初恋と追憶
おきた狂
1話
夏目が死んだ。
それを知ったのは夏目が死んでから次の日だった。
知らせてくれた子が電話の向こうでしきりに私の名前を呼んでいるがどこか遠く聞こえた。
夏目は私の初恋の人だった。同時に私の親友だった。
初めて会ったのは中学生の頃。長いストレートの黒髪はセーラー服によく映えとてもかわいかった。一目惚れだった。友達になれたのは隣の席だったからだ。私はとても運が良かった。
高校も一緒の学校に通った。リボンのついたブレザーも夏目はとても似合ってた。
夏目とは大学は離れてしまったが連絡をとって時々会ってはいたけど仕事を始めてからはあんまり交流できなくなってしまった。
私が最後夏目に会ったのは去年のことだ。たしか夏頃に久しぶりに仕事の休みが被ったから遊ぼうってなった。夏目は花柄のワンピースを着てきて大人っぽい色気の中に可愛らしさがあってドキッとした。昼頃だったので近くのカフェに入り各々好きなものを頼み、食べながら近況の話になった。
「優花は恋人できた?」
思わずジュースを吹き出しそうになった。そのとき丁度1週間前にできたばかりだったからだ。趣味友達の朝陽という明るくて優しい男の人である。
「できた…よ。」
「ほんと!?どんな人?」
夏目は身を乗り出して聞いてきた。気恥ずかしくて言いづらかったが恋人になった経緯をざっくり話すと夏目は微笑んだ。
「良い人そうだね。安心だ。」
「そういう夏目はどうなの?」
思わず聞いてしまったがあんまり答えを知りたくない気もした。
「私?私はね…。」
意味深に間を置いて私を見つめた。はっきりとした二重の大きな瞳に見つめられてドクンドクンと心臓がうるさい。
「なーんか上手くいかないんだよねえ〜。」
「えっ!そうなの?」
「うん、『お前、俺より好きなやついるだろ』って言われてフラれた。で、この前付き合った人にも同じこと言われた。」
夏目は不服そうにふくれっ面をしてからジュースを飲む。
「前も言ってたよね、実際にどうなの?」
「いるよ、好きな人。」
「ほんと?」
「ほんと。」
夏目はジュースを見つめながら言った。私は誰だろうと思いながらなんとなく嫌な思いが疼く。それをなんとか抑えながら次の言葉を待った。
「ずっと好きなの。」
「告白できないの?」
「うん。」
夏目が告白できないってどんな人だろうとまた考えても脳がそれを拒否してよく考えられない。夏目は聞こえるか聞こえないかくらいかの声で呟く。
「私が男だったらなあ。」
夏目には幼馴染の女の子がいた。
真紀という名前の子で大人しく静かな女の子だった。
中学の頃、夏目を通して真紀を知った。夏目と真紀はべたべたはしないが信頼し合ってる感じがしてとてもうらやましかった。
真紀は別クラスだったが登下校は夏目と一緒のため3人でよく行きや帰りを共にすることが多かった。真紀は聞き上手で話しやすかった。そのおかげもあって3人で話してても苦痛に感じることはなかった。
夏目はストーカーに殺されたらしい。自分のものにならない夏目を恨んだらしい。
電話口で夏目の死を知らせてくれた真紀はポツリと言った。
「いつか夏目は言ってたな。『私が男だったら優花と付き合いたかったな。』って。」
初恋と追憶 おきた狂 @Soms-05
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