第7話

 レオが居眠りから目覚めないまま授業は続いていた。


 「今日はここまでにするかの。昼休みの後はグラウンドに集合じゃ」


 ハンスが教室を出ると、フィル達は席を立つ。

 フィルは、座学が始まってすぐに寝てしまったレオを起こしてから昼食を摂る。


 「午後はグラウンドに集合だってさ」


 「おっ、そうか」


 寝てたことを悪びれもせずレオは昼食を食べている。


 「ちゃんと座学も聞いてないと駄目だよ」


 「なあに、頭を使うことはフィルに任せてるからな」


 お小言もなんのそのな態度にフィルは呆れる。

 簡単なものとはいえ、卒業時には座学の試験も行われるのだ。

 これに通らないと探索者になることはできない。


 「試験に不合格になってもしらないよ?」


 「その時はその時で何とかなるだろ」


 ばつが悪そうに眼を逸らすレオ。

 そんな二人を尻目に教室内では大半の学生が品定めするかのように周りを窺っていた。

 この場は探索者になるための訓練をするところではあるが、同時に共に迷宮を探索する仲間を探す場でもあるのだ。

 通常、探索者のパーティーは六人前後で構成される。

 あまり多すぎても狭い洞窟型の迷宮では邪魔になるためだ。

 もちろん、ソロで迷宮に潜る酔狂な探索者もいる。

 しかし、それらの者は中級以上の探索者にはなれなかった。

 いかに強力な個の力を持っていようとも個人でできることには限界がある。

 魔物の力も強くなり、ときに連携までしてくる上級以上の迷宮で、ソロの探索者が生き残った例はあまりに少ない。

 だから彼らは仲間を求める。

 まだ自己紹介と座学が終わっただけのため、実力のほどは分からない。

 しかし、自分達が求める能力を持っていそうな者に目星をつけ、様子を伺っていた。


 「そういやよさそうな奴はいたか?」


 「えっ、よさそうなって言われても…」


 レオの唐突な質問に焦ったフィルはベネットの方をチラチラと見ながら頬を赤く染めた。

 最初は怪訝な目でフィルを見ていたレオだが、フィルの視線を追って得心したのかニヤリと笑う。


 「ばーか、メスの話じゃねーよ」


 レオはパーティーを組むのによさそうな奴はいたかと聞いたつもりだったのである。

 レオ自身は、支援魔法をかけてくれるフィルさえいれば他の面子については頓着していない。

 なので、他のメンバーについてはフィルに任せるつもりだった。

 自己紹介の感じからしてやはり人族は誘えそうになかったのだが。

 勘違いに気付いたフィルは更に顔を真っ赤にして俯くのだった。


 「でも悪くねーかもしれねーな」


 レオの言葉にフィルも考える。

 確かに悪くない、いや、バランスを考えれば最適に近い構成だろう。

 昼休みの今、件のベネットは同じ孤児院出身の二人と仲良く食事をとっている。

 彼女らの構成は、タンク、斥候、ヒーラーだ。

 いずれもフィル達には欠けている役割である。

 こちらは近接のアタッカーと支援職で、あちらにもない役割だ。

 互いに欠けているものを補い合える組み合わせは悪くないと言える。


 「まあ人族がオレらと組んでくれるかはわからねーがな」


 レオは自分に気を使ってか曖昧な表現でぼかしてはいるが、その意味を理解しているフィルの表情は暗くなる。

 支援職と言えば聞こえはいいが実際はなんの強みも持っていないただの少年である。

 パーティーメンバーとは自分の命を預ける仲間だ、無能と呼ばれている自分と組んでくれる人族などいない。

 むしろ、レオが自分と組んでくれているだけ恵まれている。

 それでも、とフィルは思う。

 鍛冶職人として生きていくのが正しいとわかっていても自分は立派な探索者になると、なりたいと思ったのだ。

 立派な探索者になって、それでいて鍛冶職人としても錬金術師としても大成する。

 そのために頑張り続けると決めたのだ。


 「まだ様子見だね。慌てるような時期じゃないし」


 顔を上げたフィルにさっきまでの陰りは消えていた。

 それを見たレオはにやりと笑みを浮かべて言う。


 「そうだな」


 まだ学校に入った初日だ。

 仲間を集めるにも猶予はある。

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