大好きな君へ

@ss9

第1話

 君と結ばれたい。僕のこの想いが君に迷惑をかけるだけなのはわかっていた。ただ、僕は君と一緒にいたかった……


 君のことを好きになったあの日からずっと……


 君と僕の始まりは、中学に入る前の春休み、君が隣の家に越してきたあの日が始まりだったね。その頃の君は、どこか儚げで今にも消えてしまうんじゃないかと思うほど、どこか虚(うつろ)だった。


 僕の部屋と君の部屋は、大人が手を伸ばせば届くんじゃないかって程に近かった。


 そんな僕の部屋から見えた君は、休みだって言うのに大人が部屋に来て何かを教わっていたね。


 最初は、興味本位だったんだ。どこか虚なのに必死で勉強する君が不思議でしょうがなかった。


 君は、いつも勉強や習い事で忙しそうにしているのに決まって、日曜日だけはベッドの上でぼーっとしている時があったね。


 僕は、興味本位で君に話しかけた。


 初めは、驚いていた君だったが、何度も話しかけるうちに、相手をしてくれるようになったね。


 しばらくは、僕の話を聞いてくれるだけだったね。でも、馬鹿にしたりせずに、ちゃんと話を聞いてくれたね。


 そのうち、話すことがなくなってくると、君ともっと話したい僕は、小学校で最後のテストで0点とってお母さんにおやつを食べさせてもらえなかった。とか、どうでもいいようなことを話したね。


 でも、君は決まって僕の恥ずかしい話で笑ってくれるから、僕は、仕事帰りのお父さんの足が臭い!話やお母さんがおやつの食べ過ぎで、少し前まで履けていたズボンが履けなくなった話をしたね。


 普段、虚な瞳の君が、僕のどうでもいい話の時は、瞳に光が差し込んだように温かな瞳と笑顔で話を聞いてくれたね。その笑顔は、僕には眩しすぎてドキドキしてしまったよ。それを誤魔化(ごまかす)すために一緒に笑ったんだ。


 君を笑顔にできたことは、勉強ができなくて親や先生に怒られてばかりだった僕にはとても誇らしかった。


 そのうち、君の方からも話をしてくれるようになったね。君が僕に話してくれるようになってからは君の部屋にあるバルコニーで話すようになったね。


 君の家が昔からの名家だと言うこと、家を守るために優秀な男と結婚する。そのために、厳しい教育をされていること、日曜日だけは何もなくベッドでぼーっとするのが心が落ち着くこと。


 それまでは、僕が話す方だったのに、僕が話を聞くようになったね。


 でも、僕は君のことが知れてとても嬉しかった。


 僕の前でだけ見せてくれる。話の度に怒ったり、笑ったり、泣きそうになったり、時にちょっと泣いたりとコロコロ変わる君の感情豊かな表情……話の度に感情に揺さぶられるように激しく動いたりする手……夕日に照らされて綺麗な君の黒髪。


 君を知る度に君を抱きしめて離したくないと思ってしまう。その頃の幼い僕にはその気持ちの正体がなんなのか分からなかった。


 そんな君との春休みが終わり、中学の入学式で君を見かけた時は驚いた。


 入学式は日曜日だったから、家に帰って君と話をしたね。


 君は、僕を驚かすために黙ってたのとニコニコながら話してくれたね。


 君は、入学式での僕の驚いた顔を思い出して笑ってたね。そんな君に釣られて僕も笑った。


 その後も、日が暮れるまでどんな中学生活になるか2人でわくわくしながら話したね。


 学校では、お互いに本を読んだり、別の友達と遊んだりとあまり話さなかったね。


 たまに、お互いに廊下ですれ違った時にノートの切れ端にメッセージを書いてやりとりして、昼休みに2人でこっそり屋上で話したね。決まって、すれ違う時に他の人にバレなかったかなとドキドキしながらも、ワクワクしたように話し合ったね。


