想いは音を強くする
@12umizumi
第1話
坂を登ると女子校、坂を降ると男子校。一山一帯が学校と付属した教会になっている。
坂を登った東嶺学院女子高等部に通う金村 優香は、入学してから最大のピンチに見舞われていた。
「なんで!?男子と関わらずに中高過ごせると思ってたのに!?」
高校三年の九月、大学は推薦で決まっているため残りの高校生活を謳歌しようと思っていたが、オーケストラ部顧問の言葉に驚きの声を上げると共に、大声で騒ぐしかなかった。
「先生、クリスマスミサで男子部とヴァイオリン弾いてって、お願いしただけよ?」
「男子部とって言うのがおかしいんですよ!!去年も一昨年もどっちかからしか出てないじゃないですか!!」
クリスマスミサの時に、女子部と男子部、引退したどちらかのオーケストラ部の部員が聖歌を演奏するのは知っていた。先輩達も演奏していたからだ。
しかし、例年は男子部・女子部のどちらかだけでの演奏だったはず。
「今年のオケ部、みんなセンター国立狙いらしいのよ」
だから金村さんと男子部の一人しか都合つかないみたいなのよね〜、と言って顧問は楽譜をヒラヒラさせた。
「あー……確かにみんなセンター受けるって言ってました……」
「そういう事だから、これ譜面とシスターとの打ち合わせ時間ね」
優香は顧問から楽譜とメモを受け取ると、音楽準備室を後にした。
久々に音楽室で練習しようと思っていたのに、それどころじゃなくなったわ……。
音楽室で殆ど空に近い通学鞄に楽譜を入れ、楽器を持って聖堂へ向かう。譜読みをするなら、周りに音が無い方が良い。
聖堂は女子部と男子部、どちらも使用出来る為、中間部分に建っている。男女合同でミサを行なう事は無いが、クリスマスミサのみ、どちらかのオーケストラ部の生徒が聖歌を演奏することになっている。
「ツイてないなー」
優香は校舎から出て、木陰にあるレンガ敷きの小径を歩く。
創立者の意向なのか、聖堂まではレンガ敷きの小路、聖堂の前は小さな薔薇園になっている。今の時期は、薔薇は咲いていないので写真部や美術部もいないだろう。
願わくば、相手が良い人であること!!
「よいしょっと」
そんなことを願いながら聖堂の扉を開ける。
入口から中を覗くと思った通り、誰も居ない。優香は普段から譜読みの度に使っている右ブロックの前から五列目の席に荷物を置いた。
譜読みを始める前に、マリア様にお祈りしないと。
中学から六年間、習慣付いたお祈りを行なうと共に、少しの間聖堂を借りる事をマリア様に伝えた。
席に戻ってから、楽譜を開いて書見台に置く。
「曲目は……あめのみつかいの……?」
ふーんふんふんふーん、と音符を辿っていく。元々、聖歌集に載っている曲でも、聴けばわかるが題名だけ見てもパッとわからないのが聖歌である。
「あー、ぐろーーーーーーりあ!か」
よかった、割と好きな曲だ。ファーストセカンドと一応両方とも読んでおかないと。
シスターが編曲したのか神父様が編曲したのかは分からないが、三番まである曲の中にグロリアの部分をアレンジしたそれぞれのソロが入っている。それも、パッと見て結構難しい……。
「ファーストセカンド、どっち取っても難しいな、これ……」
優香の呟きはステンドグラスから入ってくる光に溶けて消えていった。
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