第24話 学院入学式(1)

 

「ヒューバート様、おはようございます!」

「おはよう、レナ。今日も可愛いね」

「あ、ありがとうございます……」


 照れ、と頬を染める。

 四年間毎日毎朝やっているのに、レナは未だに照れるのだからもーわー、可愛い!

 もはや世界はレナを世界遺産にして崇め奉るべきではなかろうか。

 今日も可愛い。毎日可愛い。

 レナを城に連れてきたのは大正解だ。

 毎日レナに会えて幸せすぎる。


「……ヒューバート様、声に出てます」

「あ、あれぇ?」


 気をつけてるんだけど、レナに対してだけ心の声が全部漏れるこれ、全然治らない。

 なーぜー!


「ヒューバート、レナ、おはよう」

「ジェラルド、おはよう」

「おはようございます、ジェラルドさん」


 今朝も早いな、ジェラルドは。

 ニコニコと迎えると、変な顔をされた。

 そしてこてん、と首を傾げる。


「二人とも、制服は? あと、今日から寮だよねぇ? なんでまだお城にいるの?」

「ああ、それはだなー」

「えっと、それはですね……」


 魔法研究のために、城の図書室に篭りがちのジェラルドもすでに制服を着て荷物を持っている。

 そして、俺とレナも当然制服を着て寮に向かわねばならない。

 なんなら昨日の夜、「早めに起きて出るように」と城の者にも言われている。

 だが俺もレナも普段着。

 そしてこんな時間までしっかりと寝た。

 実を言うと昨日の夜は夜更かししてしまったのだ。

 そう、夜のデートというやつ!

 まあ、年齢的なこともあり、俺とレナは清い仲のまま。

 チューすらしてない。

 でも、昨日ついにメイドや護衛の目を掻い潜り、城の庭で手を繋いだのだ!


「へへへ」

「え、えへへ」

「? なんだかよくわからないですけど、おれなら三人で一緒に行きましょうか」

「そ、そうだな!」

「そうですね! ランディさんもきっと待ってますよね!」


 えへへ、と笑い合う俺とレナ。

 学院に行ったら、もっと一緒にいる時間は増えることだろう。

 そしたら、ちゅ、ちゅ、ちゅ…………チューくらいは……!


「ヒューバート、入学の挨拶と立太子の挨拶、ちゃんと暗記してる?」

「……ジェラルドよ、思い出させるな。今から緊張で胃が痛む」

「ええ……なんかごめんね」




 ——ルオートニス貴族学院。


 王都中央区にある、貴族のみが通うことを許された共学校。

 十二歳から成人である十八歳までの貴族が通い、教養を高め、交流を行う場。

 また、婚約者がいない者はお見合いの場でもある。

 共学校ではあるが、男子寮、女子寮としっかり別れており、かつ成績によって上・中・下に部類される。

 そこに家柄は関係なく、過去王族であっても下級クラス行きになった者もいるという。

 今年から俺とレナ、そしてジェラルドが入学する。

 ランディは一つ上なので、今日から二年生。

 なんと昨年は上級クラスですべての学科で首席を取り、実家から手放しで祝福されたという。

「それもこれもすべて殿下のおかげです」と胸を張って感謝されたが、俺なんにもしてないんだよなぁ。

 ランディずっと頑張ってきたおかげだと思うんだよ。

 今も情報を流してもらうためにメリリア妃とは通じてもらっているが、この四年でだいぶ強かさを身につけて、最近は手玉に取っている模様。

 先日も「あの間抜けな女はレオナルド殿下に不正入手した問題集を与えていました」と軽口まで叩くようになっている。

 メリリア妃もランディの学院の成績を聞いて、暴言が極端に減ったとか。

 学院の成績ってすごいんだなぁ。

 メリリア妃といえば、レオナルド。

 結局四年間、色々試したが交流がほとんどできなかった。

 メリリア妃だけではなく、俺がレオナルドと仲良くしようとすると聖殿や聖殿派の貴族も妨害してくるのだ。

 なんだかなぁ、と思う。

 王家と聖殿の関係性もあまり変わり映えはしていないが、レナがジェラルドと魔力を借りれば現在の『聖女』であるフォリア様よりも聖女の魔法を使えることが発覚して以降、少しずつ立場が悪くはなっている。

 レナはまさしく『救国聖女は浮気王子に捨てられる〜私を拾ったのは呪われてデュラハンになっていた魔王様でした〜』の、主人公らしい力を身につけ始めているのだ。

 なにしろ最近は、ジェラルドの補助なしで聖女の魔法を用いて結晶病の治癒が可能になった。

 王妃教育もとても頑張ってくれていて、漫画のレナより品位があるように思う。


「そう、俺の婚約者マジ淑女の鑑。非の打ちどころのない美しさ。可愛いだけでなく最近は美しさにも磨きがかかり、これからもっと可憐に成長していくと思うと学院で悪い虫がつかないから心配で心配で心配で」

「大丈夫です! あたしが一緒に行くんですから!」

「はっ! パティ!? まさか俺はまた全部声に出ていたのか!?」

「出てましたよ」


 なぜだ……!

 頭を抱えて崩れ落ちそうになるが、ジェラルドが腕を抱えてくれたのでなんとか立ったままでいられた。

 でも王族としてほんとどうかと思うこの癖。


「それにしても、ヒューバートは相変わらず護衛騎士の一人もいないんだねぇ」

「騎士は全体的に人手不足だし、聖女候補の護衛の方が重要だからな」

「王族に護衛がつかないのもどうかとおもうんですけどー!」

「そうですね……」


 と、パティとレナが頬を膨らますのも仕方ない。

 でも俺はこの四年で結構鍛えたので大丈夫!

 幸い暗殺未遂と毒殺未遂が十回くらいしかない!


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