第59話 未知のロボット(2)

 

「! ヒューバート様、手が!」

「え?」


 レナ、歌をやめてしまった。

 え、でも、レナの言う通り手を見ると、末端が元に戻っている。

 レナは歌ってないのに。


「やっぱりこのロボットの中は……安全、なのか」

「もしかして、それでこの石晶巨兵クォーツドールみたいなものに?」

「まあ、あとあの馬型晶魔獣から逃げたかったから」

「そ、そうですよね」


 でも困ったな、どうするんだこれ?

 ボタンとかいっぱいあって、どこがスイッチだかさっぱりわからない。

 それに、エネルギーってやつ。

 普通ロボットって動かすのにエネルギーが必要だろ?

 千年前の世界ってなにをエネルギーにしてロボットを動かしていたんだろう?

 ……でも、やはりこのロボット、他のロボットとは違う気がする。

 ギギに見せてもらった『陸島』『彩雲』は、俺たちが集めてきた素材の中にその一部があった。

 破壊されて晶魔獣になっていたのが、倒されて元の鉄塊に戻っていたのだ。

 変な話だが、千年前の兵器が晶魔獣になって人類に襲ってくる。

 ある意味、未だに兵器は“人を殺すために”働き続けているのだ。

 でも、このロボットは違う。

 人を守ったのかのような姿のまま、晶魔獣にもならずに元の姿を保っている。


「ヒューバート様……」

「とりあえず結晶化が収まったのは喜ぼう。……このロボット、動かせないかな……」


 適当にぽちぽちボタンを押していると、突然上から目の前にモニターが降りてきた。

 文字がポツポツ自動で入力されていく。

 脳裏をよぎったのはギギが言っていた『クイーン』だ。

 やばい、もしもこのロボットがクイーンというAIのウイルスに侵食されていたら?


『現在地情報を取得しました。

 現在地情報より言語を大和に設定しました。

 歌い手の存在を確認しました。

 登録者より歌い手の保護を最優先命令に設定しました。

 登録者より借用許可が出ています。

 借用者登録をしますか?』


「…………。借用許可? と、登録?」

「ヒューバート様は文字が読めるのですか?」

「あ、ああ。なんとか、ギリギリ」

「す、すごい……」


 でもあんまりのんびりしていられない。

 下の方からあの馬の興奮した声が聞こえる。

 モニターの文字を数回確認するが、とりあえず——歌い手って、レナのこと、だよな?

 他に歌を歌う人間はここにはいない。

 レナを守るために、このロボットの持ち主がこのロボットを好きに使えって言ってる?

 ありがたいんだけど、操縦しようにも操縦方法もわからないし、なにより手足の長さが足りないんだよなぁ!

 大人用だろ、当たり前だけど!


「くそ、お、音声ガイダンスとかないのかよ!」


 叫ぶと、モニター画面が切り替わる。

 丸い波紋のようなものが大きくなったり小さくなったり。

 これ、音声を拾ってる?

 そういえばさっきモニターに『現在地情報を取得しました。現在地情報より言語を大和に設定しました』ってあったから、研究塔のように言語を検索してる、のかな?


「えっと、現在クリステル歴853年、弥生月の23日目。国名はルオートニス王国。王政。国王の名前は第四十八代目ディルレッド・ルオートニス国王陛下。俺はその息子でヒューバート・ルオートニス。一緒にいるのはレナ・ヘムズリー」

「ヒューバート様? 急にどうされたのですか?」

「多分、機械が言語を解析してるんだと思う。たくさん喋れば機械も解析が進むと思う」

「そ、そんなことができるんですか?」

『——————承*認し§マシ%。音≠ガ▼≒ンス※■変⇔—◆マス』


 逆に聞き取りづれぇ〜〜〜!

 でもやっぱり千年前の機械はすごいな。

 すぐにここまで解析して合わせてくる。


「ええと、現在俺とレナは近くに埋まっている要救助者を結晶化した大地クリステルエリアから救出するために国境の側まできて、救助活動を行なっていた——」


 とにかく早めにこのロボットと話ができるようにならなければ。

 ということで、これまでの経緯を整理して聞かせることにした。

 自分が落ち着くためにも必要だと思う。

 外はどうなっている?

 ジェラルドがいれば陸竜は問題なさそうだが、あのままだと俺、死んだことになりそうじゃん?

 早く帰りたい……レナが側にいても、結晶化しないロボットの中にいても、ここが結晶化した大地クリステルエリアの中にいるのがもう不安でたまらない。


「以上のことにより、我々は今ここにいる」

『——————』

「と、止まってしまいましたね。こ、壊れてしまったのでしょうか?」

「いや、多分解析中なんだと思う、ぞ」

『$ # ・* 〆 ≠ × ※ ‾ ∫ ∴ ▽ ——⁂ Å ◆%《 ⊃ ヽ 〓 〉▱』


 ……な、なんて?

 本当にぶっ壊れました?


『一部の解析データを応用し、人格データを引用。サポートガイダンスを開始します』

「ふぁ!?」

「きゃっ!」


 急にものすごく流暢に喋り出したぁ!?


『現状の説明を感謝する。大部分が機体の保有データと異なるため、相当の年月を休眠していたと推測。最新データへの更新に時間を要するものであるが、現在“歌い手”レナ・ヘムズリーとヒューバート・ルオートニスは危機的状況であると判断。ヒューバート・ルオートニスへ、登録者への機体借用を推奨する』



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