 中学に入って一年経つと、受験を意識して勉強する人が増えたね。


 君もより一層勉強するようになったね。体を壊さないか心配だったよ。


 君と進路について話すことがあったね。その時の君はあの頃のような虚な瞳に戻ってしまったね。どうしたの?と尋ねると、君は親に言われたことを話してくれたね。


 君の婚約相手が決まったこと、その相手はある企業で社長を務める一族の後継者、婚約者として恥にならないようにさらに習い事に力を入れなさいと言われたこと。


 僕は、婚約者と聞いて胸にもやっとしたものを感じた。


 その日を最後に君は日曜日も習い事で忙しくなったね。


 でも、学校ではノートの切れ端を廊下ですれ違う時にこっそり渡しあったね。


 普段は虚な瞳に戻ってしまったが、ノートの切れ端の中では、あの2人で話をした時のようにいろんな表情を見せてくれたね。


 この頃からだったと思う、自分がどれだけ君に心惹かれていたのか自覚し始めたのは……


 中学を卒業する前の日に、久しぶりに君と話したね。


 中学に入る前に君が隣に越してきたこと、僕が話しかけて驚いたと同時に嬉しかったこと、中学でのノートの切れ端でやりとりをしたこと、進路の話をしたこと。


 思い出すときりがない。


 そんな日々を思い出していると、君は泣き出してしまったね。僕と離れたくない!一緒にいたいと!


 僕はただ一言、大丈夫!と君を抱きしめたね。


 君を驚かせるために言ってなかったけど、君と同じ学校に合格することができたんだ!と伝えたら、君は嬉しさのあまり泣き出してしまったね。

 

 君が嬉しさのあまりに泣き出してしまったことには驚いたけど、君が喜んでくれて僕はとても嬉しかったよ。


 次の日、無事に中学を卒業した僕と君は、進学準備などで話すことがなくなったね。


 春休みが終わり、入学式。


 僕は君にノートの切れ端におめでとう!と書いて渡したね。


 君もその時に同じ内容のことを切れ端に書いて渡してくれたね。


 お互いに内容が同じだったことが嬉しくて笑い合ったね。


 高校に進学してからは、お互いに勉強が忙しくてなかなか話せなかったけど、たまに君とノートの切れ端でのやり取りは、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。


 お互いに勉強も頑張りすぎて学年のランキングで1位と2位を独占したこともあったね。


  たまにだったけど、日曜日に話せる時があったね。


 あの頃みたいに、僕にだけ見せてくれる君のコロコロ変わる表情と感情に揺さぶられるように動く手を見て、君が愛おしくてたまらなくなってしまい、中学の卒業式前日のように抱きしめてしまったね。


 最初は、驚いていた君も抱きしめ返してくれたね。


 君を抱きしめていると、ふいに君の婚約者の話を思い出してしまう。君はいつか僕の知らない誰かのもとに行ってしまう。こんなにも愛おしくてたまらない君が僕じゃない誰かのもとに行ってしまうのかと思うと……


 君には見せたことがなかったけど、涙が止まらなかった。


 この想いが、君に迷惑をかけるとわかっていた僕は、君への想いをそっと心の奥にしまい込んだ。


 それでも、君への想いは、日に日に強まってしまう。


 だめだとわかっているのに!諦めなければいけないとわかっているのに!君に迷惑をかけてしまうと分かっているのに我慢ができなかった。


 ある日曜日の日に、君と話した時に不意に気持ちを口にしてしまったね。


 君は、困ったように、でも、嬉しいと笑ってくれたね。


 私もずっとずっと好きだったのと僕に教えてくれたね。


 お互いに抱きしめあってキスをしたね。


 でも、お互いに結ばれないことはわかっていた。


 その現実に、引き剥がされないように、一層お互いを抱きしめあったね。

 

