第175話 長い一日
「ふぃー、なんか昨日今日と色々ありすぎて疲れたな」
「お疲れさんでございます」
一等の客室に案内され、護衛のランディとジェラルドを隣の部屋に置いて寝室に入る。
ブーツを放り投げて礼服を脱ぐと、姿を隠していたトニスのおっさんが現れた。
いやぁ、相変わらずこの人の[隠密]魔法すごすぎぃ。
そして姿を表すなり、ブーツを二足並べて礼服をハンガーにかけてくれる。
おかんか。
「あ、そうだ。おっさんにお願いしたいことがあります」
「はい、なんでしょう。オズという男の正体とか、ですかい?」
「ううん。それはいい。今からルオートニスに帰ってくんない?」
「はい?」
かなり唐突に聞こえるだろうけど、おっさんには
着いたばっかで、ミドレの時みたいなことになるとも限らない。
護衛の任を外すとはどーゆー了見だ、って言いたい気持ちはとてもわかる。
俺としてもおっさんに外れられるのは不安しかないもん。
けど、タイミング的には今だと思う。
「一度ルオートニスに戻ってメリリア妃の動向を調べてほしい」
「? あの方にはもう、なんの力もありませんよ? まだ警戒しておいでなんですか?」
「うん。というか、いい加減そろそろ動き出しそうというか——ちょっと気になってたんだけど、なんで今になってセドルコ帝国から使者が来るの?」
「!」
「探っていた、ってのは隣国のことだし、わからんでもないんだけどさ……俺が出かける当日ってタイミング狙いすぎじゃない? っていうか、
「…………ですね?」
つまり、俺とジェラルドが出かけるタイミングで使者を寄越したのだ。
なんで?
情報をあまり渡したくないけど、そうしなければならない。
もしくは、俺とジェラルドがいない方が都合がいい。
セドルコの使者が来たら当然、父上は対応に出るだろう。
母上はまだ手のかかるライモンドにつきっきりだろうし。
レオナルドは学院だし。
「手薄になりますね?」
「でしょ? とはいえ、軟禁状態から抜け出すには時間がかかる。使者がどんだけごねてるか知らないけど、目を逸らすだけが目的ならもうなにかしらの用事は終えていると思う。用事が終わったら次は準備じゃない? ……タイミング的に今だと思うんだよね」
「っ、そうですね。なるほど、わかりました。一旦帰国させていただきます」
「お願い。何事もないならそれでいいし、一休みしたあとコルテレとソーフトレスに行ってほしい。戦争中だから情報収集には時間がかかるだろうし、ハニュレオ国内の様子もあんまりよくないからコルテレとソーフトレスに行けるのは来年以降になると思う。だからまあ、ゆっくりでいいけど」
「わかりました。ルオートニス国内の方がややこしいことになっていた場合は、陛下の指示に従うようにしますよ」
「うん。それで」
トニスのおっさんを父上が動かしたら、俺なんて太刀打ちできないぐらい即座に収拾つけそうだなぁ。
こういう時、王族としての自分の平凡さにほとほと嫌になる。
もっと才能があれば、と思ってしまう。
どこまで行っても、俺は平々凡々な一般人だ。
『救国聖女は浮気王子に捨てられる〜私を拾ったのは呪われてデュラハンになっていた魔王様でした〜』の悪役王子ヒューバートは、才能あふれるチート聖女レナの才能に嫉妬していた、とか、なんかそういう描写もあったしね。
だから平凡な聖女のマルティアが好ましかったのだろう。
その劣等感は、俺にもわかる。
破滅したくないし、今は純粋にレナが好きなので俺は絶対レナを裏切ったりはしないけど。
「あ、気をつけてな?」
「はーい」
「普通にドアから出て行ってもいいのよ?」
「いえいえ、お忍びですからねぇ」
と、窓から飛び降りて出ていくトニスのおっさん。
あれー?
ここ四階ではー?
いや、まあ、今更なんだけども。
「さてと……今日はもうさっさと寝よう。明日は技術者たちとの話し合いだし。……そういえばディアスとラウトが、この土地に千年前あったカネス・ヴィナティキ帝国には、独自の兵器があるって言ってたな。ナンダッケ? うすは……コー……だめだ、名前長くて思い出せん。寝よ」
寝よ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます