第9話

 昼休みに入り、エリスはベネットとマロンと三人で昼食を摂っていた。


 「午後からグラウンドでなにをするのかしらね?」

 

 「そうだな、初日だし体力作りあたりだと思うが」


 「ん、右に同じ」


 エリカの疑問にベネットが答え、マロンがそれに追従する。

 三人は十歳になる頃には孤児院に住んでいたため気心の知れた関係だ。

 エリスの両親は探索者だったが、母親は迷宮内で亡くなり、父親も母が亡くなったときの迷宮探索で重傷を負い、処置が遅れたことで感染病に罹患し亡くなってしまった。

 そのことからエリスは手遅れになる前に傷を癒す存在になることを目指し、ヒーラーの修行を始めた。

 ヨシュアでは、迷宮探索で都市が成り立っていることから、探索者の遺族への支援も手厚い。

 子供が一人で暮らすことも可能ではあるが、都市で運営する孤児院で保護する場合がほとんどで、遺産は都市で預かり孤児院を出る際に全額を返還されるので路頭に迷う心配もない。

 そういった事情からエリス達も孤児院で暮らしている。

 孤児院では、生活も何不自由なく過ごすことができる上、子供たちの希望する職業への斡旋や、訓練の場を設けることも可能だ。

 そこでエリスは、ヨシュアで信仰されている戦いの神アーレスに帰依し、治療院で見習いとして働きながら腕を磨いてきた。

 ベネットやマロンも同様にそれぞれが希望する職の訓練を積み、三人共通の夢であった探索者となるべくこの探索者養成学校に入学してきた。


 「えー、やっぱりいっぱい走ったりするのかなあ。あたし走るの苦手なんだよねー」


 「ふふっ、まあそう言うな。探索者にとって体力は大事だぞ」


 「体力はつけるべき」


 二人に窘められ、しょうがないかとエリスは溜息をついた。

 とはいえ、訓練の一環として毎朝三人でランニングをしているのでエリスにまったく体力がないわけではない。


 「はいはい。あ、そういえば誰かうちに入れたいって思うような人いた? やっぱりアタッカーは欲しいよね」


 やはり、初日の話題はパーティーメンバーの話になるだろう。

 ここだけではなく、至る所でこの話題が上る。


 「そうだな、エルフの四人組とか妖狐の娘とかがいいんじゃないか?」


 「ほんとベネットは男嫌いね。英雄の子孫とか白獅子の人とかいたでしょう?」


 「悔しいけどあの白ネコは強い」


 マロンが白ネコと呼んだのはレオのことだ。

 黒狼族と白獅子族は、色合いが対照的なことが関係するのか非常に仲が悪い。

 また、速さの黒狼、力の白獅子と特徴も異なっている。


 「男が嫌いなわけではない。自分よりも軟弱な男が嫌いなだけだ」


 かつて禁断の地と呼ばれていた頃、迷宮自治都市ヨシュアに派遣された王国調査団に所属していた元王国騎士団副団長を祖に持つベネットは、探索者に転身した後も子供たちに騎士としての振舞いを躾けていた祖先と同じように父親から騎士たれと育てられていた。

 騎士とは守る者だ。

 防御に定評のある王国騎士団では、剣術と共に盾術も重点的に訓練していた。

 その技術を継承しているベネットの一族は、タンク職をずっとやってきた。

 性別差でどうしても男性には力が劣るベネットは、そのことにコンプレックスを抱いている。

 女性としては体格的に恵まれている方であるベネットだが、やはり性別差というのは大きい。

 とりわけタンク職というのは頑丈さが求められるので、その点では生まれた時点で差がついていることはどうしても我慢ならないことであり、男嫌いとなった走りともいえる。

 そんな環境や教育もあってかベネットは、いじめられている孤児の子たちを助けることが多く、自分よりも弱い者しか標的にしないような男子を嫌悪していた。

 また、ベネットはその性格から女性というだけで下に見てくる男性と度々衝突しており、その尽くを退けてきた。

 その度に女のくせにとか女オーガなどと言われ続ければ嫌にもなる。

 それと同時に弱い男も好みではない。

 幼い頃から鍛錬に励んでいたベネットにとって強さは大きな価値があり、自分よりも弱い男性に魅力を感じなかった。

 そんな色々な要素が加わり、ベネットは着々と男嫌いをこじらせ続けてきたのである。


 「もし」


 ベネットが嫌そうな顔をしていると、背後から声をかけられた。

 ベネットが振り返ると、長いストレートの金髪に狐耳を生やした美女がそこに立っていた。


 「私たちになにか用か?」


 なにか気に障るようなことでもしたのだろうかと一瞬ベネットは考えたが、何も心当たりがないことから用事でもあるのだろうと聞く態勢に入る。


 「なに、主らの中に妾も混ぜてもらえんかと思っての」


 こちらから勧誘しようと思っていた最有力候補の一人だった相手からのまさかの申し出にベネットは固まってしまった。

 しかし、すぐに気を取り直し笑顔で告げる。


 「ああ、もちろんだ。こちらこそよろしく頼む。いいよな、二人とも」


 「ええ、もちろんよ」


 「問題ない」


 エリスとマロンも承諾し、四人は改めて自己紹介をし、パーティーを組むことになった。

 

 

 

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