普通じゃない高校生の普通の恋愛物語
小林六話
第1話 初デートの待ち合わせ
例えば、林間学校の夜に呼び出したくせに、先生に見つかりそうになるとイオを囮にして逃げるとか、一緒に遊びに行ったとき、自分より強い人、または年上の人にイオが声をかけられれば守るどころか差し出すような真似をしたりとか、女子の可愛い子ランキングを自由帳に書いて隠すのを疎かにし、そのランキングを見た女子に冷たい目で見られるとか、その件に関しても男子の言動はイオが不利になることばかりだとか、とにかく良い思い出はゼロに等しい。それどころか、男子はいざとなれば、逃げる。そんな偏見までも植え付けてしまった。
それでもドラマのような恋に憧れる女の子だったから、デートに誘われれば嬉しかった。今度こそは漫画のような素敵なことが起こると期待しては打ち砕かれる。その繰り返しでイオは男子が嫌いになった。
そんな彼女が恋をした。中学三年生の頃である。相手は最も苦手な存在で面と向かって嫌いだとまで言った
そんな彼女は中学校の卒業式に告白し、見事シンスケと恋人同士になれた。
そして、ここからが本題である。
「どんな情報でもいいの!教えて!」
『いや、イオちゃん?あたしは情報屋じゃないのよ?』
電話越しの友達であるヒロの声にイオは服の山にダイブした。
「初デートだもん。可愛いって言われたいじゃん!」
そう、明日、イオはシンスケとの初デートの約束をしている。
『今までも何回か、デートしてきたんでしょ?イオの方が経験豊富じゃん。よっ、おませ小学生!』
「からかわないでよ。デートはしてきたけど、こんなにも緊張するデートは初めてなの!」
イオは起き上がり、もう一度服を漁り始める。
「ヒロ、シンスケと仲が良いじゃない?何か言ってなかった?好きな女の子のタイプとか、洋服の好みとか」
『えぇー?シンスケの好みって、イオ、あたしらはそんな話したことないよ。恋バナとか全くしないし。ていうか、そういうのって普通男子の間でするもんしょ?』
「ヒロだったら知っているかなって」
『あのね、イオちゃん。あたしも女子なんよ?男子だけの集いに単独参戦する勇気はないよ』
「そっかぁ、残念」
『でも、シンスケのことだもん。どんなイオでも可愛いって言ってくれるって。全く君達はそんなことで悩んでちゃ、勿体ないよ』
「そうかなぁ?」
『そうそう、イオの中のベストイオちゃんで臨めばいいの』
「ヒロ・・・ありがと」
『いいってことよ。もし、あたしがデートするって未来がきたら相談にのってくれればね!』
「勿論よ!素敵な人に出会うことを本当に心から願っているわ」
『マジ願ってお願い!あたしの理想のタイプ!長髪美形キャラみたいな人に出会いたい!年上だとさらに魅力的!』
電話越しの懇願する声に、イオは微笑んだ。
イオは待ち合わせ時間の一時間前に着いていた。服装は悩みに悩んだ中、お気に入りのワンピースを着ることにし、メイクもしている。自分でも驚くくらいの気合の入れように恥ずかしくなり、髪型だけはいつもと同じにした。
「やっぱり、変かな?誰かに見てもらおうかな?」
イオは何度も鏡を見ては自分の顔をチェックした。何度見ても不安で、自撮りをして仲良しな女子のグループラインに送る。
「変って言われたら、即落とそう。まだ四十五分あるもの」
携帯を握り締めると、通知音がした。
ヒロ〈え、待って、美少女がおる〉
コウリ〈ナイスメイク!初デート、頑張れ~!〉
シズトリ〈可愛いと思う〉
ミクリ〈自信もって!可愛いわ〉
カナメ〈可愛い〉
続々と送られてくる友達の言葉にイオは胸を撫でおろした。大好きな友達に背中を押され、イオは腕時計と睨めっこをした。あと、四十分、あと、三十九分、あと、三十八分、三十七分、三十六分、三十五分。ひたすら時計の針が動くさまを見続けるイオは傍から見たらかなり異様なのだろう。美少女に声をかける強者はいなかった。
「イオ、そんなに見ると、時計が壊れちゃわない?」
