第159話 大穴の中
ここまでは音声を外へも聞こえるようにしていた。
オフにしてから、ラウトに繋ぐ。
「ラウトはどうする?」
『待っている。お前とレナになにかあれば、俺の加護が勝手に発動するだろうし。しかし、俺と同じ状態になっている者など本当にいるのか?』
「それも確認してくるよ。助けられそうなら助けるとして、三号機の登録者っていう可能性あるのかな?」
『……なくはないだろう。先に言っておくが、本当に三号機の登録者だとしたらジェラルドは連れて行った方がいい』
「あ、うーん。わかった」
よくわからないが、ラウトがそう言うのならそうしよう。
ジェラルド——
「では案内してもらおうか。ええと、名前は?」
なんとなく偉いところの娘さんなんだろうな、と思ったが——。
「スヴィア」
という答えに納得もした。
「ヒューバート様、スヴィアさんというと……」
「うん、ハニュレオの聖女と同じ名前だな」
スヴィアと名乗った少女は、なんの迷いもなく
まさかと思ったが、トニスのおっさんの報告にあったハニュレオの聖女スヴィアご本人らしい。
ジェラルドの
歩幅が違いすぎるので「乗る?」と、聞いて手のひらの上に乗せて案内してもらうと、なるほどかなりでかい穴が空いている。
その大穴の中を覗き込むと、深い。
「え? こ、ここに入ったの? 君」
『前はこんなに深くなかった』
「ふ、ふーん」
手のひらの上にいたスヴィアがそう答えて、穴の中を指差す。
はぁ、と溜息が出た。
「ジェラルドはここで待機してくれ」
『え、でも』
「イノセント・ゼロには飛行機能があるから大丈夫。むしろ練習になる」
『そうだね!』
強めに同意されてしまった。
一応目が覚めてから乗る練習はしているんだが、相変わらずギア・フィーネの操縦が難しい。
操縦の仕方はデータとして頭の中にダウンロードされているのだが、じゃあ上手く操縦できるかっていうと——そんなことはないのだ!
こればかりは体の慣れ!
反射神経!
動体視力!
剣の鍛練もそこそこで、防御力魔法ばかり上げてきている俺は操縦になれるしかない!
アニメみたいに乗ってすぐチートなんてるやはり夢だったのだ!
ロボットもまた練習あるのみ!
精進あるのみなのだ!
「……行ってくる」
『行ってらっしゃい〜』
「ヒューバート様、頑張りましょう!」
「はい」
特に飛行は難しい。
補助機能があるのにも関わらずガタガタしてしまう。
ジェラルドとレナに応援されながら、ふわりと穴の中へと降りていく。
幸い横の壁にぶつかるのを気にしないで済むぐらいには広い。
何十メートルあるんだ、横幅。
二十メートルぐらい? もっとありそう?
「お」
底は思ったよりも早く到着した。
イノセント・ゼロが十八メートルくらいだから、縦穴は五十メートルぐらいの深さかな?
「着地成功!」
「はい! とても静かな着地でした! ヒューバート様、着地の腕が上がっています!」
「えへへー!」
レナ、めちゃくちゃ褒めて伸ばしてくれるので鼻の下も伸びていないかちょっと不安。
でも、まあ、できることが増えるのは普通に嬉しいよな。
「——ん!」
そしてイノセント・ゼロのモニターに反応。
飛行と着地に集中してて気づかなかった。
……はい、こういうところが未熟なんですね、知ってまーす。
精進しまーす。
「ヒューバート様、あれは……」
「う、うん。ちょっと予想外だな」
灰色の戦闘機が、結晶化した岩盤に埋まっている。
その上にラウトの時のように、結晶の柱があり、中に人がいた。
金髪の成人男性。
パイロットスーツで、ヘルメットも被っている。
光の加減でかろうじて金髪だとわかるぐらいな。
「ねえ、この人を助けられないの? ワタシじゃ上に連れて行けないのよ」
スヴィアが地面に降りて、結晶の中の男を指差す。
その救護精神はレナと同じか。
聖女の本能的なものなのか。
『わかったよ、危ないから下がってて』
外にいるスヴィアへ向けてそう言って、期待に近づく。
灰色の戦闘機は、イノセント・ゼロの表記によると『二号機』。
ギア・フィーネシリーズ、二号機『ディプライブ』。
“奪う者”を冠る機体であり、アスメジスア基国とカネス・ヴィナティキ帝国二強であった世界の均衡を崩し、世界に戦乱を広げるきっかけとなったギア・フィーネ。
高速可変型で、ギア・フィーネの中で唯一戦闘機に変形する。
ギアが上がるとスピードも上がり、空気中の水分と光を操り、幻影を見せるようになるらしい。
ギア・フィーネシリーズで扱いがもっとも難しいと言われる。
ラウトの機体とは真逆のスピード特化で、攻撃力は多分ギア・フィーネシリーズ中最弱。
だが、だからこそ五号機とは決着がつかなかった。
登録者はミシアの軍人、シズフ・エフォロン。
強化ノーティスという強化人間で、薬物により延命していたらしい。
だから、その、どうしよう?
ナルミさんに聞いたんだけど、ラウトは二号機に父親を殺されているらしいのだ。
それ以外にも、二号機とは何度も戦って引き分けている、ある意味怨敵中の怨敵。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます