第9話 最高位太陽神は素早く問題を解決して、裸で話し合いがしたい。

――エルグランドside――



トイレから出て下半身がスッキリして戻る頃、廊下で話をしている女神たちの声が聞こえてきた。またろくでもない事を話し合っているのだろうと思っていたら、案の定だ。



「ねぇ、聞きまして? エルグランド様の奥方様の話」

「ええ、太陽神の女神であるわたくし達を差し置いて、別の女神を傍においているとか」

「太陽神の奥方になるのでしたら、太陽神の女神を傍に置くべきでしょうに」

「でも、なんでも最初に対応した女神たちがやらかして、エルグランド様がブチ切れて、他の女神を傍においたって聞いたわよ?」

「一体何をやらかしたのよ。分からない程度の嫌がらせならしたくなるのも分かるけど」

「まぁ、最下位の下っ端豊穣の女神でしょう? 嫌がらせの一つや二つはしたくもなるわよねー」

「私たちを束ねる女神長様も駄肉女神様を快く思っていないのでしょう?」

「ああ、ノスタリア様ね。『素晴らしき太陽神殿に駄肉の妃がいる等もってのほかです!』って息巻いてたもんね」

「何かやらかすんじゃないの?」

「それで駄肉妃がエルグランド様から離れて行ったら最高じゃん! アタシたちがエルグランド様に選ばれる可能性だって出てくるわけだし?」

「それいいわね!」

「ノスタリア様に駄肉妃を追い出して貰う様頑張って貰いましょうよ!」



――ほう?

この神殿の女神長ノスタリアも纏めて総入れ替えだな。

仕事が増えると思うと面倒だが、こればかりは仕方ない。

フィフィの身の安全の為ならば惜しみなく仕事をしようではないか。

そう決めると女神たちがいなくなってから俺も動き始め、フィフィの部屋に入ると「少々やることが出来たので今日の訓練は此処までで」と伝えて執務室へと向かった。

こういう事は早めに対応しておいた方が良い。

フィフィがエルナの水しか飲まずに生活できるとは言え、何が起きるかなど分からないのだから。



「神殿の女神長を呼べ」

「畏まりました」



前太陽神の時からこの神殿に勤めているという女神長だが、ここが潮時だろう。

何人たりとも、そして相手が誰であろうとも、フィフィを悪く言う者を神殿に置いておく気は一切無い。決定事項だ。

それに女神は腐るほどいるのだ。入れ替えは何度もしたくはないが――この際仕方ないだろう。

暫くすると女神長のノスタリアが部屋に笑顔で入ってきた。



「お呼びだそうで、何の御用でしょう」

「うむ、今を持って女神長ノスタリア及び、神殿に住む女神たちを総入れ替えする。今まで前太陽神にも仕えてくれた事には礼は言うが、フィフィに対して『駄肉妃』と呼んでいる女神たちはこの神殿には要らないからな」

「なっ! どういうおつもりですか!?」

「俺の唯一を汚らしい言葉を使い陰で呼んでおいて、どういうおつもりですか……だと?」



ブワリと湧き上がる熱波に女神長のノスタリアも顔を歪め、口を強く閉じている。

それが何処まで通用するか見ものだな。



「フィフィは俺の唯一だ。それを悪く言う女神は俺の神殿には一人もいらん。解からんか?」

「ですが、最上位の太陽神様のお妃に、駄肉妃は、」

「口を慎め、顔ごと燃やしてやろうか?」

「ヒッ」

「俺は、フィフィの為なら何でもするぞ? 女神を焼き殺すことなど造作もない。無論、前太陽神に仕えていたお間に対してもだ」

「………そこまでの価値が、あのお方にあるのでしょうか」

「ある」

「頑なですね、前太陽神様も頑なな方でしたが」

「今日を持ってお前も自由だ。何処へでも好きに行くがいい。それと、女神たちも総入れ替えで神殿から出て行って貰う。今後は、フィフィに対して敵意を持たぬ女神しか雇い入れる事はない。それを周知しておけ。最後の仕事だ、出来るな?」

「……お心のままに」

「では直ぐにいけ。話は以上だ」



そう言うとノスタリアは肩を落とし、一気に老け込んだように見えたが執務室を後にした。

その間にタイリアとエルナに連絡をし、フィフィの部屋の警護を強化するように伝えると、その間に急ぎ新たな女神長と女神を派遣して貰う様に……今回は太陽神の女神だけではなく、太陽神殿でも生活が出来る女神ならば誰でもいい、フィフィに悪意を持たぬ者で、俺に対して色目を使わぬ女神ならば誰でもいいと各神殿の女神に連絡を入れると、数刻もすれば十分な人数を集めることが出来た。


