第11話 大臣杯に揉める櫻女

「美味しい……。ふう、堪能……」

「よかった! 紫陽花さん。さっきも大丈夫だったしな。さあ、皆楽しく食べるべし。いやっほー!」


 毒見か味見かJK女神にさせてよかったのか。ともかく、大丈夫らしい。楽しく食べ合うこともいいと思う。


「んん、美味しいです。大神くん」

「大神さんのお陰だと思うの」

「大神様、とても……。楽しい、ふう……」

「きゃーん! 直きゅん! 見た目よりも、リンリンしているんじゃーん」


 ほぼほぼ、皆さん、意味不明な言葉を吐いていましたが、美味しかったらしく、俺も満足した。こういう収穫といただきますの時間って、いいよな。


「はい、茸焼き大会は、無事終了! 皆で、ごちそうさまにしよう」


 四人も寄れば、かしましいを越えていて、やかましいが、各々、片付けもきちんとして、目を見張る所がある。このJK女神達に四種の蔬菜とうっぷん茸だけでなく、美味しいものを食べさせたい。しかし、花をいただいても、共食いになってしまうし、美味しいと思って貰えるか分からないからな。いいアイデアはないものか。


「そうか、皆で農場をがんばればいいんだね」

「ニャートリー先生も交えて、ボクから皆に提案があるんだが。先程のように再び集合してくれないか」


 端から、春の女神、夏の女神と集まってくれて、俺の隣には、猫鶏がいる。


「さて、集まっていることだし、おおがみファームでの役割分担として、大臣を決めたいと思うが、いいかな」

「大神直人さん、一歩前進したニャン。蔬菜と女神の卵は産んだニャリヨ。その先を考えているニャリ?」

「ニャートリー先生も未知の自身の力があるようだ。JK女神と蔬菜を間違える位お茶目だからな」


 俺は、高らかに笑った。


「よし、櫻女さんには、『蔬菜大臣』と『米大臣』をして貰おうか」

「いつ決まったのですか? 多数決がいいと思います」


 やはり櫻女さんは、クラス委員タイプだな。多数決を持ち出した。


「大神くん、今から『お米』を作る理由を教えてください」

「お! JK女神でも『米』は無理か?」


 胸元できゅっと手を結ぶの、癖なのね。可愛いけれどもさ。恥ずかしいよ。


「いえ。でも、稲作は初めてです」


 櫻女さん、逡巡しているな。自分だけが困っていると考えているんだろうよ。よく泣けばいいと思っているヤツいるだろう。あれでは、解決にならないんだよ。


「代替案があるニャー。『お米』の代わりに『パン』はどうニャンテ。だから、『小麦』を育てるニャリヨ」


 顎を暫くさすって考えていたが、『小麦』の方が楽だろうとの大神直人の一人多数決で決定した。右手と左手の挙手があれば、二票ある。


「よし、『パン』の『小麦』にしよう」

「いいニャン」

「大神くん。ありがとうございます。でも、『蔬菜』は、別の方にしてください」


 ちらっと見ると、菜七さんは微笑んでいた。


「菜七さん、引き受けてくれるかい?」

「任せて欲しいと思うよ」


 ナイスだ、菜七さん。だが、俺と櫻女さん、ぎくしゃくしてしまう。自己紹介でもしようか。そればっかりだがな。


「ボクは、大神直人。ファンタジーゲームの最中に、この世界に飛ばされたんだ。簡単にでも櫻女さんの自己紹介してくれるかい?」


 珍しく俯き加減だな。まずかったか。


「えっと、櫻女さんは、ここへ召喚された女神の第一号だろう? 若くて制服を着ているし、女子高生女神と呼んでもいいのかな」

「そうなのでしょうか。では、細かく話します」


 皆、口を閉ざしていた櫻女さんの隠された姿に興味があるのかないのか、分からない顔をしているな。だが、俺は、気になって来た。


「私は、リーダー格があると思っていますし、性格は、生真面目ですね。成績だって、学年二位をキープですね」

「二位なんだ」


 ちょっと、俺、食わず嫌いのアジフライを口へ運ぶ顔になっちゃった。不味いな。他の話題にしないと、なかよしコースさえ行けない感じだ。


「学校は?」


 しまった。学校の話をすると、元の世界が恋しくなって泣かれるかな。危険な話題を突っついたかも知れない。いや、確実にそうだろうな。


神奈川県かながわけん川崎市かわさきしにある櫻川さくらかわ高等学校こうとうがっこう三年A組で、所属は生徒会せいとかいですね」


 漢文かと思ったよ。櫻女さん。


「普通の質問だけど、好きな物って何かな?」

「とても、とても、とても美味しいパフェですね」


 リピートアフターミー。


「おじさんもパフェは嫌いじゃないけれども、混むのが苦手でね」

「それって、原宿はらじゅくのクレープとかですね」

「んが。まあ、それも『小麦粉』で、作れなくもない」


 失敗したかな。話題が作れなくてしーんとしてしまうのは、ほぼ、壊滅的だよ。いいのがないかな。


「嫌いな物は?」

「G……」


 これは、人前で言えないGだな。この世界にもブリキゴはいるのだろうか。俺も苦手なものだから、察するよ。


「分かった、分かった。もう、嫌な説明はよそうな」


 俺が嫌いなのは、家族とそれ程お付き合いが上手ではないことだ。大学で暇ができた頃、男子高校生の家庭教師をしたな。父さんの伝手が恥ずかしかったが、小遣い位は欲しかった。用途は、最初のアルバイト代で、家族に恩返しだ。それで気持ちを伝えたかった。父さんには、国産の時計、母さんにはフラワーの淡いスカーフ、優花には、好きな映画のDVDを贈った。


「そこまでは、がんばったんだよね……」


 父さんは、一瞥して、「どうせ安物だろう」と、言ったね。忘れられないよ。母さんは、「勿体なくて使えない」と、タンスの引き出しに入れたままだから、樟脳に育てられている。優花は、「兄さんなのに、どうして」と、そればっかりだから、兄は疲れたよ。でも、優花が一番最初に礼を言ってくれたな。


「ははー。初のアルバイト代で、ありがとうございます。勿体なくて、ビニールを開けにくいかも」


 高々と掲げて、一緒に見ようと誘ってくれたっけな。その後、笑い合った。暫くして、お線香の香りがすると思ったら、優花が贈り物を祖母の仏壇に上げていた。俺は見ていたよ。


「いけない。トリップしていた」


 今は、ゲームの中だ。櫻女さんと揉めていたのだったな。 


「大神くん、自己紹介は、こんな感じでいいですか」

「そうだな」


 俺は、人とは慣れていないのだった。


「ニャートリー先生に、『小麦』と『蔬菜』の卵を頼もう。紫陽花さんと百合愛さんは、どんな大臣にしようかな」

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