ずっと聞きたかった声が聞こえ、イオは思いっきり顔を上げた。
「おはよ」
シンスケはニカッと笑った。イオの大好きな笑顔だ。
「お、おはよ。シンスケ、早いね」
「そう?イオの方が早いじゃない。結構待った?」
「ううん。大丈夫、時計見てたから」
「うん、知っている。凄い見てたね」
イオは顔を赤くしながらシンスケを見る。ラフな格好をしているが、初めての私服にイオは嬉しさしか感じなかった。
「あ、ごめん。俺、服とかあんまり持っていなくて、これでも新しくて良い服選んだつもりなんだけど」
シンスケは黙って見つめるイオに必死で弁明する。イオはシンスケと同じくらい必死で首を振った。
「ううん!かっこいいよ、シンスケは背が高いし、スタイルはいいし、笑顔素敵だし、かっこいいし、あと、スタイルいいから!」
シンスケはイオの言葉に顔を赤くする。
「そ、そっか。ありがと、イオも今日、凄く可愛いよ」
「あ、ありがとう!」
ずっと欲しかった言葉にイオは満面の笑みで答えた。
シンスケの顔は青ざめていた。明日は生まれて初めてできた彼女との初デートである。
「どうしよう!」
『いや、あのさ、明らかに人選ミスだと思わないの?』
「ヒロなら何か知っているかと」
『情報屋じゃないのよ、あたしは』
「何でもいい!何かいい情報はないか?イオの好みとか!俺の持っている服でできるやつ!」
『いや、シンスケの服なんか知らないよ!』
「だよなぁ、これならもっとおしゃれとか勉強しときゃ、よかった」
『肩を落とすでないよ、自信をお持ち。お前ならできる』
「ヒロ、電話を切ろうとしていないよな?」
『そんなわけないじゃん、友達じゃん。あたしのこと信じてほしいじゃん』
「口調変だぞ、絶対切ろうとしただろ」
『とにかく!イオはシンスケにベタ惚れなんだから、どんな格好をしようが、かっこいいって思ってくれるよ!シンスケだって、どんなイオだろうと、可愛いでしょ?』
「それはそうだけど」
『自分の中の最高記録なシンスケで行けば問題なし!じゃっ』
「えっ、終わり?」
『うん。女神があたしを呼んでいる。じゃっ』
本当に切れた電話にシンスケは肩を落とした。
とりあえずベストは尽くしたシンスケは待ち合わせ場所で腕時計に喧嘩を売っているイオを見つけた。
「えっ、早くね?」
腕時計を見ればまだまだ時間に余裕はある。シンスケは胸に手を当て、深く深呼吸した。
「緊張しているとかっこ悪いからな、いつも通りに」
そう言って彼は未だに腕時計を睨むイオの元に行った。
待ち合わせ場所で微笑み合うカップルを遠くで見つめる男女がいた。
「ほら見てみろや、やっぱりどんな格好でも成功じゃん?」
雑誌で顔を隠しながら、ヒロはイオ達を見つめる。
「ヒロ、覗きはよくないよ」
そんな彼女と向き合って座る少年、レオが呆れたように微笑んだ。
「いやいや、だってあの二人昨日同じことで悩んであたしに電話してきたんだよ?心配じゃん」
「それに、何で俺もここにいるわけ?」
レオは頬杖をついてヒロを見る。その微笑みには少し怒気が見える。
「だって、初デートの待ち合わせを見届けたら、買い物付き合ってほしいんだもん」
「買い物?何で俺?」
「そりゃ」
ヒロはレオと向き合って微笑んだ。
「引きが良いから」
「は?」
「レオが一番推しグッズを引いてくれるから。今日発売のラバーストラップがあるの」
「まさかとは思うけど、そのためだけに俺を呼んだの?」
「うん、だって、レオは来てくれるじゃん?流石元ヤン優男!」
「余計なことを言うな」
レオはヒロの頬を引っ張る。
「いてて、ごめんて」
気が済んだのか、レオはヒロを解放してため息をついた。
「で?誰が欲しいの?」
「流石レオ!実はさ」
嬉しそうに話すヒロを見て、レオは仕方ないといった様子で微笑むのだった。
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