略奪者
─
称号 / 聖騎士
学年 / 高等部 - 二年
◆
昔から他人の物が欲しくなる厄介な性格をしていた。
気づいたのは初等部の頃。家は裕福であったため、成績を上げ、親に交渉すれば大抵のものはすぐに手に入った。手に入ったものを広げれば直ぐに友達は出来た。
すぐに出来るソロ友達は飽き、いつしか他人のグループが欲しくなった。
例えば仲良しグループの中で一番のハブ役を見つけ先ずは仲良くした。
仲良くするのは簡単だった。ニーズを聞き出し供給すれば良いだけだった。
それからそいつだけ優遇されているように仕向けてヘイトを向けさせ、他のメンバー、一人ずつのニーズを叶えて徐々に周りへ重要度を俺に変えていけばいつからか俺中心のグループにごっそりと置き換わっていた。
ハブ役たるリーダーはこの時点で供給を少なくし、必死に媚びを売る哀れなモブとさせた。
リーダーは地に落ち、オセロの盤面をひっくり返すような爽快感はくせになっていった。
気づいた時にはもう遅く、略奪の性分は自分の一部になっていた。
ある日、常に一緒にいる男女がいた。どのグループにも属さないのに、どのグループとも仲の良い、そんな男女だった。
そいつらは常に一緒にニコニコしていた為か、周りを暖かくしていた。朗らかな太陽のようだと周りは決めつけていた。
瞬間、これは嫌だ、と思った。
太陽は俺で、その女も俺のものだ。初めて女を意識した瞬間だった。
その女は周りを見渡しても滅多にいない容姿で、いかな俺であっても奪うことに躊躇するような眩しい存在だった。
男の方も整った容姿に柔らかい物腰ですぐに周りを絆し、俺とは別の方法で中心人物となっていた。これは勝てない、そんな眩しい存在だった。
俺は直ぐに行動に移した。
する事は変わらない。いつもの通りに攻略すれば良いだけだと思った。
今まで奪ったグループから抜け出し、俺が居ないことでハブ役は居なくなり瓦解していった。そいつらは俺にとって何の興味を抱かせない集団となっていた。
それよりもこいつらだ。
いつものようにしているのに何にも手応えが無い。挙句の果てにはモノで仲良くするなんて、と説教までかましやがった。
こんなにコケにされたのは初めてだった。同時に悪意なんてかけらもないやつがいる事を初めて知った。
だからこそ引き裂いてやりたかった。
それからは表面上は一番の親友ポジションを得る事に重きを置き、自分を磨いた。磨いたことで周囲は俺を認め出し、評価はその男に並ぶまでになった。これならばと、自分の力だけでその女を奪うことを決意した。
中等部に上がる頃にはそれまでカップルだった二人に割り込み、トリプル扱いされるまでなった。
中等部二年の秋、努力を続けた俺にやっと女が振り向いてくれた。
それまでイチャイチャしていた男と女は人前ではベタベタしなくなり、女は変わりにとばかりに俺と長く過ごすようになった。
最初は戸惑っていたが、その年のクリスマスプレゼントで確信できた。何せあんなにモノにこだわっていた俺に説教くれた女が、あいつより高価なプレゼントをくれたのだから。
その時の感動は今も忘れていない。俺は間違っていなかったのだと、正しさが報われたのだと、優越感で満たされた瞬間だった。
同時にグループを奪った事なんかより何倍も気持ち良かった。
その女、月奈はその男、青春に興味が無いとわかってからは女遊びに夢中になった。ピンの女には目もくれず、決まってカップルを狙い、女を貪った。
自分のせいだと思考を誘導する事で秘密の枷とし、公にはさせなかった。クズな女と付き合っているというのに、男は俺に恋愛相談してくる。そいつ、もう俺に仕込まれてるけどな、なんて気持ちの良い気分にさせてきやがる。
男も女も等しく俺の気分を盛り上げた。
◆
「もう聞いたか?」
「うん、聞いた」
放課後、部活を終えた俺に飛び込んできたニュースは俺と月奈の関係を進めるのに都合が良かった。
中等部の頃は抑えていた略奪の性分に振り回され過ごし、高等部一年の時は周りの評価を求めるあまり蔑ろにしてしまったが、これも外堀を埋める大事な作業だった。
高等部に入ってからは初等部や中等部の頃と違い、露骨にモノで釣らず、磨いた自分で周りを認めさせたのだ。
仲良くなったやつにはいかに青春がクズかを、月奈が俺をどれだけ認めているかをキャンペーンしたのだ。
もちろん幼馴染として時に庇うことで【聖騎士】の立場も守っていった。
早くから【聖女】と呼ばれた月奈とペア扱いされて、周りを牽制したかったからだ。
そして外堀はついに埋まり、新たな【勇者】が誕生した。この時をずっとずっと待っていたのだ。
「本当にクズになってしまったな」
「……そう、クズ、だね」
こいつが汚い言葉を使ったところなんて見たことなかった。それがこれだ。ついに使ったな。
「なあ、今週末暇か?」
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