第167話 ハニュレオの第一王子(1)
「スヴィア嬢に国王陛下への伝手を対価に人助けに協力をしただけだ。だけど、対価はもういいよ。望み薄みたいだからな。自分達でなんとかするから放っておいてくれ」
「ふざけるな! スヴィアをこれほど怯えさせて、ただで行かせると思うのか!」
「えぇ……? それはちょっと言いがかりがひどいんじゃないか? なあ、スヴィア嬢」
彼女の最初の強気な態度を思うと、曲がったことは嫌いなんじゃないだろうか。
そう期待を込めて、その言いがかり野郎をなんとかして、と目線で訴えてみる。
「エ、エド、彼の言ってることは本当。アタシが間違えたの」
「なにを言う、スヴィアがこんなに怯えるなんてただごとじゃない! だいたい、お前たちが乗ってきたその巨大な兵器はなんだ! 古の遺物なら、置いていってもらおうか!」
「エド!?」
「は? ……ここは賊の住処だったのか?」
呆れてしまう。
スヴィア嬢まで驚いているところを見ると、エドワードの独断——もしくは……。
「その調子です、エドワード様。エドワード様の
「先程の力が手に入れば、エドワード様の王位は確実です」
——って、横でコソコソ耳打ちしてるやつらの声がここまで聞こえるんだよなぁ。
そして耳打ちしてるやつらの言葉に、スヴィア嬢が怒りの表情。
睨みつけて「エド、こいつらの言葉を聞いちゃダメよ!」と叫ぶ。
スヴィア嬢はさっきのシズフさんの説教が相当に効いている。
多分、もう思想そのものが変わっていることだろう。
「構う必要はないと思いますが、できればそろそろ休みたかったですね」
「まぁ、そうだな。そろそろ陽が落ちる」
俺たちも野宿の準備を始めたい頃合いだ。
正直、こんな面倒なことになると思わなかった。
スヴィア嬢の要請で人を助けて、それで終わりにするつもりだったのに。
ラウトあたりは今にも「皆殺しにするか?」みたいな顔してるけどダメ、ダメ……やめてぇ……。
「遺物を置いていかないのなら、皆殺しにする!」
と、エドワードがスヴィア嬢の話に耳を貸さず、笑みすら浮かべて俺たちに宣言する。
命知らず過ぎていっそ可愛らしく思えてきた。
ふふ、と微笑んでしまったのが余程カチンときたのか、エドワードに「なにがおかしい!」と指さされる。俺が。
「ヒューバート様……あの方……」
「うんまあ、トニスのおっさんの報告通りすぎてつい、笑っちゃった。とりあえずここは俺に任せて。攻撃されてもやり返す必要はないよ」
「俺の加護があるしな」
と、ラウトが言う。
ああ、そういえばラウトはルオートニス王国の守護神になってから、俺と俺の家族、レナに加護を与えてくれたらしい。
攻撃を受けたら、攻撃した相手を自動的に結晶病にするという、一種の呪いのような加護だ。
つまりまあ、ラウトが加護を与えている人間への攻撃は、それだけで自殺に等しい。
逆に加護を与えられている方は、それを知らない相手がうっかり死なないよう気を使わねばならない。
なんじゃそりゃって感じだよ。
でもうっかり死なせてはいけないので、ここは俺が話し合いでなんとかしよう。
最悪攻撃されたとしても、俺の防御力なら相手が余程バフ盛りしてなきゃ通らんし。
あ、ラウトやディアスやジェラルド級の魔法師やトニスのおっさんみたいなガチプロは話が別です。
この人たちを俺のようなちょっぴり普通より硬い一般人と一緒にしないでください。
「こほん。そこの偉そうな若造」
「あ!?」
「俺はルオートニス王国第一王子にして王太子、ヒューバート・ルオートニス。この国とは国交回復と和平条約締結のために使者として来た。スヴィア嬢はハニュレオの聖女だと聞いているが、聖女である彼女と親しいお前はいったい何者なんだ?」
とりあえず立場ってもんをはっきりさせよう、お互いにな。
そもそも他国の王太子兼使者に対して失礼極まりないんだわお前ら。
一国家としてありえんよ? 本当。
言ってることただの賊だったからね?
まずはその辺を弁えて、改善していただく。
そうすれば話し合いぐらいはできるだろう。
だいたいこいつら、国から反逆者扱いされてるんだろう?
それなのに他国から来た使者にこういう絡み方しちゃダメじゃん。
「ヒューバート王子、そういうのは部下にやらせてくださいよ。なんで自分で名乗っちまうんですかい」
「ァ……ゴメン……つい」
俺もまだまだです。
これからは気をつけまーす。
トニスのおっさんの耳打ちにめちゃくちゃ小声で答えつつ、相手の方を見る。
「ば——馬鹿なことを!
「……うーん」
いや、名乗り返せよ。
身分を露わにしろよ。
まさかの切り返し。
「スヴィア嬢、あなたの横にいるその男は偉い人なのですか?」
よし、聞く相手を変えよう。
スヴィア嬢ならまだ会話が成立するだろう。
そしてその作戦はうまく行った。
「え、ええ。これはワタシの幼馴染で、ハニュレオ国の第一王子、エドワード・ハニュレオよ」
「なるほど。あなたが国王との伝手があると言っていたのは、もしや彼のことですか?」
「ええ」
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