第91話 将来のことを考える
「コモードル伯爵家、処刑の上お取り潰しになりました」
半月後、学院でレオナルドに会って第一声がそれだった。
俺の朝の気分が真っ逆さまの急降下になったのは仕方なくない?
「ええ、父上そんなことできるようになってたの? 大丈夫?」
「兄上、王太子暗殺未遂は大罪です。立派な取り潰し理由ですよ」
「で、でも俺は別にピンピンしてるしさぁ。私兵の人たちは命令に従っただけだと思うし、情状酌量の余地があると思うんだよ」
「ないです」
な、ないのぉ……!?
「でも、俺の命を狙ってきた人たちそんなことになってないじゃん……!」
「犯人が捕まっていないので仕方がありません。ですが、兄上の朝食に毒を盛っていた料理人は捕らえたのでもう安心ですよ」
「い、いつの間に!! え、まさかその人も」
「処刑に決まっているでしょう! 何回兄上の食事に毒を盛ってたんですか! 兄上の毒耐性がレベル5まで上がってなかったら本当に死んでましたよ!?」
「あ、あれって俺の毒耐性を上げるための訓練じゃなかったの!?」
「暗殺未遂ですよ!」
ガーーーーン!
最近あんまり暗殺者に暗殺されそうにならないと思ったら!
割と毎日殺されかけていた、だとーーー!?
「というか、本当よく今までご無事でしたね」
「セドルコポイズンビーがヤバすぎたんでは?」
「他人事みたいに言わないでください!」
すみません。
「兄上もいずれ王になるのですから、人の罪を裁くことにも慣れてください」
「え〜〜〜〜〜、はーい」
「やる気のない返事!」
しかしレオナルドの言うことはごもっとも。
法律の勉強ももっとしておかないとなぁ。
やだなぁ、難しくて頭抱えちゃう未来しか見えない。
「あ」
「はい? 外がなにか?」
「いやー。なんでもない。そういえば今度の休日、お兄ちゃんまた
「わかりました。母は最近大した力もないので大丈夫だと思いますが、一応見ておきます。というかそろそろあのクソババア牢屋にぶち込んでやりましょうよ、僕、なんでもするので!」
「実母に対して殺意高すぎじゃない?」
肉親だからこその憎しみというやつだろうか……。
いくらなんでも十代前半の多感な時期にこれはまずい気がする。
それでなくとも結構拗らせちゃってる感あるし、この子。
「レオナルド、マリヤさんに会う時、お前はどうなっていたい?」
「へ?」
「そんな実の母親にガチな殺意を抱いているだけでなく、実際に手を下したらどう思われる? マリヤさんは優しい人なんだろう? そんなことよりも、マリヤさんの傷痕を消す技術の開発とか、そっちに熱意を燃やした方が建設的じゃないか? 医学とか、治癒魔法とか、そっちの勉強したら? レオナルドは魔法属性、水属性だったんだろう? 治癒魔法の種類が多い属性なんだし、伸ばさないのはもったいなくない?」
「——!!」
レオナルドよ、お兄ちゃんはお前が人を癒す人間になっていてほしいよ。
実母を憎んで陥れるような男じゃなくてさ……。
「勉強してきます!」
「頑張って」
「はい!!」
しかし、若干王族としてチョロすぎないか心配になる。
ランディの従兄弟なだけあるな、と思わないでない……。
「さて、と……」
廊下の窓を開けると、黒い小鳥が入ってくる。
使い魔の魔法。
この世界の連絡手段の一つだ。
『村の長より許可を得た。条件は
「わかった、と伝えてくれ」
パタパタ、と鳥が離れていく。
黒い鳥だから、あのおっさんは俺と同じ闇属性魔法の使い手だったんだなぁ。
なんて、のほほんと考えてる場合ではない。
サルヴェイションも?
なんでだろう?
「…………」
いや、待て。
サルヴェイションの名前はほとんど定着していない。
あの機体をサルヴェイションと呼ぶのは俺ぐらいだ。
他のみんなは「名前が長い」とか「聞き取りづらい」とかで“遺物”と呼んでいる。
多分サルヴェイションを呼ぶ時の俺の発音が、大和語・日本語に近いせいだと思う。
俺の翻訳能力の敗北である。
でもあのおっさんの声での発音は、俺のととても近い。
だから通じた。
ああ発音すればいいのかぁ、とか、勉強にはなったけどそうじゃなくて。
サルヴェイションの名前を知ってて持ってこい?
大丈夫かな?
まあ、持ってくしかないけど。
さすがに借り物を寄越せと言われたら断るしかない。
一応ギギも連れていくか……。
けど——これであの晶魔獣を操る魔道具が手に入るかもしれない。
あれを作れる魔法師とも知り合えるのなら、とりあえずやれることはなんでもやるぞ!
「楽しみだなぁ」
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