第224話 末っ子1歳になりました(2)

 

 本日の主役はライモンドなので、俺たちは壁の端にいた。

 けれど人も当然のことながら多い。

 なので、割とわかりやすく『俺とレナの結婚は秒読み』と告知しておく。

 今の国内はレナの安全性も高いはずだ。

 マルティアのように側室狙いがヤバい数だろうが、こうして明言することでひとまず落ち着くと思う。

 なぜなら“ヒューバート・ルオートニスが正妃を娶る”からだ。

 側室狙いの者はここで一度落ち着き、正妃との婚姻を見届けてから態勢を整えておかねばならない。

 正妃の“力”がどんなものか。どれほどのものか。

 なにしろ後宮内で戦う相手のことだ。

 レナという正妃の実力を測らねば、対抗馬も持ち出せまい。

 今までは俺が留守で、手当たり次第に母上に申し込みをしていたようだが……今後は国外も腰を据えて吟味して選別された娘から申し込みが来るだろう。

 戦うべくは正妃のみならず、国外からのご令嬢も加わる。

 ディアスの「でっかい転移陣を設置すればよくないか?」が、現実のものとなれば、ハニュレオも参戦してくるのだから。

 それに、領地の拡大の件もある。

 俺の側室に足りないと判断されれば、新領地の領主夫人は狙い目となるだろう。

 俺にばかり構っているわけにはいかないということだ。

 あとはやはりランディとジェラルド、リーンズ先輩は盛大に狙われるだろうな。

 ジェラルドとリーンズ先輩は出世頭だ。

 ランディは元々人気が高い侯爵家の者。

 むしろ未だに婚約者がいないのが不思議。

 多分ランディも倍率高すぎるんだと思うなぁ。


「て、でも、あの……わたし、その、まだ、色々、足りなくて……」

「俺が出かけてる間に身につければいいよ。レナが頑張ってるところをすぐ側で応援できないのは、ちょっと、寂しいけど——」

「そんな!」

「……レナのところに帰ってきたいんだ。ダメ?」

「あ…………っっっ」


 きゃああああああぁぁぁーーーー!

 と、いう盛大な悲鳴があがって、しまった、と思った。

 二人きりの時のような態度でレナに接してしまった。

 くっ、二人きりだったら、手を取って初キッスくらい許された雰囲気なのに!

 そうだよ、俺らまだ初キッスにも辿り着いてないよ!

 ちょっと清い仲すぎない!?

 じゃ、なくて!

 これはかなり次期王太子として弱々しいところを見せてしまったのでは?

 なんかそれにしてはご令嬢たちの悲鳴が大きく聞こえたけど……あ、あれかぁ。

 俺の視線が捉えたのはデュレオとシズフさん。

 デュレオのお披露目は終わっているが、シズフさんはまだだったもんな。

 デュレオがめちゃくちゃ顔を顰めながら、シズフさんの腕を掴んで引きずっている。

 めっちゃ眠そう。


「あ、いた」

「デュレオ、シズフさんを連れてきてくれたのか」

「まあね! こいつだけまともにお披露目もされないの腹立つし?」


 ご機嫌斜めを隠しもしない。

 さすがデュレオだなぁ。


「ん? なに、お前。邪魔なんだけど?」

「は、はひっ! も、申し訳ございませんでした!」

「あ」


 デュレオが近づくと、マルティアはキラキラ乙女の顔のまま謝罪して颯爽と五歩後ろへと下がる。

 いなくなるつもりはないらしいが、限界オタク距離は保つらしい。

 もう完全に推しを前にしたアイドルファンの顔してるよ、マルティア。

 お前もか、マルティア……。


「フォーマルなシズフさんめっちゃカッコいいですね……!」


 涎出そう!

 耐えるよ! 王子だから!

 でも出そう! 涎!


「王子サマって面食いだよね……」


 あ、デュレオに俺の面食いがバレた。

 だからどうということもないがな!


「っていうかー、シズフだけ褒めて俺を褒めないのはおかしくない?」

「デュレオも綺麗だよ」

「ちょっと俺が褒めを強要したみたいな流れやめてくれる?」


 どうしろっつーんじゃ、めんどくせぇな。

 今に始まったことじゃないけど……。

 ああ、でも髪の毛を指に絡めてまんざらでもなさそうだから、一応及第点なのかな。

 ……めんどくせぇな。


「あの金髪の方が新たな神、『武神』?」

「今回もお美しい殿方ね」

「背も高いし気品があって素敵……」

「しかし、体調が悪そうだな。大丈夫なのだろうか?」


 貴族たちへの顔見せは問題ない。

 しかし、シズフさんの体調よろしくないのもバレてる。

 まあ、ただ単に眠そうなんだが。


「ところで歌い手聖女は顔真っ赤だけどどうかしたの?」

「あー、次のソーフトレスとコルテレにはレナのことを連れて行かずに結婚の準備を進めててほしいなって、相談したところ」

「ふーん。連れて行くの誰にするのか決めたの?」

「ジェラルドとラウトとディアス、かなぁ?」

「少なくない? シズフも連れて行ったら?」

「そうしたらデュレオを見張る人がいなくなるだろ?」

「ふーん。一応俺に警戒心はあるんだね。いいことだ☆」


 まあ、手放しで信用はしてないよ、一応。

 というか、多分それは——デュレオに対して失礼というか。


「デュレオは寂しがりやだもんね」

「は?」

「そうだな」

「は?」


 シズフさんから同意をいただきました。

 ああ、やっぱりシズフさんはわかってたのか。


「しかしナルミを連れて行くのなら、やはりもう少し戦力は整えるべきだと思う」

「え、あ、うーん」

「[長距離精密狙撃ユニット]を回収して、五号機に持たせていけ。それだけでもだいぶ違うはずだ」

「……! わかりました」


 結局回収しなきゃダメか、あれ。


「[長距離精密狙撃ユニット]、五号機の坊やに持たせて大丈夫?」

「? なにかまずいのか?」

「……ロス家のお坊ちゃんに持たせた方が、俺はいいと思うけどね」

「…………。検討する」

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