魔王はヤリチンクソ野郎

墨色

始まり

人口150万人の政令指定都市、人和市。

市の中心から北西にある【人和黎明学園】


世に珍しい中高大の一貫校で、優秀な人材を数多く社会に輩出してきた歴史ある名門校である。


四半世紀前のこと。

それまで偏差値による採点のみで定められていた入学試験を突如としてビジュアライゼーション方式に変えた。


ビジュアライゼーション。自身の願望や目標などをはっきりとイメージし、可視化出来る力。それを採点基準としたのだ。


高得点を取って入学した生徒は、男女問わず自分に自信があり、容姿に秀でた者が多く、そのため、学外から見れば、容姿に対する差別だ、ルッキズムだと騒がれたが、それも次第に小さくなっていった。


それは、学生扇動システム、マザーとモノリス、通称「M2」これにあった。


マザーは解析と称号付与を、モノリスは情報の収集と発表をそれぞれ司り、生徒を常に見ていた。


称号は自身の他者からの評価であり、付与は称号に対する贔屓だった。学園の凡ゆるところで優遇される付与は生徒の憧れにもなっていった。


これにより生徒は自発的に自分を正し、また、正したからといって特別な称号を得れるのは一握り。


称号持ちが持たないものを虐げたりすればすぐ様に称号は剥奪され、晒されてしまう。


上には上がいる、という当たり前の事を全国から集めた鼻っ柱の強い自信家たちに知らしめ、向上心は維持しつつ、上を支えるのは当然とマインドチェンジを促す。


転げ落ちて這い上がれない生徒は自発的に辞めていった。辞めるたびに編入試験を突破できる転入生を受け入れてきた。


思春期特有の何をしても満たされない心は、他者に吐き出すのではなく、自身を磨く事へ向かっていった。


結果、自身の容姿や、特技に自信を持つ生徒が九割を占めるようになったため、名門校にありがちな何処か厳格で陰鬱だった校風はいつしか笑い声の絶えない素敵で明るい学校になっていった。


【人和黎明学園】の人材は社会の中心へと数多く踏み出していった。






二年前、唐突に【魔王】が一人出現した。それに対する【勇者】は、今までがなんだったのかと言わんばかりにぽこぽこと生まれた。



四半世紀ほど「M2」を運用しているが、【勇者】と【魔王】が現れたことは一度たりともなかった。


流石におかしいと技術者たちを集めマザーを調べたが結果はオールグリーン。


何も問題無かった。


無いのならばと定期的に【魔王】を指導室へ呼び出し尋問に近い面談を繰り返しているが、やはり問題がない。


噂では鬼畜な所業を繰り返している、とされているがマザーに嘘は通じない。


指導室などの特別な場所でのみ表示される裏パラメータと呼ばれるものがある。


人としての悪行などは裏パラメータに現れる。


そこも正常値だった。


対して【勇者】は今現在で把握している限り5人いる。大抵の勇者は【クラスチェンジ】してより高みに登っていく。


減ればまた新たに勇者が現れる。


元勇者の輝きっぷりは多くの生徒に良い印象を与えていたため、学園上層部は問題にはしなかった。

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