裏切者の邪神
それから二年ほど経過した年の事。
平穏だったクライヤマは、
一転して、危機に瀕していた。
天候に恵まれず、
作物が育たないといった問題が起きたのだ。
困り果てた人々は、
こぞって日の巫女に救済を乞うた。
彼女の言葉と力を信じる
クライヤマの文化からすれば、当然のことだ。
「巫女様! どうか、どうか太陽のお恵みを!」
「今日は晴れますか? 明日は? 明後日は?」
「どうして救ってくださらないのですか? 巫女様!」
「我々はこんなにも、困っているのですよ⁈」
神聖な雰囲気の社に、
まるで似つかわしくない喧騒が響く。
不満の風下に立たされた
十八歳の少女は、困惑した。
どうしたら良いのか、
まったく考えられなかった。
「巫女様! どうか、どうか救済を!」
「いつになれば、太陽は顔を出すのですか、巫女様!」
「えっと……えっと……」
慌てふためきながらも、
巫女は必死に明日の天気を占う。
が、導かれる回答は曇天か降雨のみ。
直近で晴れる日は一向に見られなかった。
「し、しばらくは……悪天候が、続きます」
心を痛めながらも、事実を発表した。
「どうしてですか⁈」
「うう……」
「どうして日は出ないのです⁈」
「……ら、ないよ」
なぜだ。
どうしてだ。
そんな問いの荒波に揉まれた巫女は、
涙を流しながら叫んだ。
「分からないよ!
そんな事を訊かれても、
私にだって分かんないよ!」
そこには、信仰の対象である
日の巫女の姿は無かった。
ただ、リオという少女が
立っているのみであった。
彼女の叫びを聞き、
天から滴る水の音を除いて静まり返った。
どれくらい黙り込んでいたのかは分からない。
やがて一人の住民が、呟いた。
「俺たちを……だましていたのか?」
「……え?」
突然の言葉に、
巫女は疑問符を返す事しか出来ずにいた。
巫女衣装が濡れようが、
髪が崩れて顔に水が垂れようが。
「だまして……いたのか?」
住民は繰り返した。
それを皮切りに、
次々と詐称の有無を問う声が発せられた。
「巫女様、我々に嘘をついていたのですか?」
「本当は、太陽の加護など無い、という事なのですか?」
「答えてください、巫女様!」
「巫女様!」
「う、嘘じゃないよ! 太陽の加護は、本当に——」
弁明を試みる巫女だが、
上がりきった住民の熱は
冷めることを知らない様子であった。
「ならば何故、晴れないのですか!」
「そ、それは……っ!」
そしてついに、
こう言い出す住民が現れた。
「う、裏切者!」
「……っ⁈」
「裏切者!」
「こ、これは巫女なんかじゃない!
俺たちを——クライヤマを滅ぼす邪神だ!」
「み、皆、落ちつい——」
「捕らえろ!」
——うおおおおおお‼
「きゃあ‼ や、やめ——うぐっ⁈」
暴徒と化した住民は、
つい先日まで神聖だとしてきた場所に
土足で踏み入り、僅か十八歳の少女を捕縛した。
自制の効かなくなった彼らは、
相手が少女だろうと容赦なく痛めつけた。
巫女衣装はボロボロになったうえ剥がされ、
細身で綺麗な身体が露に。
肌には、痛々しい傷がいくつも付いた。
おおよそ、年端も行かぬ少女に対する
仕打ちとは思えぬ様相であった。
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