 そこから僕はさらに勉強をするようになったんだ。君にふさわしい相手と認められるために。


 その甲斐もあって、全国模試で1位をとることができたね。


 これから、認められるためにさらに頑張っていこうと思った矢先に、君が退学することになった。


 なぜ?と君に聞いても教えてくれなかったね。


 先生に聞いたら、婚約者と結婚することになったからと教えてくれた。


 そのことを聞いて、他の人の視線など気にせず、君の手をとって屋上まで行ったね。


 僕は、先生から退学の理由を聞いたことや伝えたね。


 そのことを聞いた君は泣き出してしまったね。


そんな君を僕は抱きしめた。


君は僕の腕の中で、自分もどうしたらよかったのかわからなかったこと。


 君が僕に出会うまでの人生は、親に言われたことをただこなすだけの空虚なものだったこと。


 将来は、家のために会ったこともないような人と結婚して、子供を産むだけの人生になるはずだったこと。


 本当は、ずっと僕と一緒にいたいことを話してくれた。


 気持ちを全てさらけ出すと彼女はまた泣き出してしまう。


 僕はそんな君を強く抱きしめてしまったね。強く抱きしめてしまってごめんね。


 君は「痛くなかったよ。とても嬉しかった」と笑顔で言ってくれたね。


 それから、僕と君はお互いにどれだけ愛おしくて離れたくないのか実感すると、お互いに手を握って覚悟を決めたね。


 そのまま、学校を飛び出して、君のお父さんが経営する会社に行ったね。


 いきなり行くのは、失礼なこととはわかっていたけど、今行かなかったら、この現実を変えることはできないと思った。


 会社の人は、君を見た途端にすぐにお父さんのところまで通してくれたね。


 僕と君は、顔をこわばらせながらも君のお父さんのいる部屋に入ったね。


 君のお父さんは僕と君が手を握っているのを見て、いろいろ察したのか、一言目から「だめだ!」と言われてしまったね。


 それでも、僕は「あなたの娘さんを誰よりも幸せにします。まだ、子供で何もできませんが、この会社を継げるくらい大きな男になります!だから、娘さんと結婚させてください!」


 当然、「何を言ってるんだ!お前が娘を幸せにできるはずがないだろう!それに、他人のお前が人の家のことに口出しするな!」

 

 と、その後もいろいろ言われたが、なにがあっても君を離さないと決めた僕は、認めてくれるまで何度もお願いをしたね。


 流石のお父さんも折れて条件付きで認めてくれたね。


 残りの学校生活で生徒会長になること、全国模試で1位をキープすること、卒業後は、我が社に入社し、自力で役員にまで昇進すること。


 どれも、楽なことばかりではなかったね。


 体を壊して倒れた時もあったね。


 君にはいっぱい心配かけたね。


 その甲斐あって、君を待たせてしまったけど29で結婚できたね。


 幸せだったな。君と過ごす日々はあっという間だった。


 初めてのデートの時は、お互い好きなことを自覚してしまい照れてしまって手が繋がなかったね。


 初めての旅行は、君の知らなかったいろんな顔が見られたな。


 君と結婚してからは、一緒にいられただけで幸せだったな。


 子供ができてからは、みんなで一緒に出かける買い物が1番楽しかった。


 子供が大きくなって入学式、卒業式のたびに君と出会った時や君と駆け抜けた学生時代をお互いに思い出して笑い合ったね。


 子供が大きくなるにつれ、君の両親とも仲良くなったね。


 君が、親と仲良く過ごしている今を思うと、過去の君に未来はとても明るくて幸せな日々が続いているよと教えてあげられたらなと思うな。


 子供が家を出てからは、再び君との2人の生活が始まったね。


 ちょっと歳をとってしまったけど、あの頃の気持ちは今も変わらず、君のことがずっと愛おしい。


 子供の結婚式では、恥ずかしながら私たちの昔話をされてしまい恥ずかしかったね。


 聞いてくれた人達からは、素敵!って言われたね。


 社長を引退してからは、若い頃みたいに君と旅行に出かけたり、一緒に買い物をしたり、家事をしたりとずっと2人で過ごせて幸せだったな。


 孫たちができてからは、君と2人で可愛いと夢中になってしまったね。


 君にガンが見つかった時は、君に婚約者ができたと聞いた時以上にどうしたらいいかわからなかった。


 でも、君はあの頃と変わらない笑顔で大丈夫!あなたがいるから私はとても幸せだから!と言ってくれたね。


 この幸せな日々はいつか終わってしまうと思うと……


 涙が止まらないけど、君が笑ってくれるなら僕もとても幸せだ。


 君はがんによって全身が痛いはずなのにいつもあの頃と変わらない笑顔を見せてくれたね。


 病室で君と2人きりで話す瞬間は、あの頃に戻ったみたいに楽しかった。


 それでも、最後は来てしまった。


 君は、最後まで笑顔を見せてくれたね。最後に君は、「先に行くけど、すぐに後を追って来ないでね。まだもう少し長く生きてあっちに来た時にいっぱい話を聞かせて」と言って君は息を引き取ったね。


 君と過ごした日々は昨日のことのように覚えているよ。


 ダイヤモンドやサファイアのような宝石よりも綺麗で大事な僕の宝物なんだ……


 僕と出会って一緒に生きてくれてありがとう……


 君は、幸せにしてくれてありがとうって言ってくれたけど、違うんだ、僕の方が君に出会えて幸せにしてもらったんだ!


 僕は君に出会わなければ普通の幸せしか送らなかったと思う。君に出会えたから最高に幸せな日々を送ることができたんだ!君以上の存在なんて考えられない!


 長くなってしまったけど、本当に本当に僕と一緒に生きてくれてありがとう!そっちに行くまで少し待たせるけど、面白い話をいっぱい持っていくから待っててね。


 皆さんも何気なく送っている日常でも何があって失われるかわかりません。どうか、周りの人に感謝を忘れず、1日1日を大切に過ごしてください。


                           以上

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