探索者養成学校編
第1話
迷宮自治都市ヨシュアは、大陸中のどの国よりも文明レベルが1つ2つ高い街だ。
都市をぐるりと囲う城壁は鉄筋を土台とした堅牢なもの。
正確な方位計算の元に作られた、東西南北の4つの門は総鉄製でありながらも武骨な感じではなく、細かな装飾もされていて美しい。
また、それらの門はそれぞれに明確な役割があり、北は樹海へ、東は唯一の外と繋がる王国方面へ、南は海へ、西は農耕地へと繋がっている。
門へ繋がる東西と南北に走る二本の大通りは石畳で綺麗に舗装されており、世界初の馬車鉄道と通常の馬車通りに歩道も完備された片側二車線の四車線の巨大な通りとなっている。
中央交差点も画期的なラウンドアバウト構造を採用しており、その機能美は街の名物ともなっていた。
都市を四分割する大通り沿いは様々な商店が立ち並び、多くの者が買い物に訪れ、職人街は今日も元気な音を響かせ、夜には歓楽街に人が行き交う世界で最も活気のある街、それがヨシュアだ。
このような高度な技術は、ヨシュアに多数存在する探索者達によって齎されている。
探索者とは、正確には迷宮探索者と呼ばれるヨシュア周辺に存在する迷宮を探索する者たちのことである。
迷宮では魔物が出現し、それを倒すことで得られる素材、野菜や果物に薬草といった植物や鉱物などの採集物が豊富にある資源の宝庫である。
また、稀に発見される"レシピ"と呼ばれるなんらかの製法が記載されている古文書が手に入る特別な場所でもある。
"レシピ"にはポーションの製法などから都市開発に至るまで様々なものがあり、迷宮自治都市の文明レベルを上げる原因となっている。
その画期的な技術により、どの分野においてもヨシュア内では見習い程度の腕前であっても他国に行けば一人前といった現象が発生する。
そのような"レシピ"の発見者は、巨大な富を得ることができるため、探索者の最たる目的となっている。
そんなヨシュアでは今、二人の少年が探索者の道を歩もうとしていた。
夏が過ぎようとしているヨシュアのメインストリートは今日も人で賑わい、様々な人種の人々が買い物を楽しんでいる。
二人は明日に迫った探索者養成学校の入学への準備を整えに買い物にやってきていた。
同年代の少年少女の姿もちらほらと見えることから同じような目的で買い物に来ているのだろう。
迷宮自治都市では、十五歳から探索者養成学校へ通える資格を与えられる。
つまり彼らがもうじき十五歳になるということを意味していた。
そんな彼らのうちの一人は、中肉中背だが上半身だけ筋肉質のややアンバランスな体型をした人族の少年フィル。
短めに揃えた髪の色は灰色で、同色の瞳は穏やかそうな印象を与える少年だ。
もう一方の少年は、十五歳になる少年とは思えないほど大柄で鍛え抜かれた肉体を持つ。
その鋭い眼は金色に輝き、獰猛さを感じさせる風貌をしている彼は、白獅子族のレオという。
白い頭髪をワイルドに刈り上げているのが良く似合う。
「へへっ。遂に明日だな、フィル」
レオは、その嬉しさを表現するように獣耳と尻尾と忙しなく動かしながらフィルに語り掛ける。
「うん、これから始まるんだなあって感じだよね」
仲良く談笑しながら二人は買い物を済ませていく。
あらかた買い物を済ませた二人が最後に向かったのは鉱物店だった。
主に鍛冶師や細工師が立ち寄る場所だ。
「これ、渡しておくぜ」
レオは懐から出した硬貨袋をフィルに手渡す。
ヨシュア内において特級探索者として活躍するレオの両親から、門出にと渡された装備の購入費だ。
自分で考えて装備を揃えろということなのだろう。
自分の命を預ける装備だ、そういった物を見る目や自分に合った装備を選択できる判断力も探索者に求められるということだろう。
ずっしりとした重さを感じながらフィルは渡された硬貨を眺める。
「レオ、本当にいいの?」
フィルは躊躇いがちに問いかける。
「ああ、全部お前に任せる。腕も心配しちゃいないしなにより安上がりだしな」
レオは自分の装備を作るための鉱物を買いに来ていた。
通常、鍛冶屋に素材を持ち込んでも技術代やもろもろがかかるので既製品を買うのと費用はほとんど変わらない。
しかし、フィルは鍛冶師であった。
代々鍛冶師の家系であるフィルは、幼少期から鍛冶の手伝いをしており、一年前に父親を亡くすまで鍛えられていたため、ヨシュア内では一人前とはいえないまでも他国であれば一流の部類に入る腕を持っていた。
「そういってもらえると助かるよ」
フィルははにかむ。
「親父からもらった金じゃ紅鋼産の装備一式買ったら無くなっちまうけど、フィルに任せりゃワンランク上の青鋼製で揃えられる。フィルの分を作っても足りるぐらい買えるんだろ?」
この世界で武具の素材となる鉱物の質は下から鉄、紅鋼、青鋼、黒鋼、ミスリル、アダマンタイト、オリハルコン、神鋼となる。
青鋼といえば中級探索者が身につけるような装備素材で、駆け出しの二人にとっては破格の性能を持つものといえた。
「うん、鎧の部分をチェインメイルにすれば重量も素材の量も少なくすることができるから足りると思うよ。あとはレオの剣と僕のショートソードを作って…」
ブツブツとつぶやきながら構想を練るのに没頭していくフィル。フィルにはもの作りのことを考え始めると周りが見えなくなってしまう悪癖があった。
「おい、フィル。そこまでにしろ。着いたぞ」
レオはフィルの肩を小突いて現実に引き戻す。
二人は鉱物屋にたどり着いていた。
「あっ、ごめん。入ろうか」
正気に戻ったフィルは、レオを謝りながら鉱物屋へと入っていった。
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