第10話 魔術適性
学園に入学するまでの間は、なるべくミズエルとの時間を取るつもりだった。
今日は屋敷の庭先でミズエルとレイチェと一緒に茶を楽しんでいた。
「来週、聖ミズエル冒険者学園の入学試験があります。レイチェに受けさせようと思っているので、それまでレイチェの魔術を見ていただけませんか?」
「聖ミズエル冒険者学園? お前、自分が作った学園に自分の名前つけてるの?」
「なかなか良い名前でしょう」
ミズエルは優れた召喚術師だが、ネーミングセンスは壊滅的だった。
それにしても、入学試験か。懐かしいな。俺は王都の冒険者学園の出身なので、これで二度目の入学試験を受けることになる。
「試験内容はなんだ?」
「筆記試験と、魔力測定と、実技試験として模擬試合ですね」
「魔力測定! いいじゃねえか!」
俺が乗り気になると、レイチェが意外そうに首を傾げる。
「魔力測定でそこまでやる気になる人、初めて見ました」
学園での生活の心残りの一つだ。勇者ナインは学園時代はさほど強くなかったため、成績は他の勇者一行に劣っていた。中でも俺が歯ぎしりして悔しがったのは、王女アリシアと魔力測定を受けた時だ。
「いいかレイチェ、魔力測定っていうのは、球状の測定器に魔術師の魔力を込めることで、魔力量がS~Eの位階で格付けされる儀式だ。俺が十五の時に受けた魔力測定では、結果はランクCだった。そして、俺の直後に王女アリシアが測定器に手をかざした。何が起きたと思う?」
「ランクSだった、とかでしょうか?」
「惜しい。測定器がパリンと割れたんだ。魔力量過多による測定不能ってやつだ。そしてアリシアはあわあわと”私、何かしてしまったのでしょうか?”と慌てた。当然、周囲は歓声で湧いた」
「主人公っぽいです! 格好良い!」
「そうだろ? そして俺は”馬鹿な! 測定器の故障に違いねえ!”と嫉妬して叫んだ」
「脇役っぽいです。勇者様はそんなこと言わない……」
レイチェの瞳がどんよりと曇った。召喚契約によって俺の頭に痛みが走る。
「痛ててて。まあつまり俺が言いたいことはこうだ。パリンしてえ、今度は俺が魔力測定器をパリンしてえ。そして期待のパリンルーキーとして、学園生活をデビューしてえ」
「ナイン、大人げないですよ」
「勇者様、大人げないです」
「ガーハッハッハッハッ、誰がどう言おうと勇者の力で学園に君臨してくれるわ!」
俺が学園生活に期待を膨らませて高笑いをしていると、ミズエルがやれやれと首を横に振った。
「ナインは入学試験を受けなくて良いですよ」
「なに……?」
ミズエルの言葉を吟味する。俺が偉大なる勇者だからだろうな。
「つまり、俺ほどの傑物は試験は顔パスで入学ってこと?」
「前向きなのは君の良いところですね。しかし、君は単純に生徒として入学できないということです」
「おい、話が違うぞ。お前が通えって誘ったんだろうが」
レイチェが申し訳無さそうな顔で補足してくる。
「あの、召喚師は学園に使い魔を連れて入学できるんです。ナイン様は魔術的には私と召喚契約を結んでいることになりますから……」
そこまで言われたら流石に察しがつく。
「使い魔……召喚獣……。術者のおまけ扱い……。ミズエル、お前、かつてのパーティの仲間に対して手心とか無いのか?」
「勇者ナインであろうと、使い魔ナインであろうと、肩書が何であれ君は君、私の
「よせよ、照れるじゃねえか」
俺はミズエルの言葉に気を良くした。まあ普通に学生として入学するより、使い魔枠のほうが自由に過ごせそうだしな。悪くない。
大いに脱線したが、話を最初の話題に戻す。
「それで、レイチェの魔術の話だったか? 勇者ナインの封印を解いた熟練の召喚師に、今更俺が教えることなんてなさそうだが」
「それがそうでも無いのです。レイチェ、
「はい!」
レイチェの足元に魔術陣が構築され、それに魔力を流し込んで魔術が完成した。レイチェが詠唱を唱える。
「
本来であれば風の刃が発生するはずの魔術は、レイチェの足元から上方に風を発生するだけに終わった。ケープやらスカートやらがまくれあがるのをレイチェが慌てて抑える。白か、悪くない。
しかしどういうことだ?
「レイチェ、全身に魔力を巡らせてみろ」
「こ、こうですか?」
レイチェが俺の指示に従い、魔力を全身に巡らせはじめる。これは……。
魔術の適性属性は、術師が所持する魔力の属性と量によって定まる。
大抵の魔術師は地、水、火、風のどれかの属性に特化していて、特化属性以外の魔力は少量しか持っていない。例えば、地7:水1:火1:風1の割合で魔力を持っているなら、その魔術師は地属性に適性がある。
勇者ナインは地、水、火、風に加え、第五元素であるエーテルをその身に内包する全属性の魔術師だ。
そしてレイチェはというと。
「エーテル10で残りが0って感じだな。ミサキ以外ではこんな配分見たことねえ」
「ええ。レイチェは
「第二次魔術革命か。そしてエーテルの魔術だけは研究が進んでいない、と」
エーテルの専門家だったミサキは、俺の封印直後に異世界に帰還したと聞いている。
「エーテルの使い手は数少ない。召喚術の中でも全属性で扱えるものはレイチェに教えることが出来ましたが、私ではこれが精一杯なのです。レイチェにエーテル魔術を教えていただけませんか?」
「お願いします!」
「……お前ら、俺が学園に通う気になるのを待ってから、この話を出したな?」
ミズエルとレイチェが同時に気まずそうに目を逸らす。
俺は面倒見の良いほうではない。召喚直後にこの話を出されたら断った可能性がある。
しかし、今後はレイチェの使い魔として学園に通う以上、主人の格が下がるようなことは避けたい。
なかなかに計算高い師弟だった。
「ま、いいさ。ここにセドリックがいたら”助けてやれよこのヤロー”って言うだろうしな。まずは入学試験までは面倒見てやるよ」
それから毎日レイチェに魔術を指導し、あっという間に入学試験の日は来た。
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