第20話 きょうだい(5)
「お茶会のしょーたいじょーの返事もないから、そんな気はしていた」
「!? ヒューバート様からお茶会の招待があったのですか!? ひ、ひどい……! どうしてそんな大切なものを……」
「まあ、今こうしてさいかいできたからよしとしよう。……レナにはどうしても頼みたいことがあるんだ」
「え?」
近衛騎士に頼み、俺を後ろに、レナを前にして城へと帰城する。
移動しながら俺の幼馴染で乳母兄弟のジェラルドが、結晶病を発症し半年持たないだろうという診断をもらったことを話した。
レナには王妃教育の合間を見て、どうかジェラルドを治癒してほしい、と。
「……お、お力になりたいのですが……わたしは聖女として、才能がなくて……」
「大丈夫だ。レナは絶対にくにいちばんの聖女になる」
「……っ……ヒューバート様……」
「だから……だからおれの、だいじなきょうだいを、どうか、助けてほしい……!」
幼い彼女にこんなことを頼むのはきっと酷だ。
ずるいに決まっている。
もしもダメだったら
でも、それでも他に方法がないのだ。
聖女の魔法しか、結晶病を治せない。
諦めないと決めた以上、聖殿がまだ『聖女』として認定していない——おそらくする予定もないレナに頼む他……縋る他ないんだ。
「……ヒューバート様は、わたしを一度も……」
「……? え?」
「いえ。……やります。やってみます。わたし、聖女になれるなんて思ってなかったけど……ヒューバート様がわたしを信じてくれるのなら、わたし、やります!」
「レナ……!」
近衛騎士を見上げると、頷かれる。
王城には向かわず、ジェラルドと乳母のいるミラー子爵家に向かってもらった。
ミラー子爵家は元々東の国境付近に領地があったが、現在は
実際そういう貴族は多く、領地の民も一緒に連れてくることが多い。
しかし、ミラー子爵家の領民は王都のはずれの大農場に全員引き取られた。
そのためミラー子爵家は行き場がなくなり、お城での役割もなければ聖殿にも「人では間に合っている」と貴族としての役目を奪われかける。
そこを救ったのが俺の母。
ジェラルドが生まれた時に、俺も間を置かずに生まれて、ミラー子爵夫人アラザは王子の乳母として城に召し上げられた。
その後もアラザは王妃付きの侍女の一人となり、夫である子爵は国王お抱えの文官として雇われ、ミラー子爵家は取り潰しを免れた。
その後成長した長女パティも城のハウスメイドとなり、ジェラルドは俺の従者兼話友達としてかなり王家に近い立場となる。
そうして王都の端にあった仮住まいから、貴族街に王が家を用意して引っ越してきた。
ミラー子爵家は、現当主の孫の代まで王家に尽くせば伯爵家に
……それまで王家にその権限や存在が残っていればの話だが……。
うん、頑張ろう、俺が。
「こちらですか」
「そう!」
貴族街の一画にあるこじんまりした屋敷がミラー子爵邸だ。
使用人は三人ほどと少なく、出迎えてくれたのは実家に戻っていたパティだった。
俺が本当に聖女候補の婚約者を連れてきて驚いた様子だが、その前に俺はパティに頼みたいことがある。
「パティ、すまないがレナのかっこうをなんとかできないだろうか? 薄着すぎて、目のやり場に困るんだ」
「あらやだ本当!? なにこのボロ布! 雑巾より薄いじゃない! あたしのお下がりの方がマシね! 殿下たちは応接間でお待ちを! 婚約者様、こちらへ! そんな格好じゃ風邪ひくわ!」
「は、はいっ」
世界中が
できれば早めに城に帰りたいけど、やはりジェラルドの体調が心配だ。
結晶化するのは手足などの末端から。
それから徐々に心臓や頭に向かう。
ステージ2は膝や肘などに達しているということ。
もうそこまでくると寝たきりとなり、起き上がることはできても歩くことは難しい。
「突然のことでおもてなしもできませんが……」
そう言ってお茶と茶請けを出してきたのはこの家の主人、ミラー子爵本人だ。
妻と息子が同時に結晶病を発症してしまったことで、一番ショックを受けているのはこの人だろう。
今日の仕事を終えて早々に帰ってきているようだが、目に見えて憔悴している。
「気遣いはふよーだ。じぜんのれんらくもなく来てしまったのは我々だからな。それよりも、ジェラルドの体調はどうだろうか?」
「……深刻です。妻よりも結晶化の速度が速い。医師からは驚かれるほどです。明日の朝にはステージ3に到達するだろうと」
「そ、そんなに!?」
ステージ3は腰や肩にまで結晶化が広がった状態のこと。
いくらなんでも速すぎない!?
「医師が言うに、魔力量が多い者は侵食がはやいのではないか、と言われているそうです。まだ検証されておらず、あくまでその医師の経験によるものだそうですが……」
「っ、そ、そんな……」
「ヒューバート殿下、あの少女は……ジェラルドと妻を治癒できる聖女様なのでしょうか?」
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