第223話 末っ子1歳になりました(1)
師走。
ライモンド、一歳の誕生日パーティーが行われる中、死人みたいな顔をしている俺のパートナー。
「……レナ、そのー……やるだけのことはやったなら、大丈夫だよ……」
「…………はい……やるだけのことは、やりました……」
ああ、せっかく久しぶりのレナの新作ドレス姿なのに。
今回はレモン色でふわふわな軽やか生地を使った、ワンピースタイプのドレス。
ボレロも薄いからと肩かけをプラスしてみたのだが、寒さ以前に進級試験の方がいっぱいいっぱいで顔色がとても悪い。
「うう……わたし、ほんとに情けないです……ヒューバート様はちゃんと合格をいただいているのに……」
「うーん、でも剣の方はサボってたからジェラルドに負けたしね」
「な、なにをおっしゃってるんですかっ。ヒューバート様は未だにサポートシステムを手首や足首に装着してらっしゃるじゃありませんかっ」
「ラウトとシズフさんには『ふざけてるのか?』ってブチギレられたしね……」
「比較対象を人間にお戻しください」
そう、まあ、そんな感じで男子の方が進級試験の課題が多いのだ。
なので、先に始まり先に結果が出る。
座学は一緒に試験を受けるのだが、レナはその座学試験の結果が芳しくなかったのだ。
そのせいで進級できるかどうか審議中。
所作や実績も加味されるので、大丈夫だとは思うんだが。
一年生への進級試験も一発で合格できなかったことが、結構響いているらしい。
「ふん! 情けありませんね。次期王妃と呼ばれる方が進級試験に落ちるなんて!」
「はうっ!」
「! ……君は……! …………誰だ?」
「マルティアですわ!」
「あぁ〜」
ひっさしぶりに見たな〜。
マルティア——『救国聖女は浮気王子に捨てられる〜私を拾ったのは呪われてデュラハンになっていた魔王様でした〜』で、悪役王子ヒューバート・ルオートニス……つまり俺!を、誑かす平民悪女。
今は『聖殿の聖女』として、国内の
……ああ、そうか。
今国内だと、レナよりもマルティアの方が働いているイメージなのか。
もちろんレナの築いた実績が揺るぐわけではないが、これはあまりよくないな。
いや、ちょうどいい、か?
「あなたのようにヒューバート殿下についていって、足手まといなるばかりか学院の成績も落第寸前な聖女、ヒューバート殿下の婚約者に相応しくないのではなくて?」
「え、あっ、うっ!」
「ねぇ、ご存じ? 今やヒューバート殿下の婚約者には、ワタクシの方が相応しいという声の方が大きいのですわよ? ヒューバート殿下もこんな役立たずよりも、ワタクシを次期王太子妃に据えられませんこと?」
「いや。俺にとってレナは特別だから」
「「!」」
マジ、君だけは、ない。
色んな意味でない。
絶対にありえない。悪いけれど。
君と浮気なんかしたら死に直結する。
俺は死にたくないのだ。
……今のところ。
それに、レナが特別なのは本当のこと。
純粋に可愛い。好き。
優しいし、努力家だし。
それに、俺が決断を迷った時、手を取って導いてくれる。
そんな女性、他にいるだろうか?
少なくともマルティアは俺の手を掴んで引っ張ってはくれまい。
だから少しだけ、不安もある。
「で、ですが国内では!」
「そうだな。来年にはソーフトレスとコルテレへ行く予定だが、レナはルオートニスに置いていこう」
「「え!」」
めっちゃ驚かれてしまった。
なんなら、周りの者たちにも凝視された。
「え、あ、そ、それは、あの、わ、わたしが足手まとい……」
「ううん。元々そのつもりだったんだ。今言ったけど」
「な、なぜですか! わたしが行かないと、その
「ソーフトレスとコルテレは戦争中だ。そんなところにレナを連れて行きたくない。レナは優しいし真面目だから、きっと目につく人全部助けようとする。……無理だと思う、それは」
「っ!」
手に持っていたグラスを覗き込む。
赤紫色の、葡萄ジュース。
それを少し、傾ける。
デュレオが殺した人たちの血を、思い出す。
「……俺も戦争のない時代、平和なこの国に生まれて育った者だ。ラウトやディアスの話を聞いてもピンとこない。想像してみても、現実味に欠ける。でもデュレオが人を殺すところを見てから、考えていた。あの時はデュレオの魔法で動けなかったけど、あれがなければレナは助けようとしてたんじゃないかなって。そして助けられなくて、悲しむんじゃないかなって。ソーフトレスとコルテレは、そういうことがたくさんあると思う。俺は覚悟したけどそれでも足りないと思う。レナはそもそも、覚悟自体まだできてないだろう?」
「…………そ、れは……」
それどころじゃなかったもんね。
進学試験で。
へら、と笑うけど、あんまり笑う場面ではないよね、すまん。
「ごめん。でも俺がレナを連れて行きたくないんだ。俺でも見たくない光景を、レナにも見せたくない。止めるために行くつもりだけど、きっと悲しい光景がたくさんある。
「え! ……あ、あ……あっ」
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