怪談潰しの変人

 その後、僕は友達を差し向けた虎白さん、亀美さん、花鳥さんに頭を下げて謝罪した。


「竜生! お前、幽霊と友達なんて卑怯やぞ! んなインチキ出来るんなら最初から言うといてくれや!! 酷い目にあったわ! このアンポンタン!!」

「カメミのお友達のカラスちゃん達も酷い目にあったって泣いてたよっ! なーくんのバカっ!」


 とまぁ、こんな感じで虎白さんと亀美さんには、ネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチ……小言を言われた訳ですが。

 花鳥さんはと言うと。


「皆、何だかんだで、竜生くんが私達を頼ってくれるようになった事が嬉しいんですよ。この一件に関しては、皆それぞれ、思う事がありましたから……」


 という、ありがたい、少し説教じみた事を言ってくれました。

 しかし……しかしですよ? 花鳥さん。

 僕の友達達も、相当な被害を被ってるんです。


 プー吉くんは肋骨と鎖骨の骨が折れてるし。

 猫三郎さんは、鴉に突つかれて流血まみれだし。

 マワルくんはネガティブになって少しウザかったし。

 寅之助さんに至っては、その魂の核と言うやつにヒビが入ってるらしいし……。

 ん? こちらの被害の方が甚大なのでは?


「あの……花鳥さん? どちらかと言うと……」

「それはそうですけど……皆必死だったんですよ。あなたを説得するのに」

「うぅ……そう言われると、返す言葉がありません……」


 結局の所……僕の暴走で振り回していただけだったからなぁ……。この人達も、友達達も……。

 本当に申し訳ない。

 本当に……。


 ……あれ? そういえばあと一人……。


「あの……龍子さんは、どこに? 彼女も入部したんですよね?」

「えーっと……それはね……」


 香取さんが、とてつもない苦笑いを浮かべつつ、とある一点を指さした。

 目を向けるとそこには、一本の木があった。

 その木の枝の一箇所に、一本のロープが括り付けられている。

 そのロープの先は、男性の両足首を巻くように括り付けられていて、要するに男の人が吊り下げられてる形で……その男の人の頭部分は、たんまりと水の入ったバケツの中に……って! おおいっ!!


「な、何してんのさ龍子さん!! り、凛太郎さんの顔が水の中じゃないか! 息出来ないよ!?」

「知ってるわよ」

「知っててやってるの!? 人間って、呼吸出来なきゃ死ぬんだよ!?」

「死ねばいいと思ってやってるから、そうなんだーって感じ」

「怖っ!!」

「言っておくけど、次は竜生の番だから」

「へ!?」

「当たり前でしょ、アレだけ心配かけといて、揚々と残りの人生歩めると思ったの? 片腹痛いわ」

「じ、人生だけは歩ましてよ……」

「無理」


 こ、これはマズイ! 龍子さん激おこだ。

 そして本気で凛太郎さんを殺す気だ! あと僕も。


「ぼ、僕は分かるんだけどさ! 凛太郎さんを何で殺すのさ!」

「こいつ……私に嘘の場所を教えやがった……」

「へ? 嘘の……場所……?」


 ど、どういう事だ? この人は一体、何を言っているんだ?


「実はですね。先刻の、『竜生くんを連れ戻そう作戦』の時、龍子ちゃんも参加していたんですよ」


 花鳥さんが解説を始めてくれた。てゆーか、作戦名がダサ過ぎる……。

 え? でも僕、龍子さんとは会ってないけど……。


「せやろな。だって凛太郎は……んやから」

「虎白さん」

「ぐぅー……すか……ぴぃー……」

「亀美さん……」


 寝てる。


「それにしても……会わさないように仕向けてたって、どういう事なんです?」

「さぁ? よー分からんけど、龍子が? 憶測やけどな……」

「僕に……つく……?」

「凛太郎くん、あなたには話しておきますけど、龍子さん、実はあなたに間違えて情報を伝えてしまった事、私達には黙ってたんです」

「え!? そうなんですか!?」

「はい……」

「せやから、初動が遅れたんや。ホンマやったら電車乗る前にとっちめれたんやけどな」


 そうか……あの、RAINの件、龍子さん……黙ってくれていたんだ……。

 ん?


「じゃあどうやって、僕が学校抜け出した事知ったんですか?」

「昼休み前の授業中に、様子見がてら亀美が鴉とばしたら、あれ? お前おらんやん? って、なってん」

「なるほどぉ……」


 その手があったか。

 花鳥さんが言う。


「そういった経緯があった事から、凛太郎くんは『龍子さんは竜生くんの味方をするかもしれない』として、疑っていたんですよ……もし、龍子さんに背中を押されでもしたら、竜生くんはもう、止まる事はしなかったでしょう?」

「…………」


 確かに、そのケースだと、僕は

 凛太郎さんは間違っていない。


「あの作戦は、ウチから始まって、それぞれが誘導して凛太郎の所まで誘導する作戦やった。そこで凛太郎はあえて、おびき寄せるのとは逆方向に龍子を配置したという訳や」

「上手いこと、言いくるめてました。こうなる事は分かっていましたのにね……」


 間違っていなかった、けれど……。


 なっちゃうのか……。


「龍子さん……もうやめてあげて。今回の件は、全部僕が悪い。謝るから、だから……許してくれないか?」

「…………やだ。許さない」

「龍子さん」

「許さない!! そもそもこの一件に、竜生を巻き込んだのは私なんだよ!? それなのに勝手な行動して! そんなにボロボロになって! 挙句の果てには、兄貴からゴーストドールの呪いを肩代わりしちゃってさぁ!! 誰がそこまでしてって頼んだのよ!!」

「そ、それは……乗りかかった船だし、そもそもそんな事知ったら放っておけないし……」

「何言ってんのよ!! お人好しにも程がある!! 分かってる!? あなた今――――死にかけてるのよ!? 私は、兄貴が死ぬのも嫌だけど! あんたが死ぬのも、同じぐらい嫌なんだから!!」

「……ごめん……」

「だから許さない!!」

「……本当に……ごめんなさい……」

「許さないってば!!」

「…………この通りです。ごめんなさい……」

「土下座したって! 許さないから!!」

「申し訳ありませんでした。この通りです」

「…………バカ……」


 龍子さんが、優しく僕を抱き締めてくれた。

 暖かい……。


「嘘よ……本当に許せないのは、私自身……安易にあなたを巻き込ませてしまった……私が私を一番許せないの……こちらこそ……ごめんなさい……」

「龍子さん……」


 そんな事ないよ……全部、僕が悪いんだ……。


「ごめんなさい……」

「だからぁ、悪いのは全部……私なんだってばぁ……」


 僕はぎゅっと、龍子さんの小さな身体を抱き締め返した。


「あのぉー……二人共?」

「ええ感じなんはええけどやなぁ……」

「凛太郎くん……本当に死んじゃいますよ?」


「がぼっ! ぼふぉ!! ぶへぇっ!! ゴボゴボっ! ごふっ……!! …………こぽっ……」


 あ……。


「あ、兄貴! 死んじゃダメ!! だ、誰がこんな酷い事を!? きっとゴーストドールね!! 許すまじゴーストドール!! さっさと除霊しましょ!! 除霊!! 除霊以外の選択肢はないわ!!」


 僕らは一斉に心の中で呟くようにツッコンだ。


 『いや……犯人はあんただよ……』と。

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