2-1 フレイヤは未来を知り少年への態度を改める
《Take 3》
「内藤くん、ちょっといい?」
人間が教室を出ようとしたとき、教師の女が呼び止めた。気づかないフリをすればいいものを、律儀に戻って話を聞いている。
「──芝田周辺に住んでいる生徒は今日だけ寄り道せず帰るようにって」
「えっ、本当ですか」
なるほど、すでに敵は手を回しているらしい。しかし国家権力をこうも簡単に行使してくるとは、敵戦力のデータを改める必要があるな。
しかし面倒なことになった。どうせこの人間は、思考を放棄して帰宅しようとするだろう。教室から出たら呼びかけて行動を矯正してやる必要が──。
──ピピッ。15時34分、iデータを受信。私から私へ。有理化および同期完了。TPSシステムオールグリーン。
……やはり、大林メグは敵だった。これは、考えうる最悪の事態だ。
この人間は、メグを信奉している。長い月日の中で形成された、重度の依存状態にあると言ってよい。
つまり。私が今ここで、大林メグが敵だと伝えたところで、人間が信じる確率はゼロだ。その瞬間、私の方を敵だと見なすことも十分にありえる。
ただえさえ、人間は私を疎く思っている節がある。私とメグ、どちらを信じるかという話になれば、万に一つも勝ち目はない。
「──フレイヤ。聞いてただろ、今の話。何も言わないのか」
いつの間にか会話が終わっていたようだ。人間が階段の踊り場で私に話しかけた。
「人間、貴様は帰ろうとしているな?」
「う、うん。だって……メグ姉もそうしたらしいから」
馬鹿。そう言いかけて、私は一旦スピーカーを切った。その発言が本当に合理的かどうか、検討する必要がある。
前の私は、高圧的な物言いをしたことで人間の信頼を損ねた。その結果として、人間はメグに助言を求めに行き、殺害された。
よって、最低限の信頼関係を築くことは不可欠だと判断。不本意だが、多少は人間の機嫌をとることも考慮する必要があるだろう。
「……き、貴様の気持ちはわからんでもない」
「えっ!」
「なんだ。大きい声を出すな」
「いや、その……てっきり馬鹿とか能無しとか言われると思ってたから」
意外と自分を客観的に見れている部分もあるらしい。何も考えていない馬鹿ではないということか。
「帰る前に一つ、話しておきたいことがある。昼にいた屋上へ向かってくれ。に……少年」
「う、うん。わかった」
『人間』よりも『少年』の方が好感触かと思い、呼び方を変えてみたが、気づいていないらしい。鈍感な男め。
……まあいい。ともかく、このまま帰宅すればメグと接触する可能性が高い。どうにかして、池袋へ行くよう少年を説得しなければ。
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