第6話

 全員の自己紹介が終わったことを確認するとハンスは全員をぐるりに見回すと一つ頷く。


 「うむ、全員自己紹介は済んだようじゃな。それでは初日ということでこの都市の歴史から話していくことにしようかの。知っておることも多かろうが探索者という職業ができた経緯などを知ることも大切なことじゃからな」


 全員が頷いたことを確認し、ハンスは話を続けた。


 「まずは百年前、この地に住んでいた亜人たちとアレシア王国の調査団が出会った時の話じゃ」


 当時、人口三万人ほどの亜人の街を発見した王国調査団が選択したのは征服ではなく同化であった。

 王国調査団は二千人ほどであったので勝てないと判断するのは当然のことではあった。

 一部の例外を除いて魔法は使えないけれど、十人が束になってかかってきても蹴散らすほどの戦闘能力を持つ白獅子族を筆頭に獣人達の恐ろしさは伝えられている。

 また、例外である"九尾"とも呼ばれる妖狐族は強大な魔法を使うとされているし、エルフも精霊魔法と呼ばれる特別な魔法を使いこなし、弓の腕も超一流という。

 つまりはそれまで伝説上の存在としか認識していなかった亜人に王国調査団は恐怖していたのである。

 交易を行いたいという建前の元、亜人の街の隣に開拓村の建設を開始した王国調査団は、亜人との友好関係を築きつつ、一部を王国に報告へと帰した。

 亜人達は基本的に狩猟と採集で生活しており、農業を行っていなかったことに目を付け、農民を移住させ王国民の数的有利を狙う試みだった。

 それと並行して周辺の調査も継続されていた。

 そして、迷宮を発見するに至る。

 迷宮は禁断の地の至る所に存在し、現在ではその数は五十を超える。

 自然の恵み、迷宮の恵み、そして"レシピ"によって齎される新技術。

 瞬く間に開拓村であった場所は発展し、一獲千金を求めて噂を聞きつけた腕に自信がある者は迷宮を目指し、それを相手取る商人や新技術を求める職人が移住してくる。

 この頃には戦闘を好む亜人達も共に探索者として活動しており同化政策は一応の成功を収めていた。

 大陸中の超一流の冒険者や武芸者に加え、新技術を求める超一流の職人達が集い、史上空前の好景気に沸く禁断の地は、瞬く間に大きな財を産み出し、風前の灯火であった王国を大いに潤した。

 しかし、この状況も長くは続かなかった。

 他国にはない技術、資源を有することになった王国は、欲にまみれた王侯貴族が増長し、禁断の地に対して重税を課すこととなる。

 そもそも、王国の支配下にあると認識していない亜人達はもちろん、もともと血の気が多い集団である迷宮探索者達は暴利だけを貪ろうとする王国に対し、技術・資源の漏洩を防いだうえで独立を宣言。

 これに対抗した王国軍はすぐさま鎮圧に向かう。

 その数、二十万ともいわれている王国軍であったが相手が悪すぎた。

 英雄ヨシュア、当時は迷宮探索の第一人者である迷宮探索者パーティーのリーダーは迷宮都市内を上手くまとめ上げ、その強大な個の力を集団として統率し、王国軍を一蹴する。

 そう、この頃には既に禁断の地に集う戦力は、大陸最強にまで成長していたのだ。

 こうして独立を成し遂げた禁断の地は、独立戦争の英雄ヨシュアの名をとって迷宮自治都市ヨシュアと命名した。

 これが六十年前の出来事だ。

 そして現在、度々王国が侵攻してくるも退け続けている。


 「探索者は迷宮を探索し、富と名声を得るのと同時に有事の際には都市防衛の戦力を務める役割もあるということじゃ」


 フィルを含めた何人かの学生は、そんな話は知らなかったのか驚きの表情を浮かべる。

 知らないのは無理もない話かもしれない。

 直近の都市防衛戦は十七年も前のことであり、彼らの生まれる前の出来事だ。

 職人の息子であるフィルは、都市防衛戦の話など親に聞くこともなかったからだ。


 「そう心配せんでもよいぞ。前の防衛線から十七年も経っておるしもう王国が攻めてくることもないやもしれんしの。そもそも、前線に出るのは中級探索者からじゃ」


 その言葉にほっとしたものの、いずれ人と戦う覚悟も必要なのかと憂鬱になるフィル。

 レオならば平気なのだろうなと思いつつみやればレオは居眠りをしていて、軽くいびきを掻いている始末だった。

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