第3話 駄肉下っ端女神は嫌がらせを受ける。

御風呂だけで疲労困憊……寧ろ皆さん私怨を凄く感じる洗い方だった。

そりゃそうだ。

最下位の下っ端女神が最上位の太陽神の妻なんかになったら、周りだっていい気はしない。

身体のあちらこちらが彼女達の指の後だらけになったものの、抓られたりは多少あったくらいで、そのくらいで済んでホッとした。

子供ってね、遠慮なく来るからね。

体当たりに飛びつきに油断していたら頭突きもある。

それらに慣れた私にとって、彼女たちの嫌がらせは子供と同じと等しいのだよ!!

まぁ、ちょっと痛いけど我慢我慢。



「お待たせしました」

「うむ! む?」

「どうしました?」

「フィフィよ、何故そんなに手の跡が沢山ついているんだ?」



服を着ていても分かる程に、彼女たちの熱烈な嫉妬をくらったようだ。

エルグランド様の言葉に担当した美女たちが竦みあがったのを、見逃すはずもない。



「なる程、嫉妬の余り我が妻を害したか?」

「いえ、その様な事は!」

「酷く汚れていたので、つい力が入り過ぎてしまって」

「フィフィよ、体に抓られた跡もあるな?」

「なんで分るんですか!?」

「太陽神の力の一つだ、痛みが集まっている所が熱く感じる。随分と手酷くやられたな」

「まぁ、子供達の悪意ある悪戯と似たようなものかと思って」

「ならぬ!!!」



そう叫んだ瞬間、熱波が飛んできて窓ガラスは一斉に割れた!!

担当した女性達は悲鳴を上げて必死に「お許しを!」と叫んでいるけれど、後で反省するくらいならやらないで欲しい。



「貴様たちは分かっているのか!? 俺の妻に、何をしたか、分っているのか!?」

「お許しを! お許しください!!」

「最下位の妻を貰うなど、やはり私たちでは許せなかったんです!!」

「せめてもっとまともな女神様ならば!」

「もうよい! 貴様たちは処刑する! 太陽の炎に焼かれて死ぬがいい!」



おお、怒髪天。

それに凄い炎と熱さ……肉が焼肉になりそう、寧ろこんがり焦げそうだわ。



「お待ちくださいエルグランド様」

「何だフィフィ。今から奴らを、」

「この方々の命、私に譲って頂いても?」

「ほう?」



そう問いかけるとエルグランド様は炎を引っ込めて興味深そうに私を見つめてきた。

それもそうだろう。自分を害した者を女神は絶対に許さないと言われている。

だが私の前世はただのオタク女子……女神とは程遠いのだ。



「では、どの様に処罰する?」

「いえ、処罰などはしません。したところで私に得がある訳でもありませんし、命の有無だけ握らせて頂きます。また、同じような事が起きた場合はエルグランド様にお願いして処分して貰うという形でどうでしょう?」

「一先ずは命を取らず、その命を今後己の自由に使うと言う事か。そして裏切ったり今回のようなことがあれば、俺に頼ると」

「はい」

「良いだろう。お前たち我が妻のお陰で少しだけ寿命が延びたな。俺の前から立ち去るがいい」

「という事で、あなた方の命は今後私が受け持ちますが、最下位女神に憤る気持ちも分かりますので、出来るだけ放っておいてくれると助かります。あ、出来るだけ自分で色々したいので、その用意だけお願いしますね」



そう言うと女神たちは何度も頷き足をもつれさせながら逃げて行った。

余程エルグランド様が怖かったらしい。

だが、何時までもこういう訳にはいかない!!



「エルグランド様、お話が御座います」

「なんだ?」

「今後、怒りに任せて女神たちの命を脅かす真似は為さらないでください。度が過ぎた場合は致し方ありませんが、引っ掛かれただの抓っただの、その程度の事で騒いでいては最高位の太陽神として余りにも器が小さいと思われますよ」

「俺はフィフィに悪意を向ける者には容赦なく焼き殺すと決めている」

「結構です。いりません」

「何故俺の想いを受け取ってくれないんだフィフィ……」

「あなたの愛が重すぎる」

「愛は重いモノ、そして強く縛るものだ」

「独占欲の塊か?」

「神々とは元々独占欲の塊だ。それが一人だけに向いている俺は珍しいかもしれないが、俺は第二夫人だの第三夫人だの女神を侍らかすつもりは一切無い。安心して欲しい。俺の唯一は君だけ、フィフィだけだ」



――何処でどう育て方を間違っただろうか。

今、過去の自分の行いについて頭を痛めている。

ちょっと昔を思い出してみよう。

確かにエルグランド様は預かった神々の子供の中心人物で、皆に分け隔てなく接し、最も人気の高い男神であらせられたのは間違いない。

人間でいえば12歳くらいまでは一緒にいたと思う。

それ以降、どういう生活をして来たかなどは分からないが、その時にきっと歪んだんだろう。

私が知るエルグランド様は、真っ直ぐで自分に正直で、一度決めたことは曲げない頑固な所もあったが、それは子供故の可愛らしいモノだと思っていた。

――あれ、あんまり変わってない?



「フィフィ?」

「少し頭の整理をしておりました」

「そうか、しかしこんなにあちらこちら赤くなって……」



そう言ってスイっと触られた瞬間ゾワッと鳥肌が立ち、思わずエルグランド様の手をパァン! と叩き落とした。

目を見開くエルグランド様には申し訳ないけれど――。



「すみません、ちょっと妙なオーラを感じたので叩き落とさせてもらいました」

「む、そうか、洩れていたか。あわよくば服を脱がせてと思ったことがバレるとは、俺もまだまだ修行が足りないな!」

「あわよくばそんな事をしたら舌を噛みきって死んでやろうと心に決めました」

「駄目だ、それはとっても悪い事だぞフィフィ! 夫婦ならば肌の触れ合いは当たり前のことだ!」

「私は貴方の妻になると、現在了承しておりません」

「神々の約束はとても拘束力の高いものだ。今さら妻にならぬ等と言う事は許されない!」

「まず、私としては貴方を『育てた』と言う気持ちはあります。ですが『愛』だの『恋』等と言う気持ちは全くないのです。ゼロです。ゼロにゼロを足してもゼロです」

「むう」

「なので、まずは恋愛の前に現在の互いの把握、及び情報交換は必要でしょう? 情報交換している間にナニカが芽生えるかもしれません。良くも悪くもですが」

「良くも悪くも……」

「しかし、それをしなければ先の発展もありません」

「では、御互いに情報交換と行こう」



話しが早くて助かる。

こういう即決してくれるところは昔と変わらない、有難い限りだ。

しかし、これから始まる情報交換は、波乱に満ちていてエルグランド様の狂気にも満ちているとは、この時思いもしていなかった。

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