第58話 未知のロボット(1)


「ヒューバート様!」


レナが手を伸ばし、俺に抱き着く。

そのまま落下。


——結晶化した大地クリステルエリア


死の大地。

漫画『救国聖女は浮気王子に捨てられる〜私を拾ったのは呪われてデュラハンになっていた魔王様でした〜』での、悪役王子ヒューバートの死に方そのものじゃないか。

手足が瞬く間に動かなくなる。

あ、これは、やべ、想像以上に怖い。

俺のことを死の大地に叩き落とした、馬型の晶魔獣を見上げると、首輪が瞬く間に結晶化していく。

まるで正気を取り戻したような馬型の晶魔獣は、俺とレナを見るなり上半身を持ち上げていななく。


『ブヒヒヒヒヒーン!』

「アッ、レ、ナ」


レナを守らなければ、と腕を動かそうとするが、もう肘の上まで結晶化している。

レナが俺の体を引っ張り、馬の前足から救ってくれた。

けど、穴に落ちた。

そう、例の穴だ。


「〜〜〜♪」

「!」


穴に落ちるなり、レナが俺の手を掴んだまま歌を奏でる。

聖女の、結晶化の治癒魔法。

見る見る体が元に戻るが、指先がチリチリと硬さを保つ。

俺を見て、涙を堪えながら歌い続けるレナの言いたいことはわかる。

……長くは持たない。


「っ」


ズズズ、と振動が穴の中まで響き一部が崩れる。

そして、俺はレナが見つけたという要救助者と対面した。

金の髪、白い肌、中性的な容姿。


「……っ」


そして、多分……パイロットスーツ……って、やつ。

ヘルメットも手に持ったまま。

ピッタリとしたタイプの、白基調で青い線が入った、アニメとかで見るやつだ。

この世界は、かつて戦争をしていた。

その歴史を思い出すと、この人物は、まさか……千年前の……?

だとしたらもうこれは歴史的発見の域なのでは?

なんて歴史のロマンに思いを馳せている場合ではない。

真上の穴から小さな結晶のかけらが落ちてくる。

ゴリゴリ、と馬型晶魔獣が穴の入り口を蹄で踏み潰し、削っているのだ。

ここに、来る気か。


「! レナ、横穴がある。あっちに行こう」


歌いながらレナが頷いてくれる。

さっきの振動で崩れたものだろう。

色取り取りの結晶は、水晶のように半透明で美しいのだが騙されてはいけない。

レナが歌うのをやめた時、俺は死ぬ。

レナを悲しませないと決めた。

だから、絶対に生きて帰らなければ。

手を繋いだまま俺が先行して横穴を進む。

なんとなく、穴の形から元々は建物の瓦礫だったのではないかと思う。

空気があまりなくて、息苦しい。

レナも歌いづらそうだが、空気の通り道が増えたことでだいぶマシなんだろう、これでも。


「大丈夫か? あの馬の晶魔獣が諦めたら、すぐ上に戻ろう」

「こくん」


レナの手のひらが汗で滑る。

俺の手汗かな? ごめんね!

震えているのも、多分俺だよな。

不安にさせてごめんね!

本当は、泣き喚きたいほど怖いんだ。

レナに見捨てられたら、死ぬからさ。

でも、俺はレナに生かされてる。

『救国聖女は〜』では、俺はここで死ぬから。

ずっと恐れていた死に場所に、俺は今、いるんだ。


「え? あれ、なんだこれ」


空洞だ?

地上からの光が反射して、すごく——綺麗な場所。

けど、俺はさっきここを「建物の瓦礫」のようだと思った。

多分、それは正しい。


「……っ!? ロ、ロボット……!」


まるでアニメの第一話のようではないか。

跪いた真っ黒な巨大ロボットが、両手を上に交差して、なにかから小さなものを覆うように守っている。

そんな姿のまま、動かない。

……瓦礫から人を守ったのだろうか。

俺には、そう見える。

でも、ちょっとおかしくないか?

俺はレナに手を繋いでもらって、ようやく結晶化から逃れているのに、このロボットはどうして姿なのだろう?

さっきのパイロットスーツの人間といい……。


「!」


胸の突き出した部分が開いている。

あれは、操縦席じゃないか?

膝をついているおかげで、結晶化した突き出てる部分を伝えば登れそうだし……。

アニメや漫画みたいに上手くいくかわからないけど、このままじゃジリ貧だし。


『ブウウウゥゥ……ブウウウウウ!』

「「!!」」


嘘だろ、あの馬降りてきやがった!?

横穴の入り口に鼻突っ込んでバキバキと壁を破壊しまくってやがる!

結晶は脆い。

俺とレナが通れる道だ、あいつがここまで来るのも時間の問題!


「レナ! 乗るぞ!」

「!」


歌は止めないながらも、俺について結晶した壁の突き出た部分を慎重に登り、膝の上に到着する。

その時、晶魔獣の顔がついに空洞の中に現れた。

膝の上から胸の部分は近いけど遠い。

でも、身体強化魔法を使えば届く!


『ヒイイイイ! ブウウウウウ!』

「っ! レナ! 俺を信じて!」


身体強化魔法を自分に使う。

手足の末端の感覚がないけど、レナに手を伸ばす。

頷いてくれたレナをお姫様抱っこして、膝に力を入れた。

馬型は足が速い。

でも、俺たちが操縦席に降り立つ方が早かった。

それに、さすがの馬型晶魔獣も登っては来れない……よな?

思った通り座席が一つ。

俺が座っても入り口は閉じない。

ちょっとやばい、怖いんですけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る