今回の女神長には、風の女神から派遣されたタイフリアを選び、彼女に任せることにした。

無論、フィフィに対して敵意を持たぬものを選んだが、もし一人でもフィフィに対して敵意を持つならば即辞めさせるようにも伝えた。

今回の女神長はタイリアの血縁らしく、それならば多少は安心できる。

太陽神の女神は、僅か5人しかいなかったがそれは仕方ないだろう。

元々太陽神の女神とはプライドの塊みたいなものだからな。



「俺の唯一はたった一人の妃であるフィフィ一人だ。無礼を働くことは一切許さないと心に刻み仕事に励め」

「「「「「畏まりました」」」」」

「もし仮に無礼を働いた場合、顔と髪を太陽の炎で燃やして追放する。心に良く刻め」

「「「「「畏まりました」」」」」

「最後に、俺の寵愛を受けられるとは一切思うな。下心のある奴は今なら殺さずにいてやる。名乗り出ろ」

「「「「滅相もありません」」」」

「よし、では各自持ち場を決めて仕事に掛かれ」

「「「「畏まりました」」」」



よしよし。

まず一つ目の憂いは無くなった。

後は彼女たちが仕事熱心であることを祈るばかりだ。

まぁ各女神に連絡して厳選して連れてきて貰った女神たちだ。早々馬鹿なことはしないだろう。



「エルグランド様」

「なんだモリガン」

「これくらい仕事も早ければ助かるのですが」

「……」



俺の執事の一人であるモルガンがそう言うと、俺は顔を背けた。



「新婚で浮かれる気持ちは分かりますが。出来る男神の方がフィフィ様は喜ばれるかと思います」

「む、そうだな。ではこのまま仕事をしてからフィフィの元へと帰るとしよう」

「是非お願いします」



そう言うと執務室の椅子に座り、仕事に精を出しながらフィフィの事を思う。

あんな風に弄るように言われると、ムズムズしてウズウズして堪らなく気持ちが高揚する。

表現するならば、好いた相手に「これが良いんでしょ?」と性的にいじめられているような興奮と言うべきだろうか。

アレはズルい。

俺の性癖がドンドン開発されて行ってしまう。

このままでは本当に不味い所まで来てしまっているような気がするんだ。

一度、フィフィと二人でシッカリと話し合うべきだろう。


――よし! 仕事が終わったらフィフィとシッカリ話し合おう!


性的な話し合いにはなるが、これは俺の為でもフィフィの今後の為でもあるんだ!

そう思えば気合を入れて仕事も倍以上の速さで片すことができ、「流石はフィフィ様効果ですね」とモルガンは嬉しそうに語ったが、俺は強く「うむ!」と返事を返して颯爽とフィフィのいる部屋へと戻った。


――互いの為に、心だけは裸になって話し合いだ!!!



「フィフィ! 二人だけで話し合いたいことがある!」

「お帰りなさいエルグランド様」

「お互いの為に、二人だけで話し合いがしたい!」

「互いの為にですか?」

「そうだ! 心だけは裸になって話し合いをしたい!」

「分かりました。承りましょう」

「では、わたくしたちは別室にて待機しますわ」

「頑張れよ~」



そう言ってタイリアとエルナは部屋を出て行ったが、此処からはお互いに心を裸に――裸に――……フィフィの裸に……。

いかんいかん!

邪な考えは、今は一旦置いてシッカリと話し合うのだ!

これ以上性癖が歪む前に、何としてでも!!!



「では、御互い心を裸にして語りあおう」

「腹を割ってじゃないんですね?」

「裸になった方が、色々都合がいい」

「はぁ……?」

「実は……訓練中の事だが――」



俺は語った。全てを語った。

このままでは新しい扉が次々に開きまくって、ただでさえ歪んだ性癖がさらに歪むことを。

熱弁した!!

分って頂きたい!!

これは、由々しき事態なのだと!!

一度歪んだ性癖は治すことができない事を分かって欲しい!!

最後まで熱弁したところで、フィフィが口にしたその一言は――。



「……は?」



……凄く迷惑そうな顔で、たった一言。

俺の中で何か、新しい扉がまたカチャリと開く音がした―――。

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