第26話 学院入学式(3)

 

「起立! ただいまより、ルオートニス貴族学院入学式を始めます! まずは聖殿より新教皇閣下がお祝いの挨拶をくださいます」


 この学院の教師だろうか。

 女教師がステージ上から退けると、恰幅のいいおっさんが代わりに登壇する。

 ああ、あれが“今”の聖殿最高権力者か。


「初めまして皆さん、聖殿新教皇、ディロック・レバーです」


 豚の肝臓かな。


「えー、本日はお日柄もよく〜」


 から始まった長ったらしい、しかも中身がない話。

 これいつまで続くの?

 俺ら立たされてるんだけど?

 苦痛の時間が十分ばかり続いたように思う。


「であるからして〜皆さんには輝かしい未来が待っています。どうかこの学院で学び、聖殿のために尽くしてください! ではでは!」


 ……スピーチがゴミのようだ……。

 思わず隣のジェラルドを見ると、にこりと微笑まれた。

 どういう意味の笑顔? それ。


「次に、国王陛下より新入生の皆さんへお祝いの挨拶をくださいます」


 豚の次に父上が登壇してきた。

 去り際、父上を鼻で笑う豚。

 そーね、聖殿が国王より先に挨拶してる時点でクソ舐め腐ってるよね。

 わかるわかる。

 ああ、そういう意味のアレか、ジェラルド。

 そうだな、豚が粋がってんなぁ。


「こほん。えぇ、国王ディルレッド・ルオートニスだ。新入生の諸君、入学おめでとう! 難しいことは言わない。やりたいことを見つけてたくさん学びなさい。青春は一度しかない。大いに謳歌するように! 以上! 着席!」


 最後に俺をチラリと見て微笑むのを忘れない。

 豚に比べて印象が全然違う。

 平民の子どももいるから、難しい言葉を使わず、長時間立たされていたのを気遣って短く簡単な挨拶にしてくれたのだろうな。

 最後に座るよう言ってくれるしブラボー!

 父上サイコー!


「はあ」

「国王陛下の挨拶短かったね」

「やっと座れた、よかった」


 後ろからチラホラそんな声が聞こえる。

 みんな考えてたことは同じか。


「起立!」


 え。

 先程の女教師の声に、新入生一同がざわついた。

 い、今父上が座らせてくれたばかりなのに……!?


「次は新入生代表、入学試験で満点を取られました、ヒューバート・ルオートニスくん!」

「! はい!」


 あれ?

 聞いていた順番と違うな。

 父上と聖殿の偉い人のあと、校長の挨拶だったように思うのだが……。


「…………。失礼ながら、校長先生からのお話はないのでしょうか!」


 罠か?

 女教師にそう、声をかけてみると——案の定というべきか、ギロリ、とものすごい顔で睨まれた。

 俺の後ろの生徒が「ひっ」と声を上げるほどの形相だ。


「……失礼。校長先生よりご挨拶があります」


 そう言い、校長が登壇する。

 ふらふらよれよれの爺さんが、「入学、おめでとう」と簡素な一言を告げて降りていく。

 いや、短っ! 早!


「ヒューバート・ルオートニスくん!」

「はい」


 今度こそ新入生挨拶。

 ちらりと壁際に座る教師たちを見ると、皆一様に目を背ける。

 ふーん、校長の挨拶をわざと飛ばして、俺に挨拶をさせてあとから「ヒューバート・ルオートニス王子は順番も守れない目立ちたがり屋」とでも捏造するつもりだったのかな。

 教師陣はほとんどが中立派の貴族と聞いているが、あの進行役の女教師はわかりやすく聖殿派だろう。

 こりゃ面倒だなあ。


「皆さん! おはようございます! これから一緒に頑張って学んでいきましょう! それでは着席してください! はい、よろしくお願いします!」


 登壇してからすぐ、簡素な挨拶だけ告げて頭を下げ、降壇する。

 考えていた挨拶をほぼすべて端折って、生徒たちを座らせた。

 階段を降りながら講堂全体を見ると、俺が座れと言ったことでほとんどの生徒が頬を緩めたのがわかる。

 一番後ろの方は平民、その前は男爵家、子爵家の者たち。

 身分により前が位の高い者、後ろが位の低い者になっているのか。

 ジェラルド? ジェラルドは俺の従者なので身分は関係なく俺の近くにいるものである。


「ちっ」


 席に戻る俺に、豚だか女教師だかが舌打ちをかます。

 聖殿は、ここ二年ほど俺の婚約者であるレナの献身的な治療行為で中立派が増えているのが面白くないのだろう。

 元々聖殿派だった貴族の中には、聖殿への寄付が足りないと結晶病の治療を拒否された家も多い。

 俺はレナとジェラルドに頼んで、そういう家の者を治癒してもらってきた。

 勢力図に大きな変化はないものの、新しく聖殿につく貴族は出ていない。

 舌打ちの後ろに「必ず殺してやる」という副音声が聞こえた気がするが、やれるもんならやってみろと思う。


「では、続きまして入学パーティーを行います。新入生の皆さんはダンスホールへ」

「わあ……」


 行動の横にあるダンスホールへの扉が開く。

 そこには在学生と有力貴族が集まっていた。

 俺は父と共にダンスホールの上座へ。

 生徒が全員ダンスホールに入ったのを確認して、父上が手を上げて注目を集める。


「さて、入学パーティーの前に我がルオートニス王国の王位を継ぐ者を、ここに正式に定めることを宣言する! ルオートニス王国次期国王は第一王子、ヒューバート! 皆、どうか支えてやってほしい!」

「おおお!」

「ヒューバート殿下!」

「おめでとうございます!」

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