第27話
爽快な晴れ間が、昼下がりの壁際の通路の脇から一組の怪しげな一団が、何処からか出てきていた。何も無い空間に変な入り口が突如として出現していたが、それに気が付く者は近くには居なかった。
気が付いたとすれば、近くで餌を漁っていた動物くらいだったのだ。
六人の男女は、空間から現れたドアを消すと、昨夜の野営していた場所の片付けを始め、残されていたテント一組を手早く撤去し終え、焚き火の始末も台をそのまま何も無い空間に出現した場所に入れてしまった。
よし、これで昨夜の野営地の撤収は完了したな。
「「うん、オジサマ終わったよ」」
リーゼとミミは、ワシに作業が終わった事を告げると、ヴィヴィアン・ジョセフィーヌ・マリーアンヌが居るかを見回して確認していた。
「全員居るよオジサマ、では出発しましょう」
「行こう、行こうオジサマ」
ワシは全員を見渡してから頷くと、表通りである大通りに裏路地を通って出た。昼も回っていたので、大通りには人が多くて皆が逸れない様に、リーゼとミミを先頭に行かせてワシは後方から付いて行く形を取っていた。
雑貨屋には直ぐにでも付くのだが、大通りを歩いていると目に付いた店に立ち寄ってしまい、リーゼとミミの足を止めさせてしまう。
「どうしたのオジサマ」
「此処のお店って調味料を売っているんだね」
そう、ミミが言った通りワシが足を止めて眺めていたのは、調味料を置いていた店だったのだ。此方の世界の調味料も少しでいいので購入をしたかったが、まずは軍資金を確保する方法を考えていたからだ。ワシは店に入ると店主に声を掛け、此処の店は何処から調味料を仕入れているのかを聞いた。
そうすると、商業ギルドを通して購入していると告げられる。店主にワシが商業ギルドで調味料を売るには、どうしたら良いのかを聞くと「ギルドに登録するしかギルドでの売り買いは出来ないよ」と言われてしまった。
リーゼやヴィヴィアンに商業ギルドに登録してるか聞くが、誰も登録はしてないと言われてしまったので、ワシはギルドに登録する事に決めた。
調味料屋では、岩塩と一味みたいな物を購入してから店を出たので、店主も不機嫌にならずに済んで一安心っと言った感じだった。情報を聞くだけ聞いて何も買わずに出ていたら、文句も言われてしまっただろう。銀貨一枚の出費ではあるが、この情報で銀貨一枚以上の利益を上げれると見込んでいるので、たいした出費でもなかった。
ワシ達は雑貨屋で必要な物を購入すると、中古の服やに行き娘達の着替えを購入すると、商業ギルドがある場所まで来ていた。
ギルドに入ると受付で、ギルドに登録したいと告げてから、登録用紙に書き込みをリーゼとヴィヴィアンがしていた。ワシは此方の文字は書けないから仕方が無い。
用紙に書き終わると控えの椅子に座ってから、登録が済むのを待っていた。待っている間にワシは厠に行くと告げてから席を立ち、人気の居ない場所でガレージの人用の出入り口を開くと中に入る。
ガレージから持ち出した物は、調味料の胡椒の実・砂糖であった。異世界での金策として定番である調味料に手をだそうとしているのだ。胡椒はプラスチックの容器に入っていた物を小さな壷に詰め替え、砂糖も同じ壷に移し変える。そうして皆の元に戻ると、登録は済んだかを聞くが、まだと言われたので席に座りなおして待つ事にする。
それから十分後。
(お待たせしましたアベ様、此方までお越しください)
受付で登録書と商売手形を渡され、少しだけ注意事項の説明もされてから、登録は終了した。そして、受付の人に売りたい物があるのだがと告げると、買取場所に案内されてから待たされていると、買取の担当者が現れ、商売の話が始まった。
「これは見事な胡椒の実ですな、それが三つと砂糖が二つと、秤で計らせて貰いますよ。――――胡椒の壷が三つ、全部で金貨一枚と大銀貨一枚になります。砂糖は銀貨三枚で如何でしょうか?」
金貨一枚と大銀貨一枚に銀貨三枚か、安くないか?
「そう言われましても、此方は何時もの値段での提示額ですので……」
「それは平時での値段ですよね?今は戦時ですよ。南方の出入り口のケベスは塞がれている状況で、どうして平時の値段のままなんでしょう?流通も減っているのに、おかしいですよね……チラッ」
ヴィヴィアンに横目で見られた事で、ワシもウンウンと頷いておく。
「あっ、私とした事が、とんだミスをしてしまいました。胡椒は金貨三枚で砂糖は大銀貨一枚でした。大変申し訳ありませんでした」
ワシは三万五千円相当の硬貨を貰うと、商業ギルドを後にし、ゆっくり出来る雰囲気の飲み屋に入った。
ヴィヴィアン、よくやったぞ。
ワシはお店に入るやヴィヴィアンの腰を掴み引き寄せて、ヴィヴィアンの頭をワシワシと撫でてやる。ヴィヴィアンは急に腰を掴まれて引き寄せた事で驚いた顔をしていたが、自分が褒められた事が恥ずかしいのか顔を紅潮させたまま俯いていた。
「オジサマ、私も頑張ったよ。褒めて褒めて」
「オジサマ私も褒めていいよ」
リーゼは褒めてやるがミミって何かしたか?
「酷いよオジサマ、私はオジサマが荒ぶった時に鎮める要員として、傍で待機していたのに……」
ワシの引きつり笑いだけが、飲み屋で浮いていた。
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