ぱぱとままの殺し方

小狸

ぱぱとままの殺し方

 パパとママを初めて殺そうと思ったのは学生の頃でした。


 二人のせいで、わたしの人生はめちゃくちゃになりました。


 人を信じられなくなりました。


 幸せなんてないことを知りました。


 生きていても辛いことだけなんだと知りました。


 でもわたしはえらいので、いい子を演じました。


 いい子、どれだけ嫌なことを言われても、パパとママが仲良くなればいいと思っていました。


 二人はいつも仲が悪かったです。


 わたしはいつも、二人が仲良くなればいいなと思っていました。


 わたしは、家の中では歯車でした。


 パパとママが喧嘩しそうになった時に、ちょっと一言挟んでなんとか怒りを散らす。


 そういうシステムでした。


 そんな風にして、わたしの学生生活は終わりました。


 そんなことで、です。


 気付けば、まわりの人たちとはあっとうてきな差が付いていました。


 どうしてにこにこ笑えるのでしょう。


 どうして楽しめるのでしょう。


 知っていますか、みんなはねる時に泣かないんだそうです。


 わたしはいつも泣いていたのに。


 まあ、それだけなら良かったんです。


 別にいいです。


 しゃかいから外れたわたしが死ねばいいだけの話ですから。


 まともじゃない、変なわたしは、命をぽいすればいいんです。


 けれど、ちがいました。


 パパとママは、わたしにこう言いました。


 介護をよろしく頼むよ。


 にこにこと笑顔でそう言いました。


 そうね、といつもどおり機械的にたいおうして、そのあとわたしはトイレで吐きました。


 きもちわるかったです。

 

 ほんとうに、この人たちはなにも分かっていなかったのです。



 むすめとのきょりの取り方が分からなくなって、へやにひきこもって、それでも勝手に察してくれる、なんておもっていたんです。


 どうして、わたしを不幸にするにんげんを生かさなければいけないのでしょう。


 わたしはここで確信しました。


 ああ、そっか。


 こいつらは、ここで殺さなきゃだめだ。


 こいつらをころさなきゃ、わたしはいっしょう幸せにはなれない。


 そうおもって、綿密に計画をたてました。


 わたしはあたまがわるかったので、多くの人に話をききました。


 もちろん、パパとママをころすなんてことはいいません。


 正しい親の殺し方を、聞いてまわっただけです。


 おやをころしたい。


 しんでほしい。


 とても意外だったのは、みんなが親に寛容だったことです。じっさいにはおやと不仲だったり、いやな思いをしたり、苦しんでいるひともいっぱいいました。


 だけど、でも。


 でも――親だし。


 しかたない。


 そんな風にいっていました。


 それは、よくいわれたことばでした。


 不仲はしかたない。にんげんだからしかたない。だから、あなたのじんかくがゆが

 むことも、しかたない。


 わたしはしかたなくこうなった――それはパパとママに、よくいわれたせりふでし

 た。


 だれもわたしのみかたをしてくれませんでした。


 わたしは独りでした。


 いつもどおり、独りでした。


 だから、独りでころすことにしました。


 はちがつ、しごとで長めのやすみがとれそうなので、きせいしました。


 ひさびさにかえったので、パパとママはよろこんでいました。


 わたしのすきな海鮮丼やさんにつれていってくれました。


 さんにんで映画をみにいきました。


 かぞくでたのしくはなしました。


 ゆうごはんのあと、てれびをみました。


 たのしかったです。


 さて。


 パパとママはゆだんしています。


 都合の良い娘が、つごうよくふるまっているのに。


 あのころより、二人はなかよくなっていました。


 しっとしました。


 きっとわたしのせいだったのでしょう。


 わたしさえいなければ。


 パパとママを殺したあとで、わたしもしのうと思いました。


 ふたりは一階のべつべつのへやで寝ています。夜、ねしずまったあとで、台所からほうちょうを持ちだしました。最短距離で、悲鳴を聞いてもおきないように、二人をころす。このときのために、がんばって医療技術をべんきょうしておいてよかったとおもいました。

 

 パパとママのなかでは、きっとわたしは、最期までつごうのいい娘なのでしょう。


 そう、ここです。


 むすめでもむすこでも、情状というものがあります。


 育ての子がちょっとよいことをいえば、親は簡単にだませます。


 そこを、突けばいいのです。


 安心して、ゆだんしきっているところを、ざくり、です。


 かくじつに殺せます。


 親はこどもをきほんてきに馬鹿にしています。


 ガキだからなにもできないとおもっています。自分より下だと思っています。


 そこに、子どもとしてのパーソナリティが加われば、もうほぼ無敵といっていいでしょう。


 しかし、まあ。


 この状況では、苦悶のひょうじょうは見えないかもしれませんね。


 まあ、いいや。


 さようなら。


 しあわせなまま、死んでください。


 わたしは不幸なまましにますので。




(終)

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