第22話 きょうだい(7)

 

 友よ。

 きょうだいよ。

 どうしたらいい?

 死んでほしくない。

 別れなければいけないのだろうか?

 俺の初めての友。

 初めての味方。

 信じると言ってもらったのに。俺ならできると言われたのに。

 いやだ……いやだ……。


「いやだ……」

「〜〜〜♪ 〜〜〜♪」

「いやだ、レナ……ごめん、がんばって……お願いだよ……ジェラルドに死んでほしくない。死なないでほしい、いやだ、いやだ! ジェラルド!」


 ジェラルドの手を握る、レナの手に縋りつく。

 うっすらと新緑色の瞳を開けたジェラルドと目が合った。


「————……ぼくの、魔力を、つかって」

「え……?」

「いちかばちか、レナさま、僕の体内魔力を、ぜんぶ、渡します……! 使って……胸に、ヒューバート……!」

「「!」」


 俺はレナの手を無理矢理ジェラルドの胸に——まだ肉の肌が残る場所に動かした。

 その瞬間、レナの手を通してものすごい魔力を感じて目を見開く。

 レナの体が白く光り輝き出すほどの、魔力。


「あ、っ、〜〜〜♪ 〜〜〜♪」


 一瞬驚いたようだが、すぐに歌い始めるレナ。

 今までの歌声ではない。

 白い魔力がジェラルドの体に還元され、結晶化していたところが瞬く間に元の肉の肌に戻っていく。

 首も、顎も、耳も、手も足も……指先まで!


「あ……っ」

「……お、おお、おおおおおおっ! ジェラルド、ジェラルドぉ!」

「ジェラルドー!」


 ミラー子爵とパティがベットの上から起き上がったジェラルドに抱き着く。

 俺とレナは押し出されて床に尻餅をついた。

 けれど、でも、嬉し泣き——っていうかもう子爵は雄叫びだけど——する家族の間から顔を覗かせたジェラルドが微笑むのを見て、俺も安心して涙が出てきた。


 ……生きてる。

 生き延びた。

 ジェラルドが。


「う、ぁうっ、うああぁ、うあああぁっ、ジェラルド、よ、よかっあっあぁううああぁ……」

「殿下、よかった、よかったですね!」

「ヒューバート様……」

「レナ、れなぁ! ありがとう、ありがとうー!」

「ひゃっ! ……は、はい……わたしも……ありがとうございます!」


 いつしかまるで関係のない近衛騎士の二人までもらい泣きし、しばらく部屋の中は嗚咽と泣き声が続いた。

 落ち着いてくると、ジェラルドが父親を引っ剥がして俺のところに来ると俺を抱き締める。

 それでまた、俺がブワッときたのは仕方ないことだ。


「ジェラルド」

「ありがとう、ヒューバート。ヒューバートが『死なないで』って言ってくれなかったら、ぼくはあきらめていた」

「うっ!」


 泣くだろ。

 ブワッとまた、クるだろ。


「……聖女様、母の結晶病も治していただけませんか? ぼくの魔力を使ってくださって構いません」

「! は、はい! わかりました! その、ジェラルド様にお力添えいただければ、できます!」

「ほ、本当ですか!? 妻も助けていただけるのですか!?」

「っ!」


 俺から離れたジェラルドの提案に、レナが笑顔で答える。

 子爵とパティがまたぶわりと泣き出すが、安心するのはまだ早い。

 レナ、ジェラルドと頷き合い、夫人の部屋へ移動する。

 ベッドに横たわった夫人は、すっかり元通りになったジェラルドに悲鳴をあげかけたが、ジェラルドがレナの手を握って聖女の魔法を発動させるとさらに困惑して「え、あ、え、あ」と変な声しか出なくなった。

 わかる〜〜〜。

 もう現実が受け止めきれないよなぁ。


「あ、ああああぁぁぁ……か、体が……!」

「あああああああぁぁ! アザラァァァッ!」

「お母様ぁぁァァァッ!」


 先程の再現を見せつけられているようだ。

 子爵とパティがアザラに抱き着いて、びゃあびゃあと泣き始める。

 俺もまたなんかこう、じわ、と涙が浮かんできた。


「レナ、本当にありがとう……」

「いえ、わたし一人の力では……! ジェラルド様のおかげです。ものすごい魔力で、わたしの魔石の力を引き出してくださいました」

「ヒューバートの婚約者の手を握るのは、じゃっかん命がけだったけど」


 そうだな。

 普通そうだろう。

 でも許す。だってジェラルドだもの。


「ヒューバートが魔法のべんきょーをする時間をたくさんくれたから、気づくことが多かった。聖女様の魔法に魔力がひつようなのも、わかったんだ。ぜんぶヒューバートのおかげだよ」

「ジェラルド……」

「あ、あの、お力になれて、よかったです! わたしも、ヒューバート様が信じてくださったから……わたしなんかを……ずっと、一度も否定せずに……ずっと信じてくださったから……! ヒューバート様、ありがとうございました!」

「レナ……っ」


 左手を握られる。

 か、かわいい。

 それにジェラルドにも右手を握られた。

 え、こんなの——泣くしかないじゃん?


「ダバーーーーーーッ」

「わあー」

「ヒューバート様!?」


 夜、帰るのは遅くなってしまったけれど、俺が帰るのを待っていてくれた両親には最高の報告ができた。

 レナのことも紹介できたし、今夜からレナは城暮らしとなる。

 なので、四人で夕飯を食べて、夜の勉強をせずにベッドに入った。

 ジェラルドが助かった。

 その事実に、嬉しくてまた泣いたのは俺だけの秘密だ。



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