深い畏怖の念

 三人の視線を受けながら、

今度はユウキが説明を始める。


「結論から言いますと、

この旅は、ブライトヒル王国の

国家計画ではないのです」


「……?」


王は、どういう事だと眉間にシワを寄せ、

理解が追いついていないようである。


──まあ、そうだよね


「ブライトヒル王国ではなく、

僕個人が言い出し、僕個人が実行

しているに過ぎないんです。

アインズさんはそんな僕に同行

してくれているだけで、

先程言った通り、国家計画ではありません」


「なるほど……?」


納得はしたが、まだ疑問が残っていた王は、

話の根幹について質問を投げる。


「貴国の計画ではなく、

貴方個人での行動とのことですが、

何を目的に?」


「目的は先述の通り、鎖の──」


「そうではなく」


鎖の破壊と答えようとしたユウキ。


しかし、その言葉は途中で遮られてしまった。


「貴方は何故、何の目的で、

鎖を破壊しようと考えたのですか?」


「それは……」


表面的な目的ではなく、

旅に出ようと決心したその由縁は何なのか。


深く掘り下げた質問を受け、

とうとう彼自身の身分を明かす時が来た。


やはり、少し竦んでしまう。

ふと、アインズの左手が

ユウキの右膝に置かれた。


──大丈夫、私がついてるわ


そう、励ましの意味を込めた

アインズなりの優しさであった。


意図を悟ったユウキは、

腹を括って、ゆっくりと口を開いた。


──そうだ


──黙ってても、どうにもならない


「クライヤマの……巫女の無実を、

世界に証明するためです」


「巫女の……? 

なぜ、貴方がそれを?」


「僕が、クライヤマの人間だからです」


「なにっ⁈」


ユウキの告白を聞いた王の顔は、

驚くようで、怯えるようでもあった。


近衛兵も、それを聞いて身構えていた。


──やっぱり、そうだよね


二人が思った通り、この国では、

クライヤマや巫女に対する不信感、

恐怖心が抱かれていた。


名乗った以上、ユウキも

その対象となる事は間違いない。


「あ、貴方が、クライヤマの、

人間だと……?」


「はい」


王の手が小刻みに震えている。

それほどまでに、ニューラグーンに

染み付いた畏怖は大きいのだ。


「ア、アインズさん……? 

これは、どういうことですか? 

この機に乗じてニューラグーンを──」


「どうか落ち着いてください。

ブライトヒルにも、この少年にも、

そのような気は一切ございません!」


「で、では、何をしにここへ⁈」


今にも逃げ出しそうな国王。


槍を構えそうな近衛兵。


「私たちは、鎖を破壊

する為に来ております」


「なぜ、なぜクライヤマの者が、

鎖を──」


「無実だからです。クライヤマも、

巫女も、世界に対して悪意など無いと。

クライヤマの人間である僕自身が示すために、

貴国のお力を貸していただけないかと、

そう言う想いです」


「我が国の、力……?」


「私から補足致します。

鎖を破壊する旅に出た私共ですが、

二名ではどう考えても戦力不足なのです」


「し、しかし言葉だけなら──」


何とでも言える。それは、その通りである。


言葉巧みに言いくるめ、

被害を与えることも不可能ではない。


しかし、やはり

ユウキにそんなつもりは無い。


──信じてもらえないなら!



「……なに?」


「もしも僕が、ニューラグーン国を

裏切ったのなら、殺していただいて構いません。

首を落とすなり、引きずるなり、

お好きになさって下さい」


王の眼を真っ直ぐ見つめる少年。

彼の言葉に嘘偽りは無かった。


本気で、心からそう言い放ったのである。


「な、なぜそこまで──」


「僕にしか出来ないからです。

クライヤマ唯一の生存者である、

僕にしか」


「クライヤマの生存者は、

確かに彼だけです。

これは私個人としてではなく、

ブライトヒル王国騎士団第一部隊長の

アインズとして、

その誇りをもって保証致します」


「ううむ……」




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