりも強い存在として殺されるとかないよな?

 異世界モノ……と言うより、物語上での勇者の死んだ理由の殆どがそれな訳だし……え、俺って王様に殺されるの……?


 「……何もそこまでビクビクする必要はないですよ。」

 「いや、でもさあ。」

 「大丈夫! 殺したりはしませんし!」

 「マジか、ならいいや。寝よ。」

 「いや、そこまでリラックスされるのはちょっと……。」


 確かに、よく考えたら俺、魔王の握り拳顔面に受けて無傷だったんだ。

 あの魔王よりも強くない限りは俺に傷をつけるなんて無理か、、、。


 はあ。


 それにしても、平和だな、、、。


 のどかな平原。

 優しい風が肌を撫でる感覚。

 温かく優しい日の香り。


 はあ、でも、俺これからどうすればいい感じ?


 前に夢で神様と話す機会があったが……。

 その時、魔王を倒せとしか言われてないしな……。

 それ以降の事は何も決まってない。


 うん、暇だ。


 また新しい魔王でも出現すれば仕事が入るのだろうけど……実際、未だ爆誕してないし、何だったらその気配すらない。


 うん……。


 帰りてえ。

 この容姿で日本帰りてえよお。

 アニメとか、諸々満喫してえよー。


 なんて、嘆いたところで無駄な物は無駄である。


 王城に着けば、なんか謁見があって、終わったら宴だのなんだのって……。

 それも悪くはない……のだが、一つ問題がある。

 それは、この年ではまだ酒が飲めない事だ。

 確かに、飲もうと思えば飲めるのだろうが、やめておいた方がいいと周りによく言われているのでやめておく。


 「いやー、でも、つらかったなー。今迄の315年間。」

 「いや、正確に言えば15年ではなく、14年でしょう。」

 「細かいな。いいんだよ、大体で。」


 315年……それは、俺が異次元で閉じ込められていた時間である。

 ずっと修行に明け暮れ、結果、気づけば魔王が倒せるくらいには強くなっていた。

 多分、魔王よりも強いと思う。


 まあいい。


 とにかく、これからは山奥でスローライフを──


 そう思っていた俺は、俺の頭に響いた声に眉根を寄せた。


 《ピンポンパンポーン……。あなたは召喚されました。これから、召喚転移の準備を開始します。少々お待ちください。》


 学校の放送かな?

 いや、待て、異世界で召喚されたって何?


 「どうかしましたか?」


 俺は目の前で可愛らしく首を傾げるテリスに答える。


 「いや……ちょっと異世界行くことになったっぽい。」

 「……はい? どういうことですか?」

 「とりあえず、多分これから異世界に行くことになると思うから、今後のあれこれは任せた。」

 「……良く解りませんが、わかりました。頑張ってください。」

 「おう!」


 そんな会話を終えた時、また声が聞こえた。


 《ピンポンパンポーン……。準備が整いました、これから転移を行います。貴方に光があらんことを──》


 足元に青白い魔法陣が浮かび上がり、俺の身を包んでいく。

 俺はテリスに顔を向けるとサムズアップを決めて一言。


 「それじゃ、行ってくる。」

 「はい。ご健闘を祈ります。」


 こうして俺は、完全に飲み込まれ、異世界へ召喚された──と、思った瞬間もありました。


 はい。


 窓を挟んで目の前に広がるのは見慣れたとは言うまいが、前世で生活していた世界、地球に存在していた町並みが広がっていた。

 そして、目の前には眼鏡の少年がいて、、、。


 「えっと、、、どゆこと?」


 俺は知らなかった。

 ここが本当に日本であるという事を、、